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白杖 まとめ

今回は視覚障がい者のシンボルでもある白杖についていろいろと紹介していきます。

1 白杖とは

白杖は視覚障がいのある方が道路などの歩行の際に使用する白い杖のことです。この視覚障がいには、全く見えない全盲の方だけでなく、視力や弱視などに困難を抱える弱視やロービジョンの方も含まれます。

ちなみに身体障害者福祉法や福祉用具の分類での名称は視覚障がい者安全杖(以前は盲人用安全つえでした)となっています。

白杖の扱いについては、道路交通法第14条(盲人及び児童等の保護)に規定があります。

1. 目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。
2. 目が見えない者以外の者(耳が聞こえない者及び政令で定める程度の身体の障害のある者を除く。)は、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める用具を付けた犬を連れて道路を通行してはならない。
3. (省略)
4. (省略)
5. 高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが道路を横断し、又は横断しようとしている場合において、当該歩行者から申出があつたときその他必要があると認められるときは、警察官等その他その場所に居合わせた者は、誘導、合図その他適当な措置をとることにより、当該歩行者が安全に道路を横断することができるように努めなければならない。

また道路交通法施行令第8条(目が見えない者等の保護)には、視覚障がい以外に肢体不自由や聴覚障がい、平衡機能障がいの方も白杖を持ってもよいとされています。

ちなみに黄色い杖の携帯も認められています(あまり認知はされていませんが…)。

2 白杖の役割

白杖には3つの役割があります。

① 視覚障がい者と周囲から認識してもらい注意喚起する(シンボル)

②歩行に必要な情報(段差や歩道の切れ目など)を収集する(サーチ)

③前方の障害物などから自身を守り安全を確保する(バンパー)

全ての人がこの3つの役割を使っているわけではありません。中にはシンボルとして周囲から配慮してもらうために白杖を持つ方もいます。

また白杖を使って歩行するには地図の理解や技術が必要になります。それらの指導を行うのか後述の歩行訓練士です。

3 白杖の構造と種類

白杖は大きく3つの部分に分かれます。

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(画像は歩行指導の方法と用具より)

①グリップ(握り)

白杖を手で握るところで、大抵ゴムのグリップがついています。また向きが確認できるように丸ではなく一部分だけ平らな面になっています。

②シャフト(柄)

重すぎず、割れにくいアルミやカーボンファイバー、グラスファイバーなどの素材が使われます。身を守るためにも、杖先の情報を手に伝えるためにも大事な部分です。

色は基本的に白く、地面側20センチくらいが赤色に塗られていることが多いです。また夜間歩行のために反射材やテープを貼っていることも多いです。

③チップ(石突)

多くはプラスチック製で、この部分で地面に触れたり、地面を叩く音などで歩行者は情報を得ています。

ローラタイプなどいくつかの種類があり、また歩行で使用していると削れてすり減っていくため、定期的に交換が必要になります。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

白杖の種類は大きく2つに分かれます。

①普通型(直杖)

直杖の名の通り、ジョイント部(継ぎ目)のない一本の真っ直ぐな杖です。地面からの情報がダイレクトに伝わりやすい反面、折り畳めず携帯には不便です。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

②携帯型(折りたたみ式、スライド式)

携帯型はジョイント部(継ぎ目)があるため、小さく収納することができ、携帯に便利です。その反面、直杖と比べると伝導性に劣ります。

また慣れないうちに強く地面を突きすぎてジョイント部分が抜けなくなるのは初心者あるあるですね笑

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

それ以外にもタッチやスライドといった白杖を用いた歩行に使うのではなく、あくまでシンボルとして携帯するように作られた細いシンボルケーンや、身体を支えるようT字型やL字型のグリップのついた身体支持杖もあります。

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

4 こんな白杖もあるよ

1.デコ白杖

スワロフスキーのストーンを貼ったオシャレな白杖もありますよ。ただ周りから白杖とわかるような配慮は必要かもしれませんね。

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(画像はNail Le Braill 白杖デコ White cane decorationより)

ジェルネイルの手法でデコレーションされた白杖もあるようです。

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(画像はTwitter@HokkaidoHokutenより)

2.Illuminated Mobility Long Cane

四つ折りの白杖で、一番下になる部分に白色LEDが仕込まれててライトセーバーみたいに光ります。USBケーブルで3時間分充電できるようです。詳細はこちらの記事から(英語です)。

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(画像はGizahandより)

