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ジェンダーの視点からみたメディア組織4(1995年9月)

放送レポート136号 1995年9月 (村松泰子 東京学芸大学教授)

世界のメディアへの女性の参画

国連・ユネスコ調査

 まもなく北京で開かれる国連の第4回世界女性会議で、女性とメディアの問題は、重要関心事項のひとつとして取り上げられる。今後に向けての行動計画には、メディアが女性の地位向上にもっと貢献するため、メディアのあらゆる分野とレベルに女性が参画することの必要がうたわれるはずだ。
 この背景にある世界のマスメディアの現状把握の基礎データとなったのが、国連とユネスコが中心になって行った、世界30ヵ国の放送局・新聞社に働く女性の実態に関する調査である。3回にわたり報告してきた日本の実態も、その一環として調査したものである。この国連・ユネスコ調査の結果により、諸外国の状況を日本と比較してみよう。
 これまで見てきたのは、日本の放送局・新聞社に働く女性の少なさ、とくに方針決定権のより大きい管理職の女性がきわめて少ないこと、部門や職種による女性の参入度の違いに性別役割分業があることなどである。日本のマスメディアで働くには、時間帯や時間の長さに関しハードなものが要求される職種もある。一方、日本では日常の家庭生活における性別役割分業がいまだに根強い。こうしたことを考慮すると、日本のマスメディアヘの女性の参入度の低さは、無理からぬものなのだろうか。諸外国でも、そうなのだろうか。
 国連・ユネスコ調査は、国連事務局メディア・コンサルタントのマーガレット・ギャラハーを中心に行われた。その報告書(注)に記載された日本の数値は、各国データの集約の期限までに入手できたNHK と民放テレビのキー局3社、全国紙5社のみのデータである。またギャラハーの報告書は、原則として長期(フルタイム・パートタイム)の雇用者と短期契約による雇用者を含めた数を使っており、日本についても放送は、その原則によっている(日本の新聞については、本研究では短期雇用者を調査しなかったので、長期雇用者のみの数字である)。したがって以下の表に掲載した日本の数字は、これまで3回の本報告と多少食い違っている場合のあることをはじめにお断りしておく。
 なお本稿では、この調査の対象国以外のいくつかについても、別の資料によりデータを補足していきたい。

女性雇用比率は日本が最低

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 表1に示したように、放送局・新聞社(日刊・週刊紙、ニュース雑誌を含む)に働く全雇用者中の女性比率に関し、日本はデータの得られた国の中で、放送局は33ヵ国中の最下位、新聞社は28ヵ国中の同じく最下位である。本報告の第1回で紹介した日本の全国データにしても、放送局は13.4% 、新聞社は8.0%であったから、最下位グループであることはまちがいない。
 詳しく見ると、放送局の女性比率は、ボツワナが46.5%で最も高く、次いでデンマーク、スウェーデンが40%台である。続いて30%台の国がヨーロッパ・北米を中心に15ヵ国あり、20%台がアフリカ・南米を中心に11ヵ国10%台以下はモザンビーク、インド、マラウイ、日本の4ヵ国のみである。
 新聞社の女性比率は、40%台はナミビアの46.6%のみで、30%台はアメリカ合衆国、ルクセンブルクなど9ヵ国である。20%台はヨーロッパを中心とした11ヵ国、10%台がアフリカと南米の5ヵ国で、10%未満はインドと日本のみとなっている。
 放送局・新聞社の規模、そこに働く人の総数は、国により大きく異なるが、それらと女性比率にはとくに関係は見られず、メディアの女性比率が高い国には、メディアの規模の小さい国も大きい国もある。そして概して言えば、放送局の女性比率の高い国は新聞社のそれも高いというように、各国の両者の傾向は共通している。
 ただし、放送局と新聞社を比較すると、前者のほうが女性比率の高い国が多い。とくにヨーロッパは、両者の数字の得られる9ヵ国中、ルクセンブルクを除く8ヵ国で放送局のほうが女性の進出が進んでいる。これは、日本でも見られた現象である。活字メディアより音声・映像メディアのほうが、女性が進出しやすいのだろうか。ただしアメリカ合衆国は、放送局と新聞社の差があまりない。

