研究初心者が陥りがちな罠〜研究と実験のデザイン
はじめに
前回のnoteでは、テーマ選択について研究初心者が陥りがちな罠とその対処療法的な解決方法について述べました。今回のnoteでは、研究テーマを選択した後の、研究と実験のデザインについて述べたいと思います。
このnoteは、ある程度自主的に物事を進めることができる「優秀」な研究初心者や学生向けではなく、系統的な研究指導・教育を受けることができない「放牧」型の生命科学系研究室に入ってしまった「普通」の方向けへの解説となっています。ちなみに、経験的・感覚的なものですが、放置していても自主的に研究を進めることのできる「優秀」な学生は、全体の1割程度です。また、決定的に(WETの)研究に向いていない学生も、1割程度います。残りの約8割は、まともな指導を受けることができれば研究者として平均レベルまで達しますが、放置プレイをくらうと迷走するばかりで、まともに研究が進まず、時間とお金と労力を無駄に消費することになります。
罠その1:資金
罠その1は、研究初心者は実験にかかる費用に無頓着なことです。まずはじめに、どのくらいの費用がかかるのかを見積もりましょう。実験に必要な消耗品は研究室にあるでしょうか?それとも、新規に購入する必要があるでしょうか?ネットで価格を調べるか、出入りの業者さんに見積もりをお願いしましょう。研究試薬、プラスチック消耗品、培養細胞や動物・植物などの実験材料、小型実験装置、PCやWSなどコンピュータ関連、オリゴ合成やシークエンスなどの外注代について、概算を出しましょう。これらの費用が現在の研究費で賄えないなら、実験計画を見直すか助成金を獲得しましょう。
罠その2:設備
研究初心者は、論文で読んだ実験をやりたいと主張してくることが、往々にしてあります。それでは、その実験に必要な研究機器・設備は研究室に備わっているでしょうか?罠その1とも関連しますが、安価に購入または自作できるでしょうか?研究室に無いにしても、研究科内、学内、または、近くの研究機関で利用できるでしょうか?どのくらいの利用費用がかかるでしょうか?大学共同利用機関法人などの設備を利用するか、設備を持つ研究室・研究機関に共同研究を申し込むこともできます。
罠その3:技術
実験に必要な技術は、研究室で確立されているでしょうか?それとも、新規に導入する必要があるでしょうか?新規導入に当たり、すでに経験がある人物が近くにいると、直接習ったり、うまくいかなかった際に助言を求めることができます。研究初心者にとって、独学だけはやめたほうが良いです。その技術がうまく動いている研究室に習いに行くことが必須です。
罠その4:時間
繰り返しになりますが、初めての実験を行う場合、順調に実験が進んだと仮定してかかる時間の3倍の時間がかかります。それは経験を積んだ研究者においても同様です。何らかの原因で実験がうまくいかなかった場合、トラブルシューティングで、さらにその倍かかります(最終的に見込みの6倍)。実験デザインがしっかりしていれば、実験の成否に対して楽観的になることは良いですが、進行スケジュールについては、悲観的に見積もって十分な余裕を持っておきましょう。
4つの罠の関係
これら4つの罠は、ある程度相補的かつ排他的な関係があります。例えば、十分な資金があれば、罠2〜4は外注に出してしまうことで、ある程度解決できます。一方、時間の余裕が十分にあるならば、特別な設備を必要としない新規の技術を導入することも可能です。また、今できる安価な実験から取り掛かり、その結果をもとに研究費を獲得することもできるでしょう。4つの罠の優先順位を常に考え、状況に応じて優先順位を更新しましょう。
おわりに
これら4つの罠は、いずれも研究初心者の研究に対する見積もりの甘さに起因しています。初心者なので、仕方がないといえばそれまでなのですが、厳しいことを言えば、「自分でなんとかするしかない」と自覚してからが、本当の成長のはじまりです。何事にも明確な行動の指針があったほうが効率も良く進歩も早いように、これらの4つの罠を常に意識して優先順位を決めることで、研究が迷走することは少なくなると思います。このnoteが、迷走している研究初心者や学生の助けとなれば幸いです。