3.車輪付き杖装置

車輪付き杖装置は、車輪の付いた杖型の視覚障がい者向けの歩行者案内システムで、杖の先端に車輪、センサ、コンピューターが付いていて、先端の車輪を接地させたまま杖を介して装装置を押して歩行することで、あらかじめコンピューターに設定された車輪が操舵を行い、歩行者を案内します。盲導犬の代わりになる杖型ロボというイメージです。

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(画像は大阪市立大学より)

4.電子白杖 スマートケーンSC1

スマートケーンは、杖部分の取り換えが可能な振動式電子白杖です。スマートケーン装置は、超音波を使って道にある、膝より高い位置の物体を検出し、 異なる振動パターンの形で距離情報を知らせ、ユーザーがそれらの物体について安全な距離から判断できるようにします。また素早く移動する物体やバッテリーについては音で知らせます。詳細についてはこちらのハンドブックで確認してください。

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(画像はアメディアより)

5.スマート白杖WeWalk

トルコの自らも視覚障害を持つエンジニアのKursat Ceylanさんが開発したスマート白杖「WeWalk」は超音波センサーでの160cm以上の高さを持つ障害物の感知に加えBluetooth4.2でスマホと連動させることが可能です。

また専用アプリを用いてスマホとペアリングさせ、Google MapからGPS情報を取得したり目的地への案内操作を行う事もできます。入力はタッチパッドと音声入力を選択できるそうです(現時点では英語とトルコ語のみ対応)。

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(画像はBUZZAPより)

こちらの記事もよければどうぞ。

6.ミズノケーンST

PLAYERS ・ Mizuno 共同企画による新白杖で2022年3月29日(火)から販売されます。コンセプトは「持って出掛けたくなる」で、スポーツメーカーのミズノ製ということで、軽さや握り心地、頑丈さや先端の青色が特徴です。

また。「ミズノケーン ST」は購入した時点で、外出先で白杖が折損したときに使用者を目的地までタクシーで送り届けてくれるサービスが付いているそうです。

(画像はPLAYERSより)

5 白杖用付属品など

1.ライトなど

①キーホルダー付きライト

ジェントスの白色LEDライトです。

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

②LEDライト付きキーホルダー

小型ライト付きのキーホルダーで、「日本ライトハウス情報文化センター」の刻印入りです。

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

2.ベル

白杖につけることができる小型のベルです。

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

3.白杖を固定するグッズ

①ころばぬ杖エクセレント

杖に装着し、お店のカウンターやテーブルなどに容易に引っ掛けることが出来ます。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

②傘杖ぴたっシュ

傘や杖をいろんなところに簡単に固定でき、繰り返し使える便利グッズです。杖などの口径に合わせて、調整して装着できる輪っか状のゴム紐とゴム止めリングが付いています。

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(画像は日本ライトハウス情報文化センターより)

③おでかけマスコット

杖がテーブルから倒れないように支えておくための、かわいいマスコットで、スヌーピーとピーターラビットの2種類があります。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

④カラビナ付きクリップ

カバンにつけておくと、両手を使いたい時などに白杖を固定することができます。

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(画像はmic21より)

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(画像はTwitter@toma12octより)

4.装飾品

①Pave Gemme(パヴェジェム)

白杖のグリップを美しく彩るコイル状のアクセサリーです。4種類が販売されています。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

② 白杖グリップカバー

白杖の白杖の握り部分を覆う筒状のカバーです。カバーのデザインは種類があり、ハンドメイドでオリジナルのものもあるみたいです。

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(画像は名古屋ライトハウス情報文化センターより)

5.反射材など

①白杖用反射テープ

白杖に巻く反射テープです。色は白と赤の2種があります。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

②蓄光テープ

太陽光・蛍光灯・白熱灯・白色LEDライトなどの光をエネルギーとして吸収し、暗がりで明るい黄色に光る超高輝度蓄光テープです。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

③グリミス 歩行用反射材キーホルダー

自動車やバイクのヘッドライトを反射して、ドライバーに歩行者の存在を知らせてくれる反射材キーホルダーです。

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(画像は名古屋ライトハウス情報文化センターより)

6.T字L字直杖用安全ストラップ

引っかかったりつまずいたりしたときに、杖から外れるようになっている安全設計のストラップです。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

7.応急修理グッズ

①やつはしくん

折りたたみ白杖を使用していて折れたときの緊急用補修キットです。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

