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「遊び場のデザイン」を通じての出会い、学んでいること

こんにちは。

私は現在、ベルリン郊外の遊具製造会社に属するデザインスタジオで、公園と遊具のデザイナーとして働いています。

この仕事を通じて、公園や遊具のデザインのプロセスやヨーロッパでの遊具の安全基準といった仕事の内容はもちろんですが、他にもたくさん学ばせてもらっています。

今日はそのことについて書きたいと思います。

遊具デザインを通じて見えてきた他の国の一面についても書いているので、よければこちらも読んでみてください。


インクルージョン

「インクルージョン」「インクルーシブ教育」「インクルーシブデザイン」など、日本でも耳にする機会も増えてきているかと思います。

これまでもいろいろなプロジェクトで「インクルーシブデザイン」や「ユニバーサルデザイン」について触れる機会があったのですが、遊具のデザインの仕事を始めてから、しっかりと学ぶようになりました。

インクルージョンとは、誰もに平等に機会が与えられた状態を指し、インクルーシブな遊び場とは、障害のある子もない子も大きい子も小さい子もどんな背景を持った子たちも遊べる、みんなのための遊び場です。

こちらはインクルージョンのテーマでよく見かけるグラフィックです。
NPO法人さんまクラブさんのホームページより拝借しました。

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「インクルージョン」とは、障害の有無に限ったことではなく、社会のいろいろな場面において適用されるべき考え方です。
例えば、外国人差別もイクスクルージョン(排除)に当たりますよね。
また、移民を受け入れたとしても、郊外の辺鄙なところに集団で住まざるを得ず社会と分離されてしまっている場合は、セパレーション (分離)。
2015年頃にドイツでたくさんの移民が受け入れらた際に、このような状況が見られました。

また、障害のある子どもたちのためだけに作られた遊具は、インテグレーションと言えます。障害のない子どもたちにとっては退屈な遊び場になってしまう場合もあります。


40年以上みんなのための公園や遊び環境を研究・デザインしているデンマーク生まれの遊具メーカーKOMPANによると、アンケートに答えたドイツの車椅子の子どもたちの57%が一度も公園で遊んだことがないそうです。また71%が、近所の公園は車椅子ではアクセスできないと答え、93%の子どもたちが、車椅子では近所の公園の遊具では遊べないと答えたそうです。(2019年現在)

ひどい。。。

自分ができることから少しずつでもやっていかないと!と、インクルーシブ教育やインクルーシブデザインのワークショップや講習会に参加する度に光が見えたような気持ちになるのですが、いざ実際にデザインをしてみると。。。
んー、難しい!!
視覚の弱い子たちには色のコントラストが必要になってくるし、そうすると自閉症など外的要因に敏感な子たちには刺激が強くなりすぎるし。小さな公園にみんなのための遊具を、は物理的に難しいし。その公園ごとに大きさも地面も予算も周りの遊び場の環境も違うし、みんなのための公園、近づこうとすればする程、遠くなる。。。そんな感覚に陥ってしまいます。

ドイツでは公園におけるインクルージョンの基準が作成されているところで、昨年から、今にも完成!と言われています。

市によってはインクルーシブな公園が要請されているので、その条件を満たさないといけないから、という理由で、あまり深く考えずに公園の隅に車椅子の子どもたち用のブランコやメリーゴーランドを設置する、というようなケースも見られます。
予算の関係もあるのですが、セパレーションやインテグレーションの状態になってしまっていることも多くあり、ドイツの公園のインクルーシブデザインにもまだまだ課題が多い状態です。

また、ドイツで公園におけるインクルージョンへの取り組みが始まった頃、障害のある子どもたちのための公園や遊具に重点がおかれ、障害のない子どもたちにとって退屈になってしまうということが起こり、「インクルーシブな公園」をネガティブに捉える人もいるようです。
そんな背景もあり、ドイツでも「みんなのための公園」と呼ばれるようにもなってきています。

インクルーシブ教育にもインクルーシブデザインにも、ひとつの正解!というものはなく、難しい。

すべての遊具をみんなのために、ではなく、周りの遊び場も含めて、ひとりひとり誰もが遊べる環境を、と考えて取り組んでいます。

「インクルージョンは頭の中から始まる」と思っています。
みんながよりよく一緒に生きていける社会をみんなで一緒に考えていく、それがインクルーシブな社会に繋がっていくと思います。

日本で多くのあそび環境作り実現されているボーネルンドさんが、デンマーク生まれの遊具メーカーKOMPANによるインクルーシブ・プレイグラウンドのガイドを日本語で紹介されています。
英語で詳しく読みたい方は、こちらを。公園や遊具の具体的な例も紹介されています。


また、「みーんなの公園プロジェクト」さんが、身近な公園をあらゆる子どもたちがもっと楽しめる場にするための様々な情報を発信されているので、興味がある方はぜひ。こんな書籍も出ています。


一般社団法人TOKYO PLAYさんと共同で、ダウンロードできる「インクルーシブな遊び場づくりミニガイド」も出されています。


子どもの参画

ドイツでは、1920年代から、政治的教育の中で子どもの参画が唱えられてきました。
1960年代からは、家庭や学校の中でも子どもの意見に耳を傾けることがさらに重要視されるようになり、1992年に国連子どもの権利条約が承認されてから、子どもの参画の権利がいろいろな場面で真剣に捉えられるようになってきました。

