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貴方の”本当の幸せ”はなんですか?

先日からあるところでライターレッスンを受け始めました。

毎回四苦八苦しながら色んな書き方、表現の仕方を模索しています。

そこで書いた「自分の好きなモノ・コト」をここに載せておきたいと思います。

皆さんは「銀河鉄道の夜」を読んだことがありますか?

私がこの小説に出会ったのはざっと振り返ってももう20年以上前、
小学校低学年の時だったと思います。

正確に言うと私が初めて会ったのはアニメーションの銀河鉄道の夜でした。

きっかけは私の母が「銀河鉄道999」を借りてこようとして
間違えて借りてきてしまった事でした。

今思うとコントみたいな間違え方ですが、そんなきっかけから私はこの物語にハマり、
自然と日本文学のトップを飾るこの物語に触れることになったのです。

そう考えると人生、何がきっかけになるか分かりませんね。

ただ、この小説の世界観は独特である上に、
文体が昔のままで書かれていて読みにくい部分も多いため、いざ読んでみたものの
「結局何が言いたいの・・・?」
「最初がずっと暗い話ばっかりで挫折してしまった・・・」
という方も多いと思います。

そんな方に向けて、今回は私が銀河鉄道の夜の素晴らしさを余すところなく伝えていきたいと思います!

~銀河鉄道の夜のあらすじ~

主人公ジョバンニは病気の母を抱えながら昼間は学校で勉強し、
学校が終わった後は活版印刷所で活字拾いのアルバイトをしています。

父は北の海に仕事で出かけたまま、手紙は来るものの、もう何年も帰ってきていません。
クラスメイトのザネリはそれを面白がり、
ジョバンニの父はラッコの漁で捕まったという噂を流してジョバンニをいじめ始めます。

そんな中でも幼なじみのカンパネルラだけは別でした。

ある星祭りの夜、ジョバンニは自分の家にだけ牛乳が届いていないのに気づき、
母親に取りに行ってくると伝え出掛けます。

その途中の広場で星祭りのために集まっていたクラスメイトに会いますが、
またもザネリに遭遇し、ジョバンニは広場から逃げ出しました。

しかし唯一、そのジョバンニの姿をカンパネルラだけがそっと見つめていました。

広場から走ってふと気づくとジョバンニは街から遠く離れた丘に来ていて、ぼんやりと夜空に浮かぶ無数の星たちを眺めていました。

その時、一つの星が強く光りそれはどんどん近づいてきて、ジョバンニの目の前に大きく黒いSL電車が現れます。

その列車の中で、ジョバンニは星祭りにいたはずのカンパネルラに会うのです。

ではみなさんは、
そういうふうに川だと言いわれたり、
乳の流れたあとだと言われたりしていた、
このぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか
(『銀河鉄道の夜』より引用)

銀河鉄道の夜は、教室で先生が言った、この言葉から始まります。

授業中、ジョバンニは先生からこの質問をされますが、答えられません。

親友のカンパネルラも同じ事を聞かれますが、彼も黙ったままでした。

それを見てジョバンニはこう思います。

このごろぼくが、朝にも午後にも仕事がつらく、学校に出てももうみんなともはきはき遊ばず、カムパネルラともあんまり物を言わないようになったので、カムパネルラがそれを知ってきのどくがってわざと返事をしなかったのだ、
そう考えるとたまらないほど、じぶんもカムパネルラもあわれなような気がする
(『銀河鉄道の夜』より引用)

ここではクラスメイトとも上手くいかず、親友のカンパネルラにさえも気を遣わせてしまった自分はなんて情けないのか……と落ち込む姿が描かれています。

そんな中、汽車の中で久しぶりに2人だけでいられる事にジョバンニはほっとし、
嬉しく思いますが、カンパネルラはあまり嬉しそうでなく次のように呟きます。

「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか」
「ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸いになるなら、どんなことでもする。けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸いなんだろう」
けれども、誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸いなんだねえ。だから、おっかさんは、ぼくをゆるしてくださると思う」
(『銀河鉄道の夜』より引用)

ジョバンニはこのとき、まだこの言葉の意味が分かりませんでした。

~蠍の火~

銀河鉄道の夜のストーリーの終盤「蠍の火」という話が出てきます。

私はこのストーリーがとても好きで、
この話はこの物語のキーになると言っても過言ではないと思います。

ジョバンニ達は後半、
汽車の中である少女とその少女の弟を連れた若い男の人に出会います。

彼らの身体はびしょ濡れで、弟は靴を片方無くしていました。

兄弟を連れた若い青年はこう話し始めます。

「船が氷山にぶっつかって一ぺんに傾きもう沈みかけました。月のあかりはどこかぼんやりありましたが、霧が非常に深かったのです。ところがボートは左舷の方半分はもうだめになっていましたから、とてもみんなは乗り切らないのです。もうそのうちにも船は沈みますし、私は必死となって、どうか小さな人たちを乗せてくださいと叫びました。~そのうち船はもうずんずん沈みますから、私たちはかたまって、もうすっかり覚悟して、この人たち二人を抱いて、浮かべるだけは浮かぼうと船の沈むのを待っていました。
(『銀河鉄道の夜』より引用)

皆さんはこの青年の台詞を聞いて、何か思い浮かびませんか?