②おゆまるくん

ダイソーなどの百均で売っているプラスチック粘土で、熱湯につけると柔らかくなり、常温になると固まります。

(画像はイチオシより)

こちらを白杖の破損箇所の応急処置に使われている方がいらっしゃいました。比較的強度は高いそうです。

8.白杖携帯袋

①白杖布袋

折りたたみ杖用の収納袋です。白杖を歩行で使用していると汚れたり濡れたりするので、カバンに収納する前に袋に入れるのです。

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(画像は日本点字図書館わくわく用具ショップより)

②手作りの白杖袋

手作りの白杖袋やカバンも販売されているようです。

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(画像はてんとうむし通信より)

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(画像はmine折り畳み式白杖ケースより)

9.白杖使用者向け音声誘導システム

TOA株式会社が開発したカメラで撮影した画像から白杖を認識し、自動的に音声案内放送を流す装置です。例えば、段差の前で「前方に下りの段差があります」のようにアナウンスし、場所ごとに応じた案内を行うことで、白杖を使用している視覚障害者の方を支援します。また、専用の白杖ではなく、普段大勢の方が使用している白杖を認識することができるのもポイントです。

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(画像はTOA株式会社より)

6 白杖の歴史

昔から視覚障がいの方が杖を使って移動している様子が絵画などに残っています(日本では平安時代の絵画に描かれているそうです)。映画「座頭市」の仕込杖もそんなイメージでしょうか。

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(画像はamebloやりすぎ限界映画入門より)

しかし、意外にも白杖の歴史は浅く、第一次世界大戦中(1914〜18年)からなのです。

フランス、ジャン・ドラージュが、盲人の白い杖を考案し、 「白いつえ」協会が設立されました。 その後、フランスから、イギリス→カナダ→アメリカへと視覚障がい者の白杖が広がります。

1930年には、アメリカのイリノイ州ペオリアで記録に残る最初の白杖に関する法令が出されます。

1931年には、カナダのトロントにて、国際ライオンズクラブ大会が開かれ、「国際的に白杖を視覚障害者の歩行補助具に」という決議がされました。

日本に、いつ、どのように、白杖が伝わったのかは僕にはわかりませんが、公的には1960年の道路交通法制定により、視覚に障害をもつ人の白杖の携行と白い杖を持った人の保護について定められ、補装具としても白杖(盲人用安全杖)が交付されるようになったそうです。

ちなみに、国際盲人連盟が10月15日を国際白杖日として制定しています。

7 白杖関係のゆるキャラ

別の記事『視覚障がい関係のゆるキャラ・マスコット まとめ』にも掲載していますが、白杖関係のゆるキャラを紹介していきます。やっぱり視覚障がい=白杖というイメージがあるので、ここで紹介する以外にも手に白杖を持っているゆるキャラが多いんです。

①つえぽん(埼玉県立特別支援学校塙保己一学園)

白杖の妖精で白杖からデザインされています。点字ブロックのポーチがおしゃれですね。盲学校ゆるキャラの先駆けで、ツイッターやフェイスブックのアカウントもあり、本家ゆるキャラグランプリにも出場しています。着ぐるみ貸し出しもあるそうですよ。TwitterやFacebookもしています。

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(画像はTwitter@tsuepon6より)

②はくたん(はくたんストラップ製作委員会)

はくたんは白杖のことを知ってもらおうと生まれた白杖の天使の非公式キャラです。尊敬する先輩はつえぽん先輩。TwitterFacebookをしているほか、ロービジョンについて周知するためのはくたんストラップが販売されています。

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(画像はFacebookより)

8 白杖を入手するときの注意点

1.補装具費の支給制度

白杖(視覚障がい者用安全杖)は、義眼や眼鏡と共に補装具になっていますので、視覚障がいで障がい者手帳を所持している方や難病患者の方は補装具費の支給制度を利用して原則一割負担で購入できます。

原則として購入は1本だけで、耐用年数(種類や材質によって異なるが2〜5年)を超えない限り、支給制度は利用できず、自費購入となります(原則修理となりますが、修理できない場合も自費購入になるそうです)。

自治体によっては成長期であるため長さを変更する必要がある場合や、予備用や用途の違うもの(直杖と携帯杖など)として申請する場合に2本目まで支給してくれることもあるようです。