上級管理職は男性

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 社員としては女性の進出が、日本に比べはるかに進んでいる諸国でも、権限をもつポストヘの女性の参画は遅れている場合が多い。
 ギャラハーがデータ収集した30ヵ国の200 以上の放送局・新聞社のうち、女性が最高責任者(CEO)であるものは7組織、他に副最高責任者が女性であるものが7組織であった。約500人規模のメキシコの文化テレビチャンネル以外は、ほとんどは小規模なラジオ局かニュース雑誌社であり、多くは南米のメディアである。
 最高責任者・副最高責任者を除き、それに次ぐ上位3ランクの上級管理職(日本では局長、局次長、部長級に相応)の男女全社員中の割合と、その中の女性比率を表1に併記した。女性比率は、放送局ではレソトの50%(4名中の2名)が最高で、次いでイスラエル(表1の注4参照)、ベネズエラが高く、いずれも全社員中の女性比率を上回っている。
 南米は上級管理職中に女性が20%以上いる国が多く、全社員中の女性比率に近い割合で権限をもつ女性もいるようだ。これに対しヨーロッパでは、上級管理職中の女性が20%を超えているのはフランスのみで、いずれも全社員中の女性比率には及ばない。
 アジアではインドが全社員中の女性は12.2%と少ないが、上級管理職の女性は9.9%と比較的近い比率でいる。テレビ局の4人の副局長の1人、ラジオ局では68人の地方局の局長中の13人が女性である。マレーシアは全社員中には27.7%の女性がいるにもかかわらず、上級管理職には皆無である。そして日本は、全社員中も女性比率が低く、上級管理職にもほとんどいないという世界でも例外的な状態である。
 新聞社の上級管理職の女性比率は、ルクセンブルクが全社員中の女性比率とほぼ同程度の36.8%で最高である。これを含め25ヵ国中18ヵ国が10%以上であるが、全社員中の女性比率には達していない国がほとんどである。10%未満の7ヵ国の中でも、日本の0.2%は異常な低さである。
 放送局は、新聞社と比較すると、全社員中の女性比率は概して高いのに、上級管理職の女性比率は必ずしもそれを反映していない。他方、全社員中の女性比率が概して低い新聞社のほうが、上級管理職の女性比率はやや高めである。
 これらの上級管理職の担当分野は、財務・人事・営業・広報などの管理的部門が多く、放送では制作部門、新聞では編集部門がこれに次いでいる。ヨーロッパの80の放送機関についていえば、番組部門の女性の責任者は8ヵ国に22人いるという(報道局長2人、編成部長3人、番組制作局長4人、特定番組部門部長13人)。とはいえ、その地位に達するのは男性では社員140人に1人の割合であるのに対し、女性では1000人に1人という計算である。中間レベルまでは女性にも扉が開かれはじめているが、トップになるには依然「ガラスの天井」が厚く立ちはだかっている。

女性アナ増加は世界的傾向

 ギャラハーは、放送局・新聞社の職種をそれぞれ次の6つに分類している。制作/編集、クリエイティブ、技術、管理・総務、専門サービス(司書、校正、コンピュータスタッフ、通訳など)、一般サービス職種(食堂、警備、受付、電話交換、運転など)である。このうちはじめの4職種群について、表2・3に放送局・新聞社別に、その職種群が社員構成に占める割合とともに、当該職種群中の女性比率を示した。4職種群に含まれる具体的な職種は表の下に示した。放送局・新聞社とも、この4職種群の合計で全社員の7割以上を占める国が大多数である。
 この職種分類は、各国の各メディア組織ごとの原調査票に記載された細分化した具体的職種を、ギャラハーが統一的な基準で分類したものである。ヨーロッパ各国で使われた調査票は、回答組織が具体的職種を自由記入する形であるが、日本ではあらかじめ記載した職種に必要なものを追加記入してもらう形をとった。ただし、日本についても上記の職種群への分類はやはりギャラハーが行った。
 放送局の各職種群について見てみよう。プロデューサー・ディレクター・記者・アナウンサーなどの「制作」は、ほぼどの国でも全社員の2割から半数近くを占める主要な職種群である。イギリスでほぼ半数(48.4%)が女性であるのを筆頭に、40%以上を占める国がほかにレソト、アイルランド、スウェーデンの3ヵ国ある。次いで30%台の国がヨーロッパと南米を中心に17ヵ国、20%台が8ヵ国で、10%台なのはマラウイと日本のみで、とくに日本の10.5%という低さが目立っている。
 この職種群における近年の大きな変化は、番組に登場するアナウンサー、ニュースキャスターなどの女性の増加である。ギャラハーは「日本でさえ19%が女性である」と書いている。インドのラジオ局では43%、アフリカ全体では45%、ヨーロッパのテレピでは47%、ラジオで33%、南米のテレピ46%、ラジオ21%である。ラジオよりテレビのほうが女性アナウンサーが多いことから、女性が視聴者を引き付ける手段とされてきたという面もあると考えられるが、実際にニュースが女性によって伝えられることが増えてきていることも実証されている。
 ディレクターとスタジオのスタッフをつなぐフロア・マネージャーは男性が主流で、補助的な仕事にあたる制作アシスタントは女性が主流である。後者の女性比率はヨーロッパでは94%、アフリカで64%、南米で51%、インドと日本のみは女性が20%台と少ない。
 プロデューサーとディレクターについて見ると、全般的にはプロデューサーのほうが女性比率が高い。アフリカでは前者の34%、後者の24%が女性であり、ヨーロッパではそれぞれ33%、29%である。インドではテレビ局の全社員中の女性は15%であるのに、テレビのプロデューサーの30%は女性である。日本だけは例外でプロデューサーの10%、ディレクターの11%しか女性でないが、大多数の国ではプロデューサーヘの道は女性に開かれている。ただし制作部門の長や番組群の責任者は、女性は南米で16%、ヨーロッパで15%、アフリカで12%、インドでは4%と少なくなり、日本とマレーシアはほとんど皆無である。

