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#映画感想文006『カツベン』(2019)

周防正行監督の映画『カツベン』を映画館で観てきた。

この映画には、繰り返し見たくなるようなかわいい場面がたくさんある。それこそ、チャップリン的な活動写真であるし、昔の映画のオマージュが散りばめられている。

主演の成田凌は今、最もキュートな役者さんだと思う。

高良健吾は、もはや向かうところ、敵なしといった感じだ。 佐藤正午原作の『身の上話(ドラマは『書店員ミチルの身の上話』)』で、気味の悪い青年、吉田修一原作の映画『横道世之介』では、ちょっと抜けた若者、映画『シン・ゴジラ』では若手官僚を演じている。私は彼のファンではないので、作品を欠かさず見ているわけではないのだが、脇役もできれば主演もできて、硬軟どちらも縦横無尽にやれる力量があるのだから、向こう十年安泰な役者さんといった印象である。『カツベン』では、悪役で意地悪な色男を演じているが、まったく違和感がなかった。

井上真央の意地悪なヤクザのお嬢さんも、何ともよかった。口紅の色の鮮やかさが印象的である。

そして、竹野内豊のへっぽこ刑事も味わい深い。竹野内豊はいつからこんなにまぬけな役がぴったりな役者さんになったのだろう。とてつもなくかわいい。終盤の成田凌との追っかけっこも、にこにしながら見てしまった。

私が驚いたのは、周防監督が、最後まで伝説の活動写真弁士である山岡秋声(永瀬正敏)を活躍させなかったことである。

アルコール中毒の山岡(永瀬正敏)の見せ場、活動弁士としての流麗な口上はいつなのだろう、と思って見ていたが、いつまでも、そんなものはなく、映画は終わってしまった。

おそらく、山岡秋声は、無声映画及び活動弁士の終焉の象徴として描かれている。だからこそ、無声映画の象徴である彼が息を吹き返すのは、そもそも、おかしなことなのである。現代の我々は無声映画など見ていない。なくなった職業の最後のスターが活躍しては辻褄があわない、ということなのだろう。山岡はずっと飲んだくれで復活などしない。無声映画が主流であったころ、活動弁士としての才能があり称賛を浴びていたが、終わりにも立ち会った人物という位置づけなのだ。無声映画の復活があり得ないことは自明なのだから、山岡が活躍するはずがないのである。終わる人として、山岡(永瀬正敏)はその役割をまっとうする。

それとは対照的に主人公の染谷俊太郎(成田凌)は、この職業を無邪気に楽しんでいる。

キャストは豪華だし、映画愛が詰まっているし、周防監督が愛妻家であることが確信できる映画だった。

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