児童・青少年援助法(KJHG/Kinder- und Jugendhilfegesetz)により、
・子どもたちの明るく健やかな生活条件
・子どもとその家族にやさしい環境づくりとその保護
・子どもと若者が関わる場面での参画
が定められています。

ここでいう子どもとは14歳未満、若者とは14歳以上18歳未満を指します。

こちらは、子どもの権利と子どもの環境の研究者、ロジャー・ハートさんによる、「参画のはしご」と呼ばれているものです。

参画のはしご

公園や校庭の計画の際にも、一見子どもたちや若者が参加しているように見えて、「操り参画」、「お飾り参画」、「形だけの参画」のようなものも多く見受けられます。
ここでも見られるように、参画と言っても、子どもたちが実際にどれくらい主体的に関わっているか、段階があります。

私は、アイデアを出したりする初めの段階で子どもたちと直接関わることはほとんどないのですが、まちや地域の公園担当の方や子ども若者課の方を経由して、スケッチやモデルといった形で私たちの手元にプロジェクトが届きます。
参画の段階はプロジェクトごとに様々ですが、そこには子どもたちのアイデアや願いがたくさん詰まっていて、毎回とてもわくわくします。

こういったプロジェクトで私にできることは、子どもたちが遊ぶ姿を想像しながら、届いたスケッチやモデルをできるだけ子どもたちの願いに忠実に、そしてみんなが楽しく遊べて身体的・精神的・社会的・認知的成長の手助けになるような現実の形にすること。

自分たちが関わった遊び場が完成すると、子どもたちは誇りに思い、そこで楽しく遊べるようになり、友達も誘うようになります。また、自分たちの大切な遊び場を破壊するような行為も少なくなります。
また、遊び場に関わらず、プロジェクトの進行に関わることで、主体性や協調性も生まれ、自分が参加したプロジェクトが完成した達成感を味わい、次への自信にも繋がります。

子どもの参画による公園の実現による前向きな例がドイツを始めヨーロッパの各地でも報告されています。


公園での出会い

私はよくジョギングをするのですが、公園の遊具があるところに行って、そこで遊んでいる親子によく話しかけます。
なので、「出会い」と言っても、自分から話しかけに行っているのですが。

私が働いている会社には、残念ながら、子どもたちからの直接的なフィードバックがなかなか届きません。
デザインして設置された後に返ってくるのは、修理に関することがほとんどです。

こどもミュージアムでファシリテーターとして働いたり子ども向けのワークショップをしたり、子どもとできるだけ触れ合って学ぶ機会を作ってはいるものの、子どもたちが公園や遊具で遊んでいる様子は自分で見に行かないと!と、できる限り公園に足を運んでいます。

子どもにいきなり話しかけると保護者の方や同伴の大人たちに不審に思われてしまうので、保護者の方にまず話しかけます。

「遊具のデザインをしていて、子どもたちの遊ぶ様子を見たり声を聞いたりしたい」と伝えると、大抵の場合は快く対応してもらえます。子どもたちのお気に入りの遊具、年齢、どういう遊びが好きなのか、近所の遊び場全体の環境、もっとこうしてほしいなと思うところ、作ってほしい遊具など、聞くとどんどん出てきます。

やっぱりそうかぁと思うこともあれば、考えもしなかったことや新しい発見もあって、生の声はやっぱりとても大切です。

昨年のロックダウン中は公園も閉鎖されてしまって外遊びにも制限がかかる状況が続いたのですが、今はまた開放されていて、子どもたちもまた外で元気に遊んでいます。

今はまだソーシャルディスタンスを保たないといけないので、知らない人にたやすく声をかけられず残念ですが、また公園でいろいろな人とお話ができるのが楽しみです。


子どもたちとのアイデア会議

私には小さいお友達がたくさんいます。
保育園児から中学生まで、みんな、私にとって頼もしいアドバイザーです。

子どもたちに「遊具をつくる仕事をしている」を話すと、
「Cooooool!!!」と言われて嬉しくなる私。

自慢したいわけではなく、「遊具をつくる仕事」が子どもたちにとってかっこいい職業として受け止められる、ということが嬉しいのです。
「遊具」が好きだから、そんな反応をしてくれるんだな、と思えるのです。

私は、この記事にも書きましたが、子どもの頃公園が好きになれなかったし、遊具に関わる仕事をするなんて思ってもいませんでした。

私の頼もしい小さなお友達たちは、だいすきな公園や遊具の話をしてくれたり、おもしろい遊具を見つけたら写真を送ってくれたり、公園のスケッチを書いてくれたり、とっても協力的なのです。

また、アイデアが出ないときには、みんなに助けを求めることも。
「こういうテーマで、何歳から何歳までを対象にこういう遊具、どういうのがいいかなぁ?」
「この遊具、幼稚園の子どもたちには難しすぎるって言われたんだけど、みんなどう思う?」
「これ、中学生には退屈じゃない??」

子どものための遊び場づくり、子どもたちの声を聞くのが一番。

。。。なんて言いながら、少し頼りすぎなのかもしれませんが、面積や予算や安全基準関係なしのファンタジーいっぱいのアイデアに助けられながら、子どもたちに楽しんでもらえる遊び場づくり、がんばっています。


以上、とっても長くなってしまいました。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!

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