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現代における二度とコミュニケーションすら取れない別れ=愛の不時着である 2020/05/02

急に汗ばむ陽気になり、いつもより遠くまで散歩をしたら身体がしっかりと疲れた。少し足を伸ばした分、いつもと違うお惣菜が買えて嬉しい。RF1のミニエビフライ with タルタルソースとイカのマリネに最近ハマっていて、これをキンキンに冷やした白ワインと一緒にいただくのがたまらないのだけど、キンキンってほど白が冷えなかったのがほんの少し物足りない。

昨日に続き『愛の不時着』を見ているのだけど、だんだん盛り上がってきた。富豪の娘がパラグライダーで飛んでいたら竜巻に巻き込まれて北朝鮮に不時着、助けてくれた兵士と恋に落ちちゃうという設定。真っ先に想起されるのは『ロミオとジュリエット』であり、敵同士という設定はもちろんなのだが、自由に会えないってのが恋愛ドラマを盛り上げるにはとても大切な要素な訳で、女は北朝鮮からの脱出を望むが、望みが叶うことは男ともう会えないことを意味するというダブルバインド状態。

何が言いたいかというと、zoomやらなんやらというテレビ会議的な仕組みが爆発的に普及して、世界がさらに急速にその距離を縮めた今、コミュニケーションすら取れないレベルでの会いたいけれど会えないっていう設定は、難しいものになってきている。例えば日本を舞台にすれ違わせようとすると、時空の違うすれ違いになって『君の名は』みたいなことになったりするし。あれはあれで発明なんだと思うけど、古典的な恋愛劇の条件を現代で再現することは難しいことなのだなぁと思いながらの大事な話は『愛の不時着』である。

韓国に戻れたら二度と会えない、コミュニケーションすら取れない、なのに恋に落ちてしまって、帰りたいのに帰りたくない。二人にとって当初の目的であった韓国に無事に帰れるようにすることが二人の別れを意味し始め、でもそうするともう会えない、だって38度線越えられないもん、という確かにここには現代における”会えない”という設定にある種のリアリティがあるんじゃないのか。

世界の距離が縮まる、離れた場所にいてもコミュニケーションが取れる、という情報、通信の革命は今なおインターネットと様々なツールの普及といった形で進んでいる訳だけど、じゃあインターネットの普及によって初めて起きたことかというとそうではなくて、電信の普及とそれが人々に与えた影響は驚くほど似ているよ、というのがトム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』で、読み始めたらこれがめちゃ面白い。

電信はコミュニケーションにおいて、活版印刷以来の最大の革命を引き起こした。現代のインターネットの利用者は、多くの点で電信の伝統の後継者である。つまりわれわれは現在、電信を理解できるユニークな状態にあるということだ。そして電信は逆に、インターネットのチャレンジやチャンスや落とし穴について、われわれにすばらしい洞察を与えてくれる。
トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』P.4

普及してくると商取引のメッセージを伝えることに活用され始めるのだけど、複雑なメッセージをいかに簡単に送るか、つまり情報の圧縮と解凍といったことが様々な暗号の活用によって試みられていく。

こうした商用の暗号を使うと、例えば「西部のコモン・アンド・フェア、ブランドの小麦粉の市場は低迷するも国内市場と輸出市場はそこそこ、(ミシガン州の)ジェネシーでは小麦が8000ブッシェルあたり5.12ドルで取引され需要は活発で市場は堅調だが下げ基調で不振の傾向、コーンは4000ブッシェルあたり1.10ドルで取引も海外のニュースで市場が不安定、67セント2500ブッシェルの売りがあったのみで特記事項なし」は「悪いことが、船尾から、来て、重く、鋭い、痛みが、のしかかり、障害を、承認」(BAD CAME AFT KEEN DARK ACHE LAIN FAULT ADOPT)という、たった9語に縮められた。
トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』P.118 - P.119

1つの単語に言葉本来とは違った意味を符牒として持たせるやり方は寿司屋のあがりみたいなもんだけど、1つの単語の情報量が膨大になっていくと、1字のスペルミスで意味が全く変わってしまうという情報伝達としての脆弱性を持ち始めてしまうって話とかも面白い。Instagramで縦読みしたら不倫のメッセージなんてのも原始的な暗号なのだろうなぁ、でも誰でも解読可能で公開するというのは秘匿性がなさすぎて読み解かれてしまうわけだ、とか改めて暗号の歴史も面白いよね、などと思いつつ、この他人から見たら何の役にも立たない日記にも隠れたメッセージが含まれているかもしれないなどと夢想してみたりする。

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