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教育と洗脳② ~U社の場合~

社会人として初めて勤めたのはU社という企業である。
自前の健康保険組合もあり、全国展開しているものの株式は非公開。
いわゆる同族会社であった。

とはいえ、当時はバブルが崩壊して間もなく、就職できれば御の字。
U社が名の知れたメーカーであるというだけで、「安定した企業に就職できてよかったね」と遠い親戚にも言われたものだ。

その頃はインターネットの黎明期。
まだポケベルすらなく、SEって何する人?という時代だった。

ぶじに大学を卒業することができ、桜咲く季節にめでたく入社式を迎えた。
この頃までは、U社の人事部も温かい目で新入社員を見守っていた。

入社式のあと、気の合った仲間とカラオケに行き、チャゲアスの「YAH-YAH-YAH」を威勢よく歌い、幸先が明るいことを信じて疑わなかった。

そんな学生気分も束の間。
ひと通りのオリエンテーションが終わると、新卒は集合研修に突入する。
記憶は定かではないのだが、神戸の山あいにある研修施設に新卒の総合職100人近くが集められた。ここからが「洗脳」の始まりである。

それまで布袋と恵比寿だったような人事部は姿を消し、代わりに風神雷神の形相をしたジャージ姿の教官が登場する。

…おいおい、スクールウォーズかよ。
100人近い新卒は数名ずつのチームに分けられる。連帯責任の始まりだ。
20ほどのチームが出来あがると、チームリーダーを決める。
ここでも新卒の自主性が試されているのだが、そんなことは知る由もない。

「こんなの聞いてた?」
「…うん」

隣でうなずく仲間がいる。
コネで入社したその彼曰く、これは通過儀礼なのだと。そして毎年何人かが、この時点で脱落すると言う。

競争の激しい業界であるには違いないのだが、やる気、根性、打たれ強さを値踏みされる研修の始まりだ。

さして意味のない長文を暗記させられ、チームの全員が時間内に暗唱できるまで繰り返される。声が小さいと教官からシカトされ、戸惑っていると目の前数センチのところに風神雷神の顔が近づいてくる。
当然、初日、2日目と過ぎるにしたがって声は擦れてくる。
体育会を経験したことのない、女子大卒の女性は泣き出してしまう。

これが会社というものか。
総合職の研修とは名ばかり。いたずらに闘争心を焚きつけて競争を煽り、自己否定する言葉が繰り返し投げつけられる。

「社会人は厳しいんだぞ」というメッセージが込められているには違いないのだが、果たして研修を行う側のマインドセットはどうなっているのだろう。
ご多分に漏れず、入社式の時に100人ほどいた同期は5月の連休を境にして2人、3人と離脱していった。

このような研修に教育効果はあるのだろうか。
U社は何年来と、このような新卒研修を行っているという。
極論すれば、社員を駒の一つとしか見ない企業体質が根付いているに違いない。

そして、その20年後にも類似の研修に参加する羽目になるとは露ほども思わなかった。

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たまねぎを一枚一枚剥いていったら、その先は空だった。どこかに真実はあるのでしょうか。否、たまねぎの皮を剥くという経験が残りました。