実はこのストーリー、タイタニック号から強い影響を受けています。

宮沢賢治が10代の頃、実際にタイタニック号のニュースが世界を騒がせていたため、
このストーリーもそれがベースになっていると言われています。

そしてこのあたりから、ジョバンニは今、自分が乗っているのが死者を乗せる、あの世行きの汽車だということに気づいていきます。

私が好きな「蠍の火」はこの後、夜空に赤く浮かぶさそり座を見て、女の子が呟くシーンから始まります。

「むかしのバルドラの野原に一ぴきの蠍がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命めいにげてにげたけど、とうとういたちに押さえられそうになったわ、
そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、
そのときさそりはこう言ってお祈りしたというの。

 ああ、わたしはいままで、いくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命めいにげた。
それでもとうとうこんなになってしまった。
ああなんにもあてにならない。
どうしてわたしはわたしのからだを、だまっていたちにくれてやらなかったろう。
そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらんください。
こんなにむなしく命をすてず、どうかこの次には、まことのみんなの幸いのために
私のからだをおつかいください。
(『銀河鉄道の夜』より引用)


蠍はこのあと自分の体が真っ赤な火になって夜の闇を照らすさそり座になります。

私は小さいころこのシーンを見てもそこまで深く考えませんでしたが、
今こうして振り返ってみるととても深いメッセージを感じることができます。

~黒い河~

物語の最後、ジョバンニとカンパネルラ以外の汽車に乗っていた人たちはみんな汽車を下りて窓から見える大きな十字架の元へと向かっていきます。

がらんとした汽車の中、ジョバンニとカンパネルラだけになったところでジョバンニはこう
つぶやきます。

「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。僕はもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなの幸いのためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない」
(『銀河鉄道の夜』より引用)

しかし、振り返るとそこにはもうカンパネルラの姿はありません。

ジョバンニは、自分が持っている切符がカンパネルラのとはやはり行き先が違うことを悟り、その場に泣き崩れます。


そしてふと目が覚めると、ジョバンニは涙を流しながら最初の丘の上で横になっていました。

夜空にはつい先ほど見た天の川と、その隣に薄くぼんやり蠍座が光っています。

ジョバンニは家で待っているお母さんのことを思い出し、牛乳屋へと足を急がせ、無事牛乳屋から牛乳を貰って帰る途中、街の橋のあたりで大勢の人が集まっているのを見かけます。

ジョバンニは胸騒ぎがしました。

なぜなら、そこは先ほど会ったカンパネルラ達が星祭りのために向かっていた河の橋だったからです。

するとクラスメイトの1人がジョバンニを見つけて走ってきてこう言います。

「ジョバンニ、カムパネルラが川へはいったよ」
「どうして、いつ」
「ザネリがね、舟の上から烏うりのあかりを水の流れる方へ押してやろうとしたんだ。そのとき舟がゆれたもんだから水へ落っこったろう。するとカムパネルラがすぐ飛びこんだんだ。そしてザネリを舟の方へ押してよこした。ザネリはカトウにつかまった。
けれどもあとカムパネルラが見えないんだ」
(『銀河鉄道の夜』より引用)

カンパネルラのお父さんも見守る中、
大勢の人たちがランプをつけながら黒い河を無言で探していました。

けれどもジョバンニは、カンパネルラはもうあの空の銀河のはずれにしかいないことを知っていました。


~本当の幸せを探す旅~

この物語最大の焦点は「本当の幸せとは何か」です。

それは「蠍の火」でも描かれていますし、汽車に乗ってすぐのお母さんを思うカンパネルラの言葉からも感じることができます。

宮沢賢治自身、最愛の妹を亡くし、晩年はどうしたら人々のためになるかと常に考え、生きてきたと言われています。

これは、形は違えど、現在生きる私たちにも繋がるメッセージだと私は思っています。

バブル崩壊後の時代を生きてきた私たちは、物心つく頃にはほとんどの人が何不自由なく暮らしてきました。

戦後の様に食べるものに困ることもなく、ほとんどの生活必需品は揃っていて、
迷うことなく義務教育は受けられる環境が整っています。

しかし社会人になって働き始めた頃にふと「自分の幸せは何だろう」と思うのです。

それは自分がどんな仕事をしていきたいか、であるかもしれないし、

どういう風なライフスタイルで過ごすか、であるかもしれないし、

早いうちに結婚・出産して家庭を築くこと、かもしれないし、

子供の成長を優しく見守ること、かもしれないし、

きっとそれは人の数だけ答えがあると思いますし、
中には答えがすぐに見当たらない人もきっとたくさんいるでしょう。

銀河鉄道の夜が50年もの長い間たくさんの人に愛されている作品なのは、この物語を読むことで「自分の本当の幸せ」を見つめなおすきっかけになるから、なのかもしれません。

貴方の「本当の幸せ」はなんですか?

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