女性の少ない放送技術職

 ビデオ編集・デザインなどの「クリエイティブ」という職種群は、番組に重要な関わりをもつが、全社員に占める割合は、フランスの14.4%が最高で、ほとんどが10%以下である。女性の進出度は地域・国によって違いが大きい。ヨーロッパではドイツの43.6%を筆頭に、ほとんどが10%〜30%台であるが、アフリカには女性は皆無の国もある。具体的な職種を見ると、ヨーロッパではフィルム・ビデオ編集の3分の1以上が女性であり、アフリカでも女性が多い。メイキャップと衣装は、ヨーロッパで82%、南アメリカで89%が女性である。装置は女性がほとんどいない男性職種である。
 カメラ・音響・照明など「技術」職種群は、ほとんどの国で放送局の全社員中の2〜4割程度とかなりの割合を占めている。また高度の技能が求められ、給与も高い場合が多く、組織の幹部への道も開かれている重要な職種群である。しかし、4職種群の中では女性の進出が最も遅いことは、大多数の国に共通の現象である。最も高いレソトは23.3%であるが、10%台の国は8ヵ国にとどまり、大多数は10%未満で、5%に満たない国もヨーロッパを含め少なくない。具体的な職種を見ると、女性はカメラよりは音声の担当のほうがやや多い傾向が国を越えて見られる。テレピで重要な照明はヨーロッパ全体で約700人いるが、うち女性は4人に過ぎず、それ以外の地域では女性は皆無であった。技術職種のうち女性がある程度いるといえるのは、ヨーロッパで見られる映像ミキサーという職種で、ドイツ、アイルランド、イギリスでは約80%が女性である。
 以上に対し事務系の「管理・総務」的職種は、女性の参入度が最も高い職種である。レソトで100%女性であるのをはじめ、女性が過半数を占める国が、ヨーロッパのすべてを含め圧倒的に多い。女性が半数以下の国は7ヵ国にとどまるが、その中でインドと日本の女性が10%台という数字は例外的な少なさである。しかし放送局に働く女性の3分の1以上がこの職種群の女性であることは、ほとんどの国で共通である。とくに日本、ドイツ、イタリアは、全社員中の「管理・総務」の割合が30%台と高いことが特徴で、さらに女性の中ではそれが半数を超え、それぞれ54%、58%、60%を占めている。
 このように女性の多い「管理・総務」であるが、その内容を見ると、あまり高度でない秘書的な業務や事務職が多いのも、各国に共通の傾向である。調査時点でのEC12ヵ国の平均では、この職種群全体の68%が女性であったが、給与レベルで8段階に分けた最上位のランクでは、同職種群中の女性は12%にすぎなかった。すでに見た日本の傾向とも共通している。

