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特別展きもの@東京国立博物館


絶対に見たいと思っていた展覧会、行ってきました。
中止になってしまうのでは、と案じていたので見られて本当に嬉しいです。

小袖=きものという括り

現代では「着物」と言えば和装全般を指しますが、この展覧会では現代の着物の原型である「小袖=きもの」と考え、小袖から後の歴史を辿る構成でした。
日本の衣裳と考えれば着物の括りに入るはずの、いわゆる「十二単」は、袖口を縫い留めない「広袖」であり、袖口の狭い「小袖」とは形状が違うため、この展覧会では除外されています。
貴族が着ていた広袖の着物の下着であった小袖が、下の階層の表着に昇格し、幅広い身分の服装となって今に至るわけなので、きもの展は武家階級の衣裳の変遷を軸にした展覧会、とも言い換えられますよね。

「広袖」や「小袖」の概念については、私も「きもの検定」のための勉強をするまではちゃんと知らずにいたし、知らない人のほうが多いと思います。なんであんなに形が違うの?という素朴な疑問は誰もが持っていると思いますが、敢えて小袖以降にするというのは面白いなと感じました。

きものの柄の変遷

時代順に展示されていたので、有職文様のような連続柄から、現代に受け継がれる、絵羽模様のような絵画的な柄に至る背景がよくわかりました。

私は安土桃山辺りの「片身替り」や「四替り」のような連続性も残った大胆な柄行が好きなのですが、当時は男性も柄物を着ていたということなので、男女ともに着られるようなものが好まれたのでしょうか。
現代の女性らしさとはちょっと異なる感覚なんでしょうね、デザインが全般的にカッコいい。

柄の変化は、着物の着方の変化によるところも大きかった、というのもよくわかります。
特に、帯の幅の変化の影響。
帯が一定の幅を持つようになると、帯を挟んで上と下に模様を分けるようになり、帯が更に広くなると、必然的に柄の間隔も空く。

帯だけでなく、髪型の変化も当然影響を及ぼしていますよね。
江戸時代に、女性の髪形が結び下げる形から結上げる形になったことによって、背面の柄が強調されるようになった。
分割されてしまう前身頃よりも、つながっていて面積の広い後見頃のほうが絵を描くには適しているわけだし。

柄のことで面白かったのが、被衣。
女性が顔をあらわにしないよう、頭から被る衣裳ですが、頭頂部に家紋などの大きな模様を配するのがある時期流行したそうです。
現代のパーカーのフードに柄を入れるようなものですよね。
花嫁の綿帽子も用途が同じと考えれば、本来白一色の綿帽子にワンポイントの刺繍なんかが入れてあるものも、あながち間違っていないのかも。

江戸時代の倹約令などお洒落には厳しい時代にも、友禅など染めの技法が発達したり、渋い色目や江戸褄模様のような逆手に取ったデザインが誕生していて、昔の人たちの探求心に頭が下がります。

篤姫の衣裳

刺繍フェチの私は、2008年の大河ドラマ『篤姫』の、ふっくらした見事な刺繍の衣裳の数々を惚れ惚れしながら見ていました。
同時に、本当にこんなに豪華だったの? 「盛って」ない? と少々疑っていたんです。
きもの展には篤姫こと天璋院の衣裳も展示されていて、大河ドラマはきちんと再現していたんだ~と、納得した次第。
NHKさん、衣裳考証の先生、疑ってすみません……。
天璋院は雀がお好きだったようで、展示されたものにもたくさんスズメのモチーフが使われていました。
私も雀は好きなので、ふっくらと本物さながらな刺繍の雀たちを楽しく見ましたが、鄙の意匠を豪華な刺繍で、ってところがオカネモチの贅沢な遊びだったんでしょうね。

今年の大河ドラマ『麒麟がくる』でも衣裳が話題ですよね。
とてもカラフルな衣裳には疑問の声が上がったようですが、きもの展では色の豊富さにも驚いたので、それなりの身分の武士たちならカラフルなものを身につけられただろうと納得です。

