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「わたし、神様だと思った」と言われた話

「わたし、あなたのことを見て神様かなと思ったのよ」そんなことをご年配の奥さんに言われた。

自分のような不届き者がそのような言葉をいただけるなんて、ありがたいかぎりである。その言葉に劣らぬよう、日々精進したいと思う。

遡ること、ほんの数日前、正月もあけてスッカリ世間は通常モードで流れている。

そんなど平日の昼下がり、野山に散歩がてら竹を切りに行った。(工作やDIYに使う材料として)

竹を2〜3本長い状態で抱え込んでママチャリを漕いでいると、散歩中の奥さんに声をかけられた。

「あら、じつはワタシも庭木の添え木に竹がほしいのよ…松の木が伸びちゃってね…」

「そうですか、この竹使います?良かったら差し上げますよ」

「そんな、悪いですよ。いいんですか?」

「良いですよ、ってか家近所です?近くならこのまま運んで届けます。あと、庭仕事もついでにやらせてください、そういう作業好きなんですよ」

「あら、わるいわ〜。いいの?嬉しいわ、それではお願いします」

そんなやり取りをしつつ、奥さんの後に続いて自転車を押して付いて行った。

ほんとに家が近所で驚いた。これもご縁か、神様の粋な計らいに何を試されてるのやら。

そして奥さんの家に着き、早速作業に取り掛かる。

松の木に添えてある古い竹を外し、ノコギリでテキトーなサイズに切って結んだ。燃える日のゴミに出せるようにね。

で、新しい青々とした竹を松に添えて、奥さんに先端の方を持ってもらいながら紐で結んでいく。作業はすぐに終わった。

その日はものすごく感謝されて、お礼やお返しなどは要らないからって強めに断り、そそくさと帰った。

それから3日後。

そーいや、庭にあるもう一つの大きな松の木にも長めの竹で添え木にしてほしいって言ってたな。

それを思い出し、本日、うちが管理してる地主の竹林にママチャリで出向き、それらしい立派な長い竹を3本ほど切り倒して枝打ちした。

ママチャリに頑丈なPPロープで縛り付け、その足で奥さんの家に向かった。

チャイムを鳴らすとお友達がちょうど帰るタイミングで、お茶でもしていたのだろう。

「あ、この間はどうも。近所に住んでるムサシです。もう一つの松の木に添え木を付けに来ました」

「あら、助かるわ〜♡じゃあ、お願いしちゃおうかしら」

ほんとにチャーミングで可愛らしい方である。笑顔が素敵だ。

奥さんのお友達には「植木屋さん?」と尋ねられたが、「趣味で植物をイジってるだけなんで。好きでやらせてもらってます」と、説明しといた。

そしたら、「また完成したら見せてもらおうかしら。今時こんな親切な方もいらっしゃるんですね。良い人に出会ったわね」なんて、奥さんと会話をしつつ、そのお友達はご帰宅なさった。

すぐに作業に取り掛かる。

古い添え木を外して、持ってきた竹の中から一番長いやつを添えて縛り付けた。松の木が立派に見えるほど青々とした竹が添えられ、見栄えが良くなった。

奥さんも大喜びしてくれたようで、なによりだ。

帰ろうとすると、上がってお茶でもしてってくださる?と言われたので遠慮なくいただくことに。

キッチンに案内され、あんみつとコーヒーをいただいた。非常に美味しかった。

奥さんは大腿骨の大怪我をされて手術したぶんだから、脚が悪いとのこと。初日のときもびっこひいて歩いてたな。

申し訳ないから、コーヒーなど使うものを出してもらって全部自分で淹れた。

もちろん、もてなしてもらうだけじゃ申し訳ないから、キッチンを少し片付けて洗い物をさせてもらった。

小一時間ほど話して帰るころ、奥さんにまた言われた。

「わたし、あなたに会ったとき神様かと思ったの。ほんとにそう見えたから出会えて本当に良かったわ。ありがとうございます。わたしすごく幸せよ」

人からこんなに感謝されたのは生まれて初めてかもしれない。

「なんでそこまでしてくれるんですか?」と尋ねられた。

「ぼくは趣味で神社参拝したり、家でも神棚を自分で作って手を合わせるぐらいです。神様がいるかどうかはわからないけど、こういう奇縁というものを神様が与えてくださってるのなら、目の前の人にできること、その人が困ってることを全力で手伝うって決めてるんです」

「あら、素敵な人ね〜」

忠実に会話を再現するとこんな感じだったかな。

べつに俺が良い人アピールしたいわけではなく、齢(よわい)を重ねても、こんなに素直でピュアな心を持った方がいらっしゃるんだなぁと。

ちなみに奥さんは70歳は超えてるだろう。昔、すごく綺麗で美人だったであろう面影が残っている。そのせいか肌も若くてツヤツヤしていた。

旦那さんはずいぶん昔に癌で他界し、長いこと一人で暮らしてらっしゃる。

連絡先も交換して、これからちょこちょこ遊びに来ると約束も果たした。家も近いしね。

出会いに年齢って関係ないよな。

そして趣味が高じて、作れるものはすべて自分の手で作ろうと生き始めた矢先のご縁だったので、光栄この上ないですね。

これも何か深い意味があるのだろうなぁ。

次はしめ縄を作ってプレゼントする予定なので、奥さんが喜ぶ顔を想像するだけでワクワクします。そんな日常の話でした。

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