国で差大きい新聞編集職

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 他方、新聞社の各職種群の構成や、それぞれへの女性の進出度は、国によるばらつきが大きい。記者を中心とする「編集」職種群の女性比率は、スペインの44.8%が最高で、以下30%台が南米を中心とする9ヵ国、20%台がヨーロッパを中心とする7ヵ国、10%台がアフリカを中心とする9ヵ国だ。10%を切っているのは、ジンバブエと日本のみで、ここでも日本は最下位である。アジアではマレーシアで女性の比率が高く、個別の職種別に見ても記者の31%、副編集長の34%、編集長の18%が女性である。
 植字・印刷などの「技術」職種群に関しては、アフリカでは小さい新聞社が印刷を外部に委託している場合もあり、国により「技術」職種群の占める割合のちがいが大きい。その女性比率は放送局の「技術」と同じく低い国が多いが、なかにはルクセンブルクのように30%台の国もある。アフリカと南米のいくつかの国で女性の比率が高いが、主として活字組みと写植の担当である。
 「管理・総務」的職種は、放送の場合と同じく最も女性比率が高い。ただし、女性が過半数を占める国は7ヵ国で、放送局ほど圧倒的に多くはない。30%台が最も多く8ヵ国で、10%以下はスワジランドと日本のみである。しかし、全社員中のこの職種群の割合は、概して放送局より新聞社のほうが高く、女性の中での事務系職種への集中度も新聞社のほうが高くなっている。

どう改善する日本の異常

 以上のように日本の放送局・新聞社への女性の参入度は、全体としても、上級管理職についても、職種別に見ても、世界の中で格段に低い。
 多くの諸外国も、女性がはじめから数多く進出していたわけではない。しかし、女性の参入が必要だと考えた国や地域では、そのための積極的方策をとって女性の増加を進めている。アメリカでは、FCC が各放送局に職種別の男女の数を毎年報告することを義務づけており、その中で放送局の規模によらず着実に女性が増えてきた。スウェーデンも長い取組みの歴史をもっている。表4は89年に当時のスウェーデン放送が、6000人規模の組織で職種を230に細分化し、詳しく男女の均衡度を調べた結果である。こうした実態把握に基づき、職種ごとに男女のバランスをとるよう改善の具体的目標を時期を定めて設けているのである。

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 ECでは、80年代からメディアの女性の実態などについての調査費を出すなどし、86年には「EC ・放送における機会平等委員会」を設置し、組織的に問題の改善に取り組んでいる。イギリスのBBC には、8人の平等問題担当者がおり、部門ごとに主要な方針決定者で構成する機会平等推進グループを設置している。ジョブシェアリング(フルタイムの仕事を何人かで分割すること)も進んでおり、事務職ばかりでなく技術職・プロデューサーなどでも行われているという。

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 日本の放送局・新聞社の女性の増加が遅い背景には、不規則な長時間労働などの労働条件の問題がある。ジョブシェアリングはほとんど行われておらず、育児・介護休暇は制度はあったとしても、利用実績は必ずしも高くないことは、本研究でも明らかになった。さらに日本の大企業一般と共通の特徴として、終身雇用制で中途採用が少ないこと、職能別採用ではなく、会社員としての採用であることなどがあり、これらは女性にとって不利な条件となっていると考えられる。多くの国では高等教育のジャーナリズム関係学科の学生の過半数が女性で、その出身者がメディアに参入しつつあるのに、日本のメディアでは必ずしもそうした専門教育を受けた人を採用しない点も、関係していよう。そして、組織内に女性が多ければごく自然になることも、いつまでも女性が少数の例外であるために男性中心の働き方や慣行が前提とされ、女性がいると働きにくいように男性が感じ、女性を排除しようとする場合もあろう。
 大事なのは、まず組織が、人々の現実社会の認識のしかたに重大な影響をもつメディアとして、女性の増加は不可欠であると認めることである。認めたならば、それを阻む上記のような障害を克服して、積極的に女性の増加をはかる組織的対応をしなければならない。ちなみに表5は、日本の民放地方局全体について、本調査で分類した48の職種を表4と同様の方法で見たものである。1社ごとにこうした実態を明らかにし、目標を定め改善をはかるべきであろう。その結果をきちんと監視することも重要である。
 徐々に女性が増えるのを待つだけではなく、思い切った手を打たなければ、21世紀になっても日本のメディアは世界でも異常な状態であり続けることになる。大きく変わりつつある社会について伝えていくべきメディアも、旧体制を脱し変わるべき時である。

(注)今回の報告は、次の資料および表1の注に示した資料を参照した。
 M.Gallagher,"Women and the Media A Contribution to The World's Women"2nd edition," 1994
   Commission of the European Communities,'Equal Opportunities in European Broadcasting: A Guide to Good Practice,“ 1993
 また本稿で紹介した国連・ユネスコ調査の資金は、国連統計局(南米)、ユネスコ(南米・アフリカ)、EC (ヨーローパ)、フリードリッヒ・エバート財団(インド)、東京女性財団(日本)によって提供または援助された。日本の調査は、井上輝子• 岩崎千恵子・加藤春恵子・小玉美意子・鈴木みどりと筆者が共同で行った。

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