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ガセ大陸の謎 - ④マティーニで乾杯

「今日は君に言いたい事を伝える為に、この席を用意したんだ」

「え?」

「君を心から愛している。ずっと昔から。そして今も、これからもずっと」

「嬉しい・・・私も貴方に会った時からずっと貴方の事を・・・」

「ありがとう。だが、そこから先は極上なこのマティーニと一緒に。ま、君には当然敵わないが」

「素敵。ここから見える摩天楼が私たちを祝福しているかの様」

「君の瞳に、乾杯」

「乾杯・・・」

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と、独り言をお経のように繰り返しながら、本誌特別調査チームは仄暗い場末の炭鉱みたいなトンネルをひたすら奥へ進んだ。

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3人が同じタイミングで立ちションを済ました頃、地面に重要な手掛かりと思われる謎の文字が。

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まるで最近書かれたかのような保存状態で残されていた文字からは、ガセ大陸の技術の高さが垣間見える。この調査に参加出来た事を誇りに思う。

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お互いの残尿跡を見て見ぬふりをしながら少し歩くと、線路が途切れ、突き当りは塞がれていた。我々の尿道も塞いで欲しいなどと意味不明な供述をしながら失笑しつつ、光が漏れている鉄格子のドアを開ける事にした。

「!」

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ドアを通過した瞬間、閃光と共に電波障害の様な映像が見えた気がした。

「キャベツの芯に何か入れられたか!」

隊長の真田幸町(44)が咄嗟に叫んだが、日頃の不摂生の可能性も否めない。それぞれが密かに自前の酒を飲んでいたのも原因かもしれない。もしくはエロ動画の見過ぎによる寝不足であろう。老化の線もある。

副隊長の大島照夫(39)が持っていたウェットティッシュで顔を拭くと、メンソールで目がスースーしたが、どうにか前方が確認出来る。

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「間違いない、キャバクラ幕府だ!うおおおお!」

隊長のテンションがうっとおしい位だが、恐らく誰がどう見てもここがキャバクラ幕府だ。テンションが上がるのも頷ける。

激しいのか優しいのかよくわからないテクノが流れ、いかにも最近オープンした店の様だが、そんな事はもうどうでもいい。問題は、人が見当たらない事と、既に席についておしぼりで顔を拭きだし、メニューを開いた副隊長である。

「マ、マルチニ?3つで!」

恐らくマティーニ(Martini)の事であろう。誰も居ないのに誰に言ったのかもよく分からない。そしてこんなにマティーニが似合わない人も珍しいが、間違いなくこの3人は誰も似合わないだろう。

「はーい」

隊長が店員のふりをして返事をしたので、スリッパを取り出そうと思った次の瞬間、奥からドレスを纏った謎の女が現れた。どう見ても案内人のアン・シナナイ氏(34)だが、ここはお手並み拝見といこう。

「ここはキャバクラ幕府。あなた達はさっきのドアを通った時、この時代にタイムスリップしたのよ」

慌ててスマホを見ると、1577年の表記に。

「このスマホすげえ!」

隊長と副隊長が同時に声を上げたが、全くその通りである。どんな技術なのか想像もつかないし、考えるのも馬鹿らしい。頼もしい2人と共にそのまま流れに身を任せよう。

「さっきまで信長様がそこの席で鉄砲の取引をしてたのよ。どっかの西洋人相手に」

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そのどっかの西洋人が重要だが、深入りするのは危険だ。そのまま信長の野望に没頭してしまう恐れがある。

ガセ大陸の歴史などどうでも良くなってきた頃、入り口のドアから一人の男が足早に近づいてきて、突然土下座をし始めた。

「この通りだ、力を貸してほしい!」

既に酔っ払って半裸で阿波踊りをし始めた隊長と副隊長を一本背負いで投げ飛ばし、男を席に座らせた。

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「私はアトランティス大陸の外交官、スライダー・ウォーターと申します」

楽しそうだがよく滑りそうな名前のこの男によると、アトランティス大陸に侵略の魔の手が伸びていると言う。金を要求するアン氏の手を払いのけ、撃沈している酔っ払い二人を叩き起こし、事情を更に詳しく聞くことにした。

つづく


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