なお補装具の購入前に必ず役所の福祉課(障がい福祉課)に相談してください。購入後に相談に行くと支給を受けられません。

2.専門家や専門店で相談しよう

役所の福祉課に相談に行き、その場で白杖を貰って意気揚々と盲学校へ持ってきたら、シンボルケーンや身体支持杖だったのを指摘され、慌てて返しに行ったという話を聞いたことがあります。残念ながら役所の職員さんの大半は視覚障がいのことを詳しく知ってはいません。

白杖はおおよそ鳩尾あたりの長さとされていますが、種類による違いも大きく、目的によって必要となるものは異なります。

必ず歩行訓練士や専門の販売店で相談してから入手・購入するようにしましょう。

9 白杖歩行の訓練について

視覚障がいの方がいきなり白杖を持ち、それを使って歩行できるかというとそうではありません。

ルートや手がかりとなる建造物(ランドマーク)を頼りに頭の中に地図をつくり、音も聞き分けながら、白杖を使ってタッチやスライドといったテクニックを使い情報を得ながら歩行していくのです。時には困ったとき、周りの人に助けを求めることも必要です。

そのような歩行の訓練を行うのが、日本ライトハウス国立リハビリテーションセンターで学んだ専門家、歩行訓練士(視覚障害生活訓練等指導者)です。

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(画像は産経ニュースより)

歩行訓練士の訓練を受けられる盲学校や福祉施設なもの全国の機関一覧表が日本ライトハウスのホームページに掲載されていますので、参考にしてください。

歩行訓練について紹介しているコラム(歩行訓練士スーちゃんとの街歩きコラム♪)あります。

また歩行訓練に興味のある方は、『白杖歩行サポートハンドブック(新潟県中途視覚障害者のリハビリテーション/山田幸男)』『見えない・見えにくい子供のための歩行指導Q&A(全国盲学校長会/青木隆一)』をお勧めします。

10 街中で白杖を持った方を見かけたときには

街中で白杖を持った視覚障がいの方を見つけたときに僕たちはなにができるでしょうか。

本当に危険なとき(毎年のように視覚障がいの方のホーム転落事故があります、そのような緊急の場合は別ですが、まずは声かけを優先してください)以外は、急に白杖や腕を引っ張ったり、背中を押さないでください。

まずは、様子を見ながら「どうしましたか?」「お手伝いしましょうか?」と声をかけて見てもらえればありがたいです。

具体的な誘導の方法などは、日本点字図書館ホームページに掲載されているリーフレット「いっしょに歩こう」が大変参考になります。

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(画像は日本点字図書館より)

当たり前の話ですが、白杖を持っている方は視覚障がいがあっても見え方はそれぞれです。迷って困っている方もいれば、一人で海外の知らない街でも歩くのを楽しむ方もいます。人に頼りたい人もいれば、自分のことは自分でしたい方もいます。みんなそれぞれです。

全ての人が助けを必要としている訳でもなく、逆に全ての人が助けを必要としている訳でもありません。なので「いいえ、結構です」「一人で大丈夫です」と断られても、また困った様子の方をお見かけしたら声をかけていただければと思います。

白杖を高く挙げる、白杖SOSサインというものもあるのですが(当事者間でも賛否両論あります)、あまり知られていません。杖を高く掲げていなくても困っている視覚障がいの方はいますので、やはり様子を見てお声をかけていただければと思います。

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(画像はBrand Newsより)

まとめ

視覚障がい者のシンボルでもある白杖の話、どうでしたか。

繰り返しになりますが、白杖を持っているのは全く見えない全盲の方をだけでなく、視力や視野などの見え方に困難さのある弱視やロービジョンの方も含まれます。

なので、白杖を持った方が電車の席に座ってスマホをいじることもあります(全盲の方で音声で操作されている方もたくさんいます)。

世の中いろいろな人がいるように、視覚障がいの方もそれぞれです見え方も人によります。

ですが、今回の記事で興味を持たれた方が白杖を使用されている方が困った様子かなと思ったときに声をかけていただければ助かる方は多いと思います。そのように、視覚障がいのことを知る、視覚障がいの方に声をかけるきっかけの一つにこの記事がなれば嬉しいなぁと思います。


参考にしたサイト

Wikipedia 白杖

歩行指導の方法と用具

神奈川県網膜色素変性症協会 白杖の歴史

コスモビジョンのホームページ 補装具の基準額と耐用年数

杖の歴史・・・白杖について

日本歩行訓練士会



表紙の画像はmHealth Watchより引用しました。