カタオモイ

ミントグリーンで揃えたキッチン家電。
青いグラデーションのレースカーテン。
ずっしりでっかい一人用のソファ。
黄色と白とベージュの可愛らしい花束。
ここはあたしが作った部屋。大切なお城。
カビが生えたり髪が落ちてたりするけど。
いつまでたってもセックスしないあの人はあたしに何を期待しているんだろう。
一緒に帰って少しお喋りしてご飯を食べて眠るだけの、なあんにもない二人。
付き合ってもなくて、好きやキスもなくて、なのにずっと一緒にいるあたしたち。
なんなんだろうね。
あたしをどう思ってるの?って聞いたあたしの勇気はお酒に負けた。
夕方起き出したあなたが出かけようって言うのをあたしは断って眠りについた。
抱きついて眠ることも手をつなぐこともなくなって、LINEの返信も遅くなった。
あたしたち終わっちゃうのかしら。
始まってすらないのにね。
笑ったときに目の下に出来る皺が好きよ。
二人で笑顔で見つめ合いながら歌ったあの時間がどうしようもなく幸せで愛しかった。
当たり前に一緒にいて、当たり前にあなたの家に帰る日々が好きだった。
あたしの汚いところを見せたくなかった。
あなたの汚いところも見たくなかった。
なんにもさらけ出せなかった。
嘘じゃなくても上辺だけのあたしたちだった。
だからきっと、これでよかった。
いつかきっと他の誰かがあたしの代わりになって、その女にあなたが笑いかけるのを考えると死んでしまいたくなる。
元カノの痕跡を消そうとしてるあなたを見てるとあたしをその空いた隙間に入れてくれるのかなんて期待をしてしまう。
頭では無理だろうなって分かっていても、ほんの少しの期待を捨てきれなくて愛してしまう。
好きって何なのか分からなかったけど、こういうことなのかしらね。
嫌なところがどれだけたくさんあってもあなたのことは嫌いになれなくて笑ってしまう。
誘われたらすぐに行ってしまうの。
大慌てで部屋をぐしゃぐしゃにしながらお風呂に入って化粧をしてあなたに会うためだけの服を選んで走って行くの。
あなたはロングヘアのポニーテールが好き。
後れ毛を巻いてたら完璧ね。
あたしはショートカットなのに。
あなたの好みを知ってしまったからこの不便なエクステをいつまでも取れずにいるの。
いい加減はっきりしてほしい。
けどこのままでいいとも思う。
今答えを求めたらきっとNOだから。
なくなってしまうのは苦しい。
あたしを抱かないあなたをいつまでも好きでいることほど不毛なことはないと思う。
でもね、それでもね、
あたしはあなたが好き。
だからまだなにも言わないで。
いつか自然に消えるまでこのままでいて。
付き合ってなんて言わないから。ね。

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