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20年下半期|培養肉・細胞農業ニュースハイライトまとめ

はじめに

2020年下半期における細胞農業・培養肉業界における主要なニュースを筆者コメントと共に下記にまとめる。

2020/08/03:Mission Barns が新開発された培養肉ベーコンの試食会を実施予定と公表

サマリー
・Mission Barns が8/3より開始する応募期間中の申込者数の中から50名~100名を選出し、8月中旬に試食会をレストランにて開催

・Mission Barnsによると、培養肉ベーコンの開発・商品化は同社が世界初
同社は他社と提携することによりプロダクト開発・上市を進める予定である

コメント

培養肉の試食会に抽選を取り入れるのも、消費者の注目をひく・反応を見るにはよい手法かもしれない

2020/08/28:インテグリカルチャー(日本拠点の細胞培養スタートアップ)、2020年度NEDO-PCAに採択され、約2.4億円の助成対象事業者に決定

サマリー
・国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2020年度「研究開発型スタートアップ支援事業(旧:研究開発型ベンチャー支援事業)/Product Commercialization Alliance(PCA)」に係る公募において、助成対象事業者に選定され、約2.4億円の助成を受けることが決定

・助成金は、同社の技術である汎用的な大規模細胞培養技術”CulNet System”を、企業連合による開発で自動化や品質管理技術を組み込んで大規模化・生産拠点として整備し、フォアグラや培養肉などの細胞農業製品を、2021年から2023年にかけて順次上市するために活用予定


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プレスリリースによると、CulNet Systemは、汎⽤性の⾼い細胞培養プラットフォーム技術で、動物体内の細胞間相互作⽤を模した環境を擬似的に構築する装置(特許取得済み)のこと。

本技術は、理論的にはあらゆる動物細胞を⼤規模かつ安価に培養可能で、培養⾁をはじめ、様々な⽤途での活⽤を想定。すでにラボスケールでは、管理された制御装置下で種々の細胞を⾃動培養し、⾼コストの⼀因であった⾎清成分の作出を実現(特許出願済)。⾎清成分の内製化実現により、従来の細胞培養が⾼コストとなる主因の⽜胎児⾎清や成⻑因⼦を使わずに済み、細胞培養の⼤幅なコストダウンの実現を目指すとのこと。

2020/09/12:Wildtypeが寿司で食べられる細胞培養サーモンの限定予約受付を開始

サマリー
・培養サーモンのスタートアップであるサンフランシスコ拠点のWildtypeは、選ばれたシェフに対して予約注文の受付を開始。生食可能な寿司グレードのサーモンをメニューに加えたいと考える世界の選りすぐりのシェフをパートナーにしたいと考えたうえでの試み

・商品化されるのは約5年先

・同社は、天然サーモンの味と食感を再現するための、筋肉組織と脂肪の両方が成長できる足場材料構築技術を独自に開発。また、オメガ3脂肪酸の面で本物に引けを取らない寿司グレードのサーモンの培養にも成功


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Mission Barnsによる培養肉ベーコンに引き続き、培養サーモンの予約受付が開催されるなど、サンフランシスコでは培養肉・魚に対する食育が先行して進められている模様。

寿司への使用も念頭に置いたサーモンということで、ぜひ日本の寿司職人にも培養サーモンの食育に参画してほしいと勝手に思う。

2020/09/30:シンガポール発エビ培養肉開発のShiok Meats、シリーズAで$12.6m(約13億円)を調達——リアルテックFや東洋製罐HDらも出資

サマリー
・シンガポールを拠点にエビ培養肉を開発するスタートアップ Shiok Meatsは29日、シリーズ A ラウンドで$12.6mドルを調達

・サステイナブルな養殖に特化したオランダ拠点の投資ファンド Aqua-Sparkが主導したほか、日本企業としてはリアルテックファンド(日本のユーグレナ、リバネス、SMBC 日興証券によるファンド)や東洋製罐グループホールディングスが参画

