見出し画像

映画『はちどり』を観た。

存在を知ったのが劇場での上映期間終盤だったので映画館へ観に行けずDVDで鑑賞した。

主人公は中学生の女の子。時代背景は1994年。90年代半ばに中学生だった自分とだいたい同年代。

中学生が持つ特有のもやもや感、当時の社会の不穏さなどは、日本で中学生生活を送っていた自分も少なからず同じものを感じていたように思える。

映像内で橋が落ちた!と騒ぎながら教室のテレビに群がる中学生たちが描かれていたが、自分の場合は中学の時、山梨奥地の某宗教施設へ警察が踏み入ったニュース。友人が学校に持ってきてたラジオにみんなで群がって聞いた記憶がある。その光景を少し懐かしく思った。

2000年代になって韓国の大学で出会った友人たちは「はちどり」で描かれていたああいう時代を経ていたのか...と考えると、今まで友人を見ていた視点が少し変わる気がした。韓国の大学で出会った女子はみんな気が強かったけどああいう背景があったんだなと、なんだか許せるような気もしてきた。

『14歳の栞』でも思ったが、一般的に描かれる中学生の世界はとても狭い。実際狭いんだと思う。この主人公の場合、家庭、学校、習い事(途中から一つ増える)が自分の世界の全てだ。だからこそひとつひとつの場が中学生に与える影響は大きい。
この映画で一番濃く描かれているのは「家庭」だが、主人公にとって世界の半分くらいがこの不和な家庭であることを見ていると大人の自分でもつらく思えてくる。
劇中で最もシンプルで分かりやすく描かれているのは「学校」。学歴社会を象徴するような描写だった。
その延長で家庭でも親が勉強勉強言っているので当時の韓国の中学生は大変だったんだなぁと心の底から思った。カラオケは不良!て先生が言い切っいてウソーて思ってしまった自分がいた。でも多分当時の日本の普通の中学生はクラブに行かないだろーと思ったのでどっこいだな...とも思った。

そんな中で主人公の心を解いていくのが習い事の女性の先生だ。
女性の先生初登場シーンで、先生がタバコを吸う姿を見た主人公が、友人に“先生がタバコを吸っていた”と話をするシーンがある。

これは多分韓国の文化に疎い人はあまりピンとこないシーンだと思うが、自分はとても韓国的なシーンだと思った。
今がどうなってるか分からないが、2000年代に初めて韓国留学した時、外でタバコを吸ってるのは男性だけだった。「女性はタバコを吸ってる姿を見られてはならぬ」的なものがあった。(詳しくは割愛)
女性たちがどこでタバコを吸うかというと“トイレ”だ。なので韓国のトイレは常にいろんな匂いが混ざった臭さがあった。(使用済みのトイレットペーパーも流さないのでその匂いもある)
タバコを吸わない人は分かると思うが、喫煙者からは喫煙者の匂いがする。当時知り合った女性の喫煙率はすごく高かったと思う(匂い判断)。その全ての女性がトイレで隠れて喫煙していた。そんな文化だった。90年代だとさらに閉鎖的であったと思う(←これはあくまでも推測)。

劇中のあの韓国社会の空気の中で、女性がタバコ以外にストレスを解消する方法があったのか?多分なかったんじゃないか。男性に殴られても耐えるしかない彼女たち、カラオケは不良扱い。何も言わず誰にも見られないように煙を吸って耐えるしかなかったのかもしれないと思った。

なので女性でタバコを吸っていた人が先生として登場というのは中学生の主人公にとっては驚きがあったと思う。また、同じ女性である経営者からは疎まれていた存在であっただろうという想像がついた。でもきっと監督はそういう意図を持ってああいう登場シーンにしたんだと思った。

ただこのシーンについていろいろ思ったものの、いろいろなメディアの翻訳経験がある身としてはこの文化的背景の説明を織り交ぜた訳はほぼ不可能だと思ったので、分からない人はサラッと流す他ないと思う。それは仕方ないと思った。


韓国の映画を観ていていつも思うことは、役者の演技が上手すぎること。日本も上手い人は物凄く上手いけど、日本の若い世代中心の映画だと、役者さんの雰囲気がみんな似ててあんまり映画を観てる気がしない。役者さんが一律にきれいな顔立ちなので二次元のアニメを見てる感じというか。
むしろアニメのほうが声優さんがガッツリ演じているのでアニメのほうが実写を見ている感じに近い感覚がある。
韓国(というより日本以外)だとそういう心配がないのでその点は安心して観ることができる。
演技の心配がないので感情移入しやすくなり泣ける。この映画は久しぶりに泣けた映画だった。

とにかくこの作品のキム・ボラ監督は本作品が長編映画デビュー作だという衝撃。
次の作品を楽しみにしようと思う。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?