小野さんの長州ジビエ

天然の恵みであるジビエ。命への感謝する気持ちとともに
ジビエの美味しさを多くの人に知ってもらいたいと、
静食品(株)社長の小野康行さん(67歳)は西へ東へと熱中行脚。

この記事は、2017年1月発行の「やまぐち食べる通信」第六号からの抜粋です。

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粗末にしない、生態系のバランスを保ち、共生する

中国山地の西端の山々に囲まれた下関市豊田町。豊かな自然が残るホタルの里でもある。この里山にシカやイノシシなど鳥獣被害に悩む下関市が、平成25年、下関市豊田農業公園に設立したのが「みのりの丘ジビエセンター」である。小野さんは市の指定管理者としてこのセンターの運営をまかされた。一昨年の市内の害獣による被害額は約1億5千万円。その中で、シカ、イノシシによる被害は8割を占める。日本全国、害獣による農作物被害は深刻化しているが、その対策としてジビエの活用で地域の活性化を計っている自治体が急増している。

小野さんが率いる静食品は、元々は和牛を専門とする皇室御用達企業だった。水産を学ぶために福岡県から下関にやって来た小野さんだったが、卒業後の就職先は食肉業界。人がやっていないことをやりたくなる性格で、ジビエもそうだった。

「ジビエは十数年前から食肉としての可能性を感じ、また農業被害が深刻化するのも懸念し、製造販売ができないか保健所に足繁く通いました」目の付けどころは良かったが、ジビエ販売そのものは、当初相当な苦戦を強いられた。メディアではブームのようにいわれたジビエだったが、スーパーではまったく売れない。その要因に臭くて硬いという日本人の誤ったジビエのイメージがあった。これを払拭させなければ販路開拓はできない。「正規に処理を行って、ジビエのレベルアップを図る。それが一番の普及ポイント。まずはジビエの美味しさを知ってもらわなければ」と小野さんは考えた。

まず、臭いもない良質なジビエ商品を製造する仕組みを構築した。同センターと狩猟者との間に捕獲後、血抜きをして2時間以内にセンターへ持ち込む等のガイドラインを設けた。今、現在は主たる捕獲者は猟友会(狩猟の適正化を基本活動とする団体)の地元組織「ジビエ活用捕獲隊」だが、個人の持ち込みも少しずつ増えてきている。シカやイノシシが持ち込まれると、高圧洗浄機で土や泥が付いた毛や皮を洗い、手早く解体。解体中は水道水で洗浄をよく行い、部位に切り分けた直後は殺菌水にさっと漬ける。肉は真空パックにして金属探知機で銃弾が残っていないかを確認後、高性能の瞬間冷凍機で冷凍する。スピードと衛生管理が命のラインだ。

次に大事なことは、ジビエの美味しさをどうやって伝えるか。小野さんは食肉だけでは販売に限りが出てくると考え、誰もが食べやすいようにハムやソーセージといった加工品を製造した。そして、ジビエの美味しさを知ってもらおうと、地元や東京での物産展などに参画して、まずは食べてもらおうと商品の試食を行った。こうした製造販売の活動も実を結び始め、東京の料理人たちやネットショップの間で実績が出てきた。清潔で臭いもなく、価格もリーズナブルと高評価だ。また、シカ肉とイノシシ肉にそれぞれ含まれている成分や効果が高く、ジビエ料理のヘルシーさが受け、今は特に女性に人気があるのも後押しになっている。

小野さんは現在、ジビエを地元ブランドとしての確立を目指し「長州ジビエ」の商標出願中である。「適正値にしたいだけで、ジビエを獲り尽そうとしているのではない。また獲ったら破棄ではなく、日本人が元来持ち合わせる、粗末にしない、万物に感謝をするという思いでジビエを食す。そして、生態系のバランスを保ち、共生するために私たちはやっていきたい」。究極の天然物であるジビエ。余すことなく、生命に感謝していただくことを教えてもらった。

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ジビエセンターのある豊田農業公園のみのりの丘。農業/加工体験施設、特産品販売所、レストラン、宿泊施設など複合的な施設が並ぶ。

静食品株式会社
一般食肉の卸販売をはじめ、オリジナルの和牛100% ウインナーや手作りハム製造販売、ジビエのハム、ソーセージ商品などを製造販売している。
山口県下関市椋野町3-13-18  http://shizuka.jp/index.html

#006 (2017年1月)長州ジビエ #静食品

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