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介護福祉士として働く Sさんと私

人生の大先輩と一緒に過ごした記憶。継続して書いていこうと思います。

介護の仕事に携わらせていただいて10年以上になりますが、利用者さんとの別れによって、心身がズタボロになることがあります。それは、お亡くなりになられての別れもありますが、別の施設へとお引越しされることによるものや、ご自宅で生活されることを選ばれての別れもあります。

仕事を始めたばかりの頃は、利用者さんおひとりおひとりとの信頼関係を築きたい一心で、毎日が必死で。

そんな日々を積み重ねて数年経った頃、その別れの多さに、一気に何かが崩れ落ちました。意気消沈してしまい、自分に絶望し、この仕事から遠ざかったことがあります。もう会えない、そんな現実を何度も何度も突き付けられて、辛くて悲しい。私が壊れてしまうような気がしていました。


復職してさらに数年。今はもう、別れはどうしようもないことだと割り切っています。そうして割り切ることは、決して冷酷なことではないんだと、自分に言い聞かせながら。

手を合わせてお別れをしたり、手を振って笑顔で見送ったり。胸が締め付けられるくらい辛くても、振り返ると私を必要としてくれている利用者さんがこちらを見て待っている。そうしたらもう、立ち止まっている暇はなくて。

泣きながらでも笑って、また、向き合います。

* * *

介護の仕事を続ける上で、私のモチベーションを高めてくれる宝箱。

利用者さんが解かれたプリントや筆ペンで書かれた俳句、色を染めた絵やプレゼントしていただいた折り紙などを集めて、宝箱(北海道銘菓白い恋人の缶)に大切に入れて時折見返すのが、私のささやかな楽しみ。

忙しさに追われて息が詰まりそうになった時、夜にそっと宝箱の蓋を開けています。それらを一つずつ眺めては、

「今日はどんなごご飯を食べたのかな。好きなものから食べたいのだと、スタッフさんに気づいてもらえているかな。」

「先に旅立ったあの人とは、また痴話喧嘩をしてるんだろうか。そしてすぐに何事もなかったかのように、二人で故郷の歌を口ずさんでいるのかな。」

そんな風に思い出しているうちに、明日も全力で利用者さんと関わっていこうと、やる気がふつふつ湧いてくるのです。皆さんが残してくれた、ずっとそこにあり続ける優しい思い出。


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Sさんは、心配性な方です。

「あの人、私のこと嫌だなって思ってるんじゃないのかい。」

「歯がむずむずする。ご飯食べている間にどうにかなっちゃうかも。」

「日が暮れそうだけど、帰りは何時なの。」


そして、Sさんは優しい方です。

「あなたそんなに一生懸命働いて、お昼ご飯食べられたのかい。」

「いつも、車酔いしないようにゆっくり運転してくれてありがとう。」

「今日あなたに会えて嬉しかった。またね。」

ある日、Sさんの生活に変化が起きるずっと前、お囃子会のボランティアさんが来苑され、立派な演目を披露してくださいました。その後、これからもご縁がありますようにと、利用者さんにご縁玉の入ったポチ袋を配って下さったのですが、わずかに数が足りず、Sさんは頂くことが出来ませんでした。とっても残念そうで、その日のことを思い出しては、話を聞かせて下さいました。

* * *

Sさんがお引越しをされる当日、はっと思い出したのです。お囃子会の方が施設の下見に来られた際、「こういったものをお配りする予定です」と見本でいただいたあのポチ袋を、私自身の書類ケースにしまってあったことを。出発直前に間に合い、無事お渡しすることが出来ました。

「覚えていてくれたの?」と、手を握って喜んで下さったSさん。

次の場所でも、どうか素敵なご縁がありますように。今まで、同じ時を過ごさせていただけて嬉しかったです。ありがとうございました。

宝箱には、財布の中から綺麗なご縁玉を見つけて、入れておきますね。

拙い文章しか書けませんが、読んで下さったあなたに気に入っていただけたら、とても嬉しいです。