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私が見た南国の星 第4集「流れ星」⑰

海南島の金銭感覚


 四年目を迎えたこの年は、海南島生活の節目を感じていた。
年の瀬を感じる12月初旬のことだった。冬の訪れを感じる中に暖かい陽射しの日もあった。
 その日は社員たちと一緒に夜の町へと出掛けた。町の所々で屋外のテーブルを囲み、友人達とお茶を飲んで楽しい会話を楽しむ人々の風景が見られた。私も馮さんや女子社員と一緒にお茶を飲むことにした。
庶民の憩いの場所なので、お茶と言ってもたいした物はない。私が、
「コーヒーでも飲もうかしら?」
と言った瞬間、社員はびっくりした顔をした。
「ママ、ホテルと違いますよ。そんな物などあるわけがないです」
と笑いながら言われてしまった。
「そう、じゃあ何があるの?」
というと、この店の女主人が、私の顔を珍しそうに眺めながら店の名物を言い出した。ところが、その言葉は海南語なので私にはさっぱりわからなかった。
「馮さん、この人は何を言っているの?さっぱり意味がわからないわ」
馮さんは、長々と説明を始めた。
「日本人が、こんな所でお茶を飲めるのですか?海南島の田舎で生活が出来る女性だから、たぶん大丈夫だと思うけど日本人ってスゴイですね」
と言っていると、馮さんが笑って説明をしてくれたが、飲み物の注文とは全く関係のない話だった。飲み物は、コップ一杯のレモンジュースにした。2元だった。出てきたジュースは確かにレモンが入っていたが、コップの中のレモンが多すぎて驚いた。ストローで一回口に吸ったら、もうジュースは無くなり、後は自分でレモンを潰してジュースにするしかなかった。
「何なの、これはコップにレモンが2個も輪切りにして入っているじゃないの」
といって、自分でも笑い出してしまった。2個もレモンを入れなくてもジュースはできると思うのだが、何でもここでは気分次第でレモンを入れるのだそうだ。店員に聞いたところ、私が日本人だから「おまけ」だという。でも、私はちっとも得をした気分にはなれなかった。そこで、せっかくレモンを2個も入れてくれたのだから、もう一個のコップをもらいレモンを半分移し、その中に馮さんたちが飲んでいる急須のお茶を入れて、レモンティーにした。それを見た店の主人は、
「やっぱり日本人は頭が良いね。ジュースだったらもう飲み終わっていますが、レモンの味がするまで飲むなんて中国人よりもスゴイ!」
と彼女の言葉に周りの客も大笑いをしていた。そこで、馮さんが
「お姉さん、これから知っている人がいたら、そこで一緒にお茶を飲めばいいわよ。絶対、相手がお金を支払ってくれるから」
と、これまた、びっくりすることを言った。2元のお茶代を節約しようと考えているなんて、やはり主婦だと思った。私は日本円にすると30円くらいのお茶代を他人に払ってもらってまで、お茶を飲もうとは思わない。それは本当に情けないことだと思った。
 三亜市で生活をしている日本人で、中国人を充てにして生活をしている人がいると聞いたことがあった。その話をある中国人から直接聞いた時は、目から火が出そうなくらい恥ずかしく思った。
「あいつらは本当にケチだから、毎日というくらい私の所へ来ては食事をして、まるで乞食だよ。日本人が中国人に面倒を見てもらって恥ずかしいでしょ!あなたは、そう思わない?」
と、彼は、不愉快な気持ちを露わにしてそう言った。確かに、その日本人グループは私も知っている人たちだったので、何も反論が出来なかった。
私は「海南日本人会」に入れて頂いているが、皆さん大手商社の方ばかりで、常識に欠けるような人は一人もいない。そんな方たちと交流を持てることも、私としては幸せを感じている。日本人会に入会されていない邦人の数は全くわからないが、目的を持って滞在しているのだろうから、日本人としての誇りを忘れないでほしいと思った。


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