幸せな記憶

記憶の中の私は大抵一人だ。
昔から友達が少なかったこともあるが悲しくなるのでこれ以上触れないでおく。

懐かしい記憶は沢山あるけれど、幸せな記憶はあまりない気がする。そもそも『幸せだな』と思えるような環境にいなかったからか。それはそれで嫌だ。

友達もなく、親との中も決していいとは言えず、お金も人脈もやる気もなく、ないものだらけの怠惰な生活だったがそれでも充実はしていた。

毎日母の罵声と暴力と酒に溺れる哀れな姿を見て、自由奔放に遊び歩く姉を見て、まだ幼く無邪気な妹を見て、学校や嫌なことから逃げる自分を見て、それら全てに目を背け、夜暗い部屋で布団に潜り現実を捨て夢を見た。

もしお金があれば、美貌があれば、恵まれた家庭があれば、そんなことばかり夢想し、現実から逃げ続けた。楽しかった。と同時に虚しかった。

いくら夢を見ても現実は変わらず、当たり前のように朝は来る。学校に行く時間になる。逃げる。母に怒鳴られ、殴られ、また現実から逃げる。

逃げ続けた結果、私は家から逃げた。
夜、真っ暗な田舎を何十キロも歩いた。
朝、遠く離れた知らない土地まで行った。
夏、東京へ一人で行き、そのまま帰らなかった。
そして今に至る。

結果的に逃げることには成功した。
今は安心して帰れる家がある。何気ない会話で笑い合える人達がいる。愛する人もできた。けれどやはり逃げたいと思う。未だに逃げ続けている。

もう逃げなくていい。逃げたくない。心から幸せだと思えるような日は来るのだろうか。
そんな記憶をいつか私は作れるのだろうか。

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