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日本人よ、反省せよ。―台湾選挙から見えてくるもの。

2020年1月11日。

お隣台湾では、総統(大統領)選挙と立法委員(議会)選挙が行われ、現職の蔡英文が800万を超える歴史上最多の得票数で勝利しました。
さて、台湾の総統といえば、日本人からすれば、Twitterで見かけるくらいでしょうか?よく日本語でツイートする、台湾初の女性の総統といったイメージくらいでしょう。

彼女が戦った相手は、国民党の韓国瑜候補です。ハゲていて親しみやすく、野菜を売る会社の社長さんをやっていたことから「八百屋さんが庶民の総統に!」というキャッチフレーズ、そして、聞きやすいスピーチと人々に訴えかける巧みな話術で「台湾のトランプ」と呼ばれるポピュリストでもありました。

さて。みなさんがなぜ「反省しなければならない」のか。
それは、台湾という複雑な「非公式国家」に渦巻く多数の要素があるからです。
今回、私は、「台湾好き!」と手放しに褒める人々が現実に向き合ってほしいので、文章を書くことにします。

台湾は国なのか?

簡単に言えば、日本は台湾を国とは認めていないですし、正式な国交もありません。

その要因には、台湾と中国はそれぞれ「一つの中国」という問題があり、台湾も、以前は国連の代表は中国なのか、台湾なのか?と争った時期がありました。
台湾は、1949年に国共内戦で敗れた国民党が台北に遷都して「仮住まい」しているというのが本来のスタンスであり、その正式名称は「中華民国」です。
それによって、台湾では台湾にもともと住んでいる人々と、台湾に新しくやってきた人々の衝突が生まれることになりました。それこそが、台湾島の悲哀であり、台湾人が苦しんだことでもあります。彼らのアイデンティティは「中国」と「台湾」に揺れることになりました。この問題は、非常に複雑で今回の文章では書ききれないので、いずれnoteに投稿したいと思います。

結果として、アメリカや日本、その他主要国家とも国交を断絶し、国連の代表権が中国に移動した後、台湾は国家として認められないこととなりました。日本の中国との国交樹立の時期やニクソン・ショックから考えれば台湾は1970年代まで多くの国と国交があったということです。

しかし、現在は、中国による「一つの中国」により、台湾は中国の領土であり、いずれ統一しなければならない存在として扱われています。よく理解されていないかもしれませんが、香港やマカオの「一国二制度」は、台湾を中国に組み入れるための安心させる要素です。さらに、昨年1月には習近平が「台湾との統一に向けて武力攻撃も辞さない」といった強烈な声明を発表しています。

長くなってしまいましたが、台湾は世界的にも国家と認められておらず、日本は台湾と関係を築くに当たり、毎度中国の顔を伺わなければなくなりました。そのいい例が東日本大震災といった災害支援です。

国家として認められないことは何が問題なの?

それでも、台湾には、領土・人民・主権の三要素が存在します!おそらく中学・高校で一度は耳にしたことがあるであろう国家の三要素です。

台湾は台湾の中でしっかりとした自治が完成しており、中国の指示を仰ぐということはありません。(ただし、現在は、政党の政治家やテレビ局、SNSがチャイナ・マネーによって動かされているという事案が横行しているので問題となっています。。。)

しかし、世界的には認められていないのです。それでは何が起こるでしょうか?

1つ目は、国交がないことで、多くの国は台湾は中国の一部だと認めているということです。これにより、もしも中国と台湾が戦争(或いは一方的な台湾に対する攻撃)が発生しても中国側からの「内戦干渉だ」に対応することは難しくなります。台湾は地理的にも日本やアメリカの安全保障の要衝でもありますから、当然問題になります。

2つ目が、皆さんに知ってほしいことです。
台湾には世界遺産がありません。
日本からくる観光客の多くは九份やら台北101やら士林やらに足を運ぶとおもいますが、台湾には自然遺産・歴史的な遺産もたくさんあります。しかしそれらは、国連に認められていないが故に、国家による文化財保護のみでなりたっているわけです。

そして3つ目が、台湾人のアイデンティティがなおさら複雑化することです。
私達日本人は、日本という列島が一つの国家であり、それ以上でもそれ以下でもないのでイメージが湧きづらいかもしれませんが、アジアには分断国家が複数存在しますね。もともと16の原住民と3種類の漢民族を抱える台湾人は複雑なのにも関わらず、彼らは何人と自分たちのことを定義すればいいのでしょうか。