・今回参加した東洋製罐グループホールディングスにとっては、これが初のスタートアップ投資。食のインフラ企業の立場から、食糧・タンパク質危機、気候変動、海洋汚染の社会課題を抱えるアジア地域において、培養エビや甲殻類製品を食卓に届ける社会実装に向け共に取り組みたいとしているとのこと

2020/10/02:農林水産省による「フードテック官民協議会」設立。フードテック分野における官民連携を推進

サマリー
・農林水産省では、フードテック分野の協調領域における課題やその対応について、食品企業、ベンチャー企業、関係省庁、研究機関等の関係者で構成する「フードテック研究会」を令和2年4月に立ち上げ、7月に中間とりまとめを公表

・中間とりまとめを踏まえ、協調領域の課題解決の促進や新市場の開拓を後押しする官⺠連携の取組を推進する「フードテック官⺠協議会」を設置した

コメント
細胞農業研究会はフードテック官民協議会の培養肉WT(ワーキングチーム) も兼ねて、今後も培養肉に関するルール形成を進める予定である。

2020/12/02:世界初、培養肉がシンガポール政府(The Singapore Food Agency)の販売承認を獲得

サマリー
・Eat Just の培養鶏肉の食用としての安全性がシンガポール政府により承認された

・同社の鶏肉商品は、Good Meatブランド下のフライドチキン商品としてレストランにて販売される予定

・同社はシンガポールが2019年11月に作成した“Novel Foods”(培養肉などの、食品として消費された経歴のない代替タンパク質製品)向けの新たな食料規制の枠組みの下で、培養肉の安全性基準を専門家集団とともに検証。本承認の獲得には2年を要した

・また外部審査委員会により、Eat Justの培養鶏肉は、人が食べても安全で栄養価が高いことが実証された(委員会はシンガポールと米国の国際的な科学権威である医学、毒物学、アレルギー学、細胞生物学、食品安全性の専門家からなる)

同社培養鶏肉商品について
・1,200Lのバイオリアクターで20回以上の生産を行うことで、一貫した培養鶏肉の製造が可能であることを実証

・抗生物質は一切不使用であるにも関わらず、同社の培養鶏肉は鶏肉の安全基準を満たす。加えて、従来の鶏肉に比べて微生物含有量が極めて低く、著しくクリーンであることを実証

・同社の培養鶏肉は高タンパク、多様なアミノ酸組成、健康的な一価不飽和脂肪の相対含有量が高く、豊富なミネラル源が含まれていることを実証

Eat Just 社について

・同社はCargill Inc. やTyson Foods Inc.といった食肉加工企業や、Bill Gatesなどの投資家より出資を受けている

・同社はシンガポール国内にてプラントベースト卵、培養鶏肉の生産開始を予定


コメント
本件は、今後の培養肉産業の発展において間違いなく歴史的な出来事であり、培養肉企業全体のバリューアップにつながったと言えるだろう。シンガポール政府が設定する新代替たんぱく質源に関するルールを紹介する。

・シンガポール政府のSFAは、食品として消費された経歴のない代替タンパク質製品(”Novel Foods")を製造する企業に、毒性、アレルギー誘発性、製造方法の安全性など潜在的な食品安全リスクをカバーするタンパク質の安全性評価を実施することを要求

・また2020年3月には、安全性評価に対する定期的な見直し・科学的アドバイスを得るために、同国SFAは新しい食品安全専門家ワーキンググループを結成

・シンガポールで包装済みの代替タンパク質製品を販売する企業には、製品パッケージに「“mock meat”(模倣の)」、「“cultured”(培養)」、「“plant-based”(プラントベースト)」などの修飾用語を付けることをルール化

2021/01/05:三菱商事がイスラエルのAleph Farms社の培養ステーキ肉を日本にて提供することを目的としたMoUを締結

サマリー
・Aleph Farmsは培養肉の製造プラットフォームであるBioFarm技術を三菱商事に提供(Aleph Farms社は戦略的パートナーシップ‘BioFarm to Fork’を推進)

