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電車で帰りが一緒だと気まずいから飲み会は現地解散にしてほしい

そもそも僕は飲み会があまり得意じゃない。

こじんまりとした飲み会はいいのだが、初対面の人がいるような大勢の飲み会が本当に苦手だ。誰と何を話していいかもわからないし、席によって格付けされているような気分になって毎回へこむし、自分のつまらなさに口からヘドロがでそうになる。むしろヘドロを出せたら飲み会で笑いがとれてどれだけ楽だろうかと思う。

飲み会で座敷のようなスタイルだと、人気者の周りにみんな移動して自然と輪ができ、自分の周りから人がどんどんいなくなっていく絶望感を味わうこともある。あれ?口からヘドロ出したっけ?というくらい周りに誰もいない。飲み会という陽の世界から一人ポツンと陰気な無人島に取り残されるのだ。誰かが近づいてきたら耳元で「Welcome to Underground」と囁きたくなる。

「自分から席を移動すればいいじゃん」と思った人は、メイウェザー並の強者の思考の持ち主だ。僕のような軟弱ものは、自分の周りが盛り上がっていないと「俺がいるから空気が悪いのかな。普段はもっと盛り上がってるはずだもんな。ああ、俺のせいか。ああ、帰りたい。家に帰ってゴッドタンが見たい、家でくりぃむナンチャラが見たい、個室ビデオで明日花キララが見たい」と思ってしまうため、おいそれと席の移動なんて出来るはずもない。

そんな飲み会のガラパゴス諸島にいると、高校生クイズの○✗問題を思い出すことがある。「〜〜〜〜は○か✗か!?」という司会者の問題に対して、一斉に回答者が○か✗の正しいと思う方向に動き出すあのクイズだ。

飲み会で周りに誰もいなくなったときに「ああ、自分は圧倒的に人数の少ない不正解の方にいるんだな」という気持ちになる。「ボクサーに殴られると痛い……○か✗か!?」という問いに対して勢いよく僕は一人だけ✗に向かって走っていっている。気づいたら○にいる人たちで楽しそうに正解を分かち合っているのだ。なんなら本当にボクサーに殴られて痛い思いをして、そのまま家に搬送されて飲み会の途中で帰りたくもなる。

飲み会の末端の席でそんなことを一人で考えていても、なんとか時間を潰さなくてはいけない。そんなときにはやっぱりスマホだ。ただTwitterやFacebookを見るということはしない。

最近になって気づいたのだけれど、時間を潰すのは「一人しりとり」が一番良い。LINEでメッセージを打っているふりをしながら、メモ帳に「りんご、ごりら、らっぱ、ぱせり、りんご、ごりら……」と無限ループのしりとりを打っていく。無の時間というのが一番心が紛れる。心が安らかになる。さぁ、みなさんも一緒に無限しりとりで無になりましょう。無はあなたであり、あなたは無なのです。無 is God.

ただ、飲み会というのはお酒を飲んで酔って頭を麻痺させることができるうえに、永遠と何かを食べていればいいという側面もあり、ある意味で楽な場合もある。

そんな飲み会で一番の問題になってくるのが、終わったあとに「誰と帰りが一緒になるか」ということだ。ミスターSASUKEこと山田勝己が6回もリタイアしたそり立つ壁くらいの難関だ。

なにが嫌かというと、帰る方向が一緒だったことが発覚した瞬間に、「二人きりで1時間以上トークせよ」というような緊急ミッションが急に課せられるからだ。頭の中で「warning!!」という赤い文字とともに警報音が鳴り響く。ミッション・インポッシブルだ。

誰と帰りの電車が一緒になるかわからないから、飲み会後に「駅までみんなで帰る」という行為はギャンブル性が高すぎる。仲良くない人と一緒になることもあるだろうし、大勢の飲み会のときには一回も話していない人と方向が同じことだってあるだろう。

だから飲み会を終わったあとはみんなで駅に行くのでなく、現地解散にしたい。いや、現地解散じゃなくてもいいから「飲み会後の電車で違う車両に乗るのは失礼にならない」という世の中になることを切に願っている。

僕自身が誰かと一緒になるのが嫌だからというのもあるが、「飲み会のあとは現地解散にしてほしい」と最初に思ったのは、数年前の飲み会でとある事件があったからだ。



僕が取引先の営業のAさんと飲みに行く予定があったときに、共通の知人である田中さん(仮名)を誘った。田中さんは当時の会社の先輩で、社内でも数少ない気の合う人だった。

出向先が違うためあまり会う機会もなかったが、僕と考えが似ている部分があり「大勢の飲み会は絶対に行かない。初対面の人と話すくらいなら壁を5時間見ている方がマシ。もしくは個室ビデオで明日花キララが見たい」というタイプの人であり、話しが合う人だった。

そんな田中さんとAさんと僕の飲み会が実行されたのだが、予想以上に楽しかった。3人とも歳が近いため話題も尽きなかった。ああ、社会人になってからこんなに楽しい飲み会はあるんだな。ここが桃源郷なのか……と思うくらい会話も弾んだ。

しかし、潮目が変わったのはAさんの上司から連絡が来たときだった。Aさんの上司が急にこの場にくると言い出したらしい。Aさんの直属の上司であるうえに、取引先でもあるため断れるはずもなかった。

僕はその上司と知り合いだったのだけれど、田中さんは初対面だったので不安しかなかった。「初対面の人と話すくらいなら壁を5時間見ている方がマシ」という田中さんの言葉が頭をよぎった。気まずい雰囲気になるくらいなら個室ビデオに行きたいと田中さんも僕も思っていただろう。