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このグラフは、台湾の国立政治大學が毎年調査を行っている自分たちのアイデンティティはなにか?という世論調査です。緑が台湾人、青が中国人、そしてピンクが、「中国人であり、台湾人である」というデュアルアイデンティティです。
グラフによれば、特に2008年に台湾アイデンティティが急激に上昇していることがわかります。しかし、それ以前はデュアルアイデンティティが大多数を占めており、その複雑さが理解できるかと思います。この台湾人意識の高まりは、若者を始めとする世代は、「台湾は台湾」として育ってきたことにあります。
もっと言えば、日清戦争以降、台湾は日本であり、1945年から突如中華民国となり、台湾語を話すことも禁止され、「中国化」政策が進められたのです。そして30年ほど前からやっと民主化により、台湾本来のアイデンティティや言語・文化にもスポットライトが当たるようになりました。

ぜひ、興味がある方は、この映画を見てみてほしいなと思います。

私達日本人は、当たり前のように国家を感じ、なんとなく日本人であり、なんとなく日本人すごいんだろうな、と思っていますね。
私の友人の台湾人は、自分たちを「台湾人だ!」ということも難しい時期まであったのです。なんと辛いことでしょうか。

台湾の選挙を見て、日本人でいることが恥ずかしくなった

さて、本文冒頭に、先日台湾で選挙が行われた話をしました。みなさんは、台湾の投票率がどれくらいだと思いますか?
国のリーダーを国民が直接選ぶことができるため、日本より話題性も注目度も段違いだろう、という反対意見も承知ですが、台湾の先回の投票率は、74.9%でした。議会の選挙も同じくらいです。

更に驚くべきは、台湾には期日前投票がなく、投票時間も8時から16時までであり、自分の本籍でしか投票できない。ということです。

それでも、74%の投票率が出るなんて、驚異的ではありませんか。その日に仕事がある人は投票できないのですから。

日本を振り返りましょうか。いえ、言わなくても分かるでしょう。
私の地元、埼玉県の県知事選なんて目も当てられない投票率でした。

選挙公報に「翔んで埼玉」を起用し、話題性をもたせたのにも関わらず、埼玉の投票率は、晴れていても、32.31%。もちろん地方選挙だから興味関心は比較的低いものですが、地方県知事は、私達が自らの力で県の首長を選べる大統領選挙スタイルだからこそ、悲しい限りです。

私達は、2週間前から投票できるのに。頑張って資料を取り寄せれば、一人暮らしして家元を離れていても投票できるのに。それでも、投票率は低いままなのです。

一票の大切さを感じさせる台湾

台湾の選挙の選挙方式は、日本とほぼ同じです。多くの研究者は比較の対象として日本を・或いは台湾を用いますし、「日本政治は台湾の写し鏡だ」と言われることまであります。

それでも、台湾の選挙のスタイルは全く違います。選挙ポスターの大きさは日本のような制限がなく、道端では大きすぎる看板や、コスプレ・加工をしまくったポスターを見かけます。

しかし、一番違うのは、選挙の集会でしょう。もちろん支持者や支持層にもよりますが、老若男女が集まり、ライブをしたり、みんながペンライト代わりにスマホのライトを振り、候補者に応えたり。すごい熱気です。10万人規模での集会は当たり前ですし、開票イベントはそれはそれはもう大盛りあがりです。

一番感動的なのは、テレビでの開票速報を見ながら、「私の一票よ!」と言わんばかりの大盛りあがりをすることです。そして、有権者がどこでも、だれでも、どの政党の支持者でも、民主主義バンザイと声を上げること。何より、「どの政党になってもこうして投票できることが価値あることなんだ!」と政党の代表者が言えることです。
家でもパブリック・ビューイングのように、お菓子とお酒を片手に、家族で開票番組を見るのだそうです。その開票番組も、日本のような選挙活動の裏側の報道ばかりではなく、その各選挙事務所の報道や、今回の選挙の争点・選挙の開票の様子などをリアルに感じさせるものです。

日本にある当たり前の民主主義ってなんだろう。
私達の「価値観を共有する」ってどういう意味なんだろう。

人が集まり、「民主主義を!」と叫ぶのがデモばかりの日本ってなんだろう。
デモは決して悪いことではないかもしれませんが、左右でなく、国家として民主主義を大切にできていないように思えてしまいます。
それは、現政権や野党に対する批判ではありません。国家の体質、世論、報道、全てに責任があることです。

今回のnoteは少し、専門的な内容になってしまいましたが、台湾に対して少し、考えを改めて貰えれば、幸いです。

そして、少しでも、選挙に行きたいなあ。と思ってもらえれば、嬉しいです。




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