・三菱商事、Aleph Farmsはともにルール形成戦略研究所(CRS)が主催する細胞農業研究会に所属しており、日本における培養肉販売に関するルール形成に参画


コメント
三菱商事は2020年12月に培養肉スタートアップのMosa Meatにも投資するなど、本分野への関与を強めている。

Aleph Farmsは日本市場への展開を正式に発表した世界初の外資系培養肉スタートアップであると筆者は認識している。

2020/12/08:国家元首が世界初、培養肉を試食。また世界的代替肉NPOのGFIがイスラエルを代替肉市場におけるリーダーにする国家政策を首相に提出

サマリー
・イスラエルのネタニヤフ首相がAleph Farms(三菱商事とともに、2021年1月に日本進出方針を発表した、イスラエル拠点の培養肉企業)の培養ステーキ肉を試食。「美味しくて”ギルトフリー”だ。(通常の肉と)味は同じに感じる」(筆者訳)とコメント

・試食イベントは世界的代替肉プロテインNPOのGood Food Instituteイスラエル支部が主催。また、GFIイスラエルは、イスラエルを代替タンパク質産業の世界的リーダーにするための詳細なロードマップをネタニヤフ首相に贈呈。GFIは今回の快挙について「培養肉や植物性代替肉はタンパク質供給の耐久性を高め、パリ協定の目標達成のための重要な機会を提供する」とコメント

・イスラエルに本社を置く培養肉企業として、Aleph Farms、SuperMeat、MeatTech、Future Meat Technologiesがある。Aleph Farmsは、2025年までにカーボンニュートラルになることを約束、2020年には最初のパイロット培養プラントの設立を発表した。SuperMeat社とFuture Meat Technologies社は、それぞれ初の培養肉テストレストラン(The Chiken)と製造工場をデビューさせた実績を有する

・イスラエルの食のイノベーションを推進するための動きとして、同国のイノベーション局がフードテック・インキュベーター "The Kitchen Hub "と "Fresh Start "を設立した。しかし、より戦略的な戦略が必要であるとGFIや協力企業らは提言、培養肉・植物性代替肉の普及拡大に向けた取り組みを進める


コメント

イスラエルの今後の代替プロテイン市場における戦略は、食料・飼料自給率が問題視されている日本にとって重要なモデルケースとなるのではないか。もしくは、現段階からイスラエルとも手を取り、共同で同分野におけるリーダーシップ戦略を策定したり、日本が手本となるルール形成を行ったりすることが、今後の日本産業にとって新たな機会をもたらす可能性があるのではないか。

首相レベルによる「体を張った」業界プロモーションを喜ばしく感じる。

2020/12/09 三菱商事が培養牛肉企業のMosa Meatによる資金調達シリーズBラウンドに参画

サマリー
・同社は本調達を考慮すると創業以来総額$75mの資金調達を実施

・資金調達はルクセンブルグ拠点のBlue Horizon Venturesが主導したほか、スイスの食肉企業であるBell Food Groupや、ドイツ拠点の化学・医薬セグメントにおける大手のMerckのインベストメントアームであるM Venturesが参画。また、三菱商事の資本参加にも注目が集まった

・今回調達した資金は本拠地であるマーストリヒトのパイロット施設の拡張など、生産能力の拡大に充てられる

・細胞農業にてウシ胎児血清(FBS)が一般的な培養液に使用される成長因子として用いられるが、非常に高価かつ、妊娠中の乳牛の子牛から血清を採取しなければならないという意味でアニマルウェルフェア的な理由から、FBSを使用しない方法が探られてきた。Mosa Meatは2019年11月に、完全に動物性成分を含まない独自の増殖培地の開発に成功したと発表した実績がある。また、2020/7/22には、オランダのMosa Meatは過去10ヶ月で無血清培地のコストを1/88に削減したと発表した


※記事サムネイルはgate74によるPixabayからの画像

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