しかし、さすがにそこは社会人。Aさんの上司が気さくで良い人なうえに、田中さんも大人な対応で円滑にトークをすすめ、それなりに打ち解けて1時間ほど楽しく飲んで終わった。

飲み会が途中から仕事っぽくなってしまったのは残念だが、それなりになんとかなってよかった…とお店をでたときは安堵していた。

しかし、問題はこのあとだった。みんなで歩いて駅に着いたときに「みなさん何線ですか?」というお決まりのワードがAさんからでたときに背筋が凍った。

Aさんの上司と田中さんの帰り道がまったく同じで、駅も3つほどしか離れていないことが発覚したのだ。しかもここから電車で1時間はかかるところに駅はある。

脳が瞬間解凍されたように酔いは醒めた。田中さんの顔が酔った赤色から不安で青く変わっていくのがわかった。信号なら青は「安全なので渡ります」という意味だが、顔色の青は「今から三途の川を渡ります」という意味に等しい。

僕はそのとき何もできなった。今思えば「ちょっとこれから会社行くので」と田中さんを連れ出すこともできたかもしれない。ただ、そのときの僕はなにもできずに青い田中さんを見送ることしかできなかったのだ。頭の中ではドナドナが流れている。ドナドナド~ナ~ド~ナ~たなかをのせ〜て〜

そして後日、僕のもとに田中さんからメールが送られてきた。タイトルはなく本文には「精神と時の部屋」とだけ書かれたメッセージが送られてきた。いかに電車の時間が長く辛いものだったのかが一瞬で理解した。

僕が誘わなかったら田中さんには迷惑がかからなかったのだ。申し訳ない気持ちと、先輩に辛い思いをさせたという後悔で、それから田中さんを気軽に飲みに誘えなくなった。

そのあと僕が逃げるように転職してしまったこともあり、田中さんにはそれから会っていない。気の合う知人を一人失った。飲み会がなければ…



飲み会終わりに駅までみんなで歩いて「帰る方向が同じ」という事実が発覚したら一緒に帰るしか選択肢はない。「いや〜方向一緒ですね!でもべつべつで帰りましょう!!」なんて言えるわけがない。

そして電車で二人になればもう会話するしかない。いきなりガチンコのインファイト勝負だ。飲み会で端っこにいて「ボクサーに殴られると痛い……○か✗か!?」という野糞みたいなクイズを脳内でやって時間を潰しているのに、いきなり電車という名のリングに上げられる。

電車に乗った瞬間に数十分前まで飲み会の場でワイワイやっていた人同士が、急にお互いが背筋を伸ばして「あ、一つだけ席が空いてるので座ります?」「いえいえ私は近いので大丈夫ですよ」なんてやりとりは見たくない。とにかく僕は酔った頭のままで帰りたい、冷静になりたくないのだ。

「ねぇねぇ、しりとりしませんか?りんご、ごりら、らっぱ、ぱせり、りんご、ごりら……って何も考えずに永久ループすると無の時間を味わえて最高ですよ」なんて言えたらどんなに楽だろうか。りんごりらっぱせりんご教徒の教祖だと相手に思われるかもしれないから、その話題を持ち出す勇気は僕にはないが。

色々と御託を並べてきたが、飲み会を終えたあとはせめてお酒で脳を麻痺させたまま家に帰りたいだけなのだ。冷静なやりとりをして夢から醒めたくない。映画が終わったあとに役者がでてきて「恋人ができて病気になってなんやかんや感動したかもしれないですけど、映画なんで全部ウソの話しなんですよね。テヘ♡」なんて冷水をぶっかけられたくないだろう。

冷静になって酔いがさめた状態で電車の中で会話して「ああ、やっぱり俺って人間付き合いがヘタでつまらない人間なんだ」と、自覚したくないのだ。だったら酔ったままゲロを吐いて「俺はダメなやつなんだー!!!」と叫んで個室ビデオで明日花キララが見たい。



田中さんの一件を書いて思い出したことによって「飲み会は現地解散がいい!!!」という気持ちがより一層と自分の中で強くなった。

しかし、「こんなめんどくさいこと考えないで、頭を空っぽにして飲み会は楽しむべきだ…○か✗か!?」という問題があったとすれば、やはり○が正解だろう。人生をおもしろがって人と接した方が得だし、電車などでコミュニケーションをとっていくことの大切さもわかる。しりとりだって本当は一人でやるよりもみんなでやるほうが絶対に楽しい。

りんご、ごりら、らっぱ、ぱせり、りんご、ごりら、らっぱ、ぱせり、りんご、ごりら、らっぱ……ぱんつ!!!!!

恥ずかしげもなく「ぱんつ」と大声を出して、無の永久ループの抜け出す勇気は必要なのである。勇気をふり絞って○側にいきたいという気持ちはやっぱり僕の中にもあるのだ。

それでも今は「頭を空っぽにして飲み会は楽しむべきだ…○か✗か!?」と聞かれれば、やはり✗を選んでしまうと思う。「✗側にいる俺ってかっこいい」と思ってしまっているのかもしれないし、○側の人間を貶すことで自己を保っている可能性もある。自分自身の殻に閉じこもっているのだ。

そういった殻を破るという意味でも、田中さんを久しぶりに誘って飲みに行き、当時のことを謝ることから始めてみるべきなのかもしれない。

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