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今も忘れない【短編小説】

……今も忘れない……

そんな思い出がある人は人生が豊かであった証拠だ

楽しかったこと、辛かったこと

忘れられない思い出は人それぞれ

それでも

こんなことがあったんだ

そう飲みの席で話せるような

そんな思い出があるだけ豊かなのだ

私は人からドライな人だと言われる

感情がないのではないか?

そう言われたことも一回や二回ではない

良く言えば真面目

悪く言えば堅物

それが私の生きてきた60年の人生

真面目に勉強して大学を出て

真面目に会社に勤めて

真面目に出世をして

真面目にお見合いで結婚

そして今日、晴れて定年退職……

私はこれから何をしたら良いのだろう

真面目に生きるのは簡単だ

定年までの真面目なルートは誰でも知っている

でも定年を迎えたあとの真面目な生き方は
どんなドラマでも小説でも見たことがない

ニュースでやってる
元気なおじいちゃんを演じれば良いのか?

……今更愛想振りまくなんて出来ない

ドラマとかでよく見る
頑固ジジイにでもなれば良いのか?

……そんな周りに迷惑かけるようなことしたくない

昔の思い出を孫や若い人に話したがるおじいさんになれば良いのか?

……語れるような大きな思い出が私にはない


そう、何もないのだ……

真面目は馬鹿を見る

虚しいがその通りかもしれない……

「真面目に生きて私は何を得たのだろう……」

「私…じゃダメですか、あなた」

「聞いていたのか……」

「ふふっ、だってあなたのセンチメンタルな顔なんて久しぶりに見たんですもの」

「そんな顔していたか…」

「えぇ、帰ってきてからずっと…
縁側で黄昏てるあなたをこんな近くで見ていた私に気付かないくらいずっとですよ」

「すまない、心配をかけた……
ただ私は人生で何を
成し遂げ得たのだろうと思ってな。
私の人生には大きな出来事も大きな幸せも
何もなかったのだよ」

「………相変わらずあなたは馬鹿ですね」

「ん……どういう意味だ」

「私はあなたと違って大きな出来事も幸せも
人生でたくさんありますよ」

「まあお前は昔から何かと楽しそうだったからな……友達も多かったし……」

「初めてのお見合い、初めてのデート、初めての喧嘩、初めてのプレゼント、初めての同棲、初めての子供、初めての……」

「待て……それって全部…」

「えぇ、私の大きな幸せな出来事には
全てあなたが隣に居ました
でも、おかしいですね?
私よりあなたが大きな幸せの数が少ないなんて」

「それは……大きなことでもないだろ……
お前は私といたから幸せだったんじゃない。
自ら幸せになることに長けていただけだ」

「フフッその幸せになるのが上手い私が
一生幸せでいるために
選んだ相手が目の前に居ますよ」

「………お前はこんな馬鹿真面目な男の隣に
居たから幸せになれたと言うのか……?」

「えぇ、そしてこれからはあなたとの
幸せな老後が待っています」

「幸せな老後……」

「だからこんなものは捨てちゃいますよ?」

「……いつの間に…」

「フフッ今更私と離婚しようなんて
本当馬鹿なお人……」

「子供はもちろん、孫だって高校生だ。
老後くらいお前を自由にしてやろうとだな……」

「本当面倒なおじいちゃんですね。
今更あなたがいない生活なんて…
調子くるっちゃいますよ」

「……そっちこそ…本当物好きなばあさんだよ……
でも……どうやら私にもお前が必要らしい……」


……今も忘れない……

小さな小さな

私達にとっては

とてもとても大きい

大切な2人の思い出を、これからも

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