銘仙の栄枯盛衰

近現代のきものもたくさん展示されていました。
私の地元周辺の産業である銘仙もずらりと並べられていて、壮観な点数でした。

銘仙はやっぱり派手!
当時の写真はモノクロしかないので、色のイメージが薄いせいか、見るとちょっと驚いてしまいます。
つくづく、昔は派手な色柄を当たり前に着ていたんだなぁと。
今でいえばワンピースみたいな感覚で着る、お洒落着的な位置づけでしょうか。

足利銘仙のポスターが出ていたのですが、これもまたキレイ!
鏑木清方や伊東深水などの大御所に依頼したりしていたのを見ると、当時の銘仙業界の羽振りのよさ、流行ぶりが伺えます。
私の地元は、かつては農家がお蚕を飼うのが当たり前の土地柄。
なるほど太い産業だったのだなと感じます。
私が小さい頃にはまだ桑畑もあちこちにあったのですが、もうすっかりなくなってしまいました。
最近、足利や伊勢崎が銘仙の復刻を試みたり、桐生で現代のデザインで商品開発をしたり、活気を取り戻そうという動きがあるそうなので、応援したいです。

いわゆる”アンティーク”の時代の近現代の着物たちも、着姿で見られて最高でした。
フォーマル系の古いきものは、池田重子先生の展覧会などで何度か見ましたが、戦前までの自由な雰囲気が本当に素敵です。
おあつらえだからできるコーディネートですが、憧れますね。

モダンキモノの最たるものとして出されていたYOSHIKIさんの着物も、まだ感覚的なことしか思い浮かばないんですが、私は結構好きです。
デザインや着方は崩してあっても、”ちゃんと着物”の要素を持っていると感じたんですよね。(上手く言えない……)

複製された2枚の着物も、エントランス付近に展示されていました。
若衆が着たという振袖「白縮緬地衝立梅樹鷹模様」、尾形光琳が世話になった家の奥方のために直接描いたという小袖「白綾地秋草模様」。
秋草の小袖はIKKOさんがお召しになっていましたが、とってもお似合い。
以下、IKKOさんのコメントを引用します。

きものをキャンバスにして宝石の様にちりばめられている秋草模様は、着つけてみると、帯が当たる部分を計算しながらデザインがまとめられていることに気づかされますし、纏った時に解る、左右の絶妙なデザイン配置の巧みさにも驚きました。
着た人を美しく上品に見せる、そんな尾形光琳の心遣いが感じられます。

図録はテキストとして秀逸

万が一展覧会が中止になったら……と心配していたので、図録は絶対手に入れようと思い、事前に通販で買いました。
これがものすごいボリュームで、写真だけでなく解説もたっぷりです。
まだ全部読めていないので、時間を見つけて少しずつ読むつもり。

内容的に全国から見に来る人がたくさんいて、本来なら五輪イヤーで、観光客も見込んだ展覧会だったはず。
混雑覚悟で開催を待っていたので、コロナ禍の影響で予約制になり、ゆったりと見られたのはラッキーでした。

余談ですが、きもの展とのセット券も販売されていた東博の「法隆寺」展、科博の「和食」展は中止になってしまい、本当に残念でした。
「和食展」は図録だけ購入、食に携わるものとしてはテキストとしても素晴らしい内容で、つくづく展覧会が見たかったなぁと。
見にいくつもりだった展覧会が会期途中で中止になったりして、悔やみきれない想いを味わった後だったので、「きもの展」の開催には感謝してもしきれません。

見たいということだったので、友人のムスメちゃんと一緒に行きました。
大学で国際関係の勉強をしているので、彼女は英語でもキャプションを読んでいて、楽しんでいました。
確かに、展示物によっては日本語と合わせて英語も読んでみると、日本語よりも説明が詳しくてわかりやすいです。

それから、この鑑賞に合わせて単眼鏡を買ってしまいました!
刺繍を細部まで見るのに、やっぱり欲しくなって。
針目まではっきり見えて大満足、鑑賞も大充実です、サイコー。

この『見返り美人図』も展示されています。

会期は残り3日ですね。
酷暑の中ですが、着物を着ていく方も多いんだろうな。
これから行く皆さんもぜひ楽しんでください!

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