「秋元議員カジノ疑獄を仕掛けたのは安倍側近」という仰天情報が流れる理由


秋元司衆議院議員の逮捕劇を巡って、永田町では「安倍・麻生」ラインが仕掛けたリークが発端だと噂されている。単なるデマだと笑い飛ばせないのは、最近、菅官房長官人脈への相次ぐ醜聞報道が起きているから
「安倍・麻生」vs「菅・二階」の戦いが勃発しているというのだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

安倍首相側近が仕掛けた!?
永田町周辺で囁かれる仰天情報
秋元司衆議院議員

秋元司議員は二階派所属。
一方、「文春砲」がきっかけで辞任した河井克行前法相、菅原一秀前経産相、不倫スキャンダルの和泉洋人首相補佐官の3人は菅官房長官の側近である 


 年の瀬に、またしても国民の政治不信を加速させるような醜聞が盛り上がっている。

 IR(カジノを含む統合リゾート)の担当副大臣を務めていた秋元司衆議院議員が、IRへの参入を目指していた中国企業から数百万のカネを受け取って便宜を図った疑いで、東京地検特捜部に逮捕されたのだ。

 IRと聞くと一般的には、自治体の誘致レースが盛り上がっている印象だろうが、実は水面下ではIR企業による”政界工作”もかなりヒートアップしている。大阪や横浜を見れば一目瞭然だが、日本のIR誘致で最後にものを言うのは政治力だということを、海外のIRプレイヤーたちもよくわかっているからだ。

 秋元議員は、IR担当副大臣に就任する以前からIR議連のメンバーという筋金入りの「カジノ推進派」。そこに加えて、「カジノ利権」という文脈で頻繁に名が出る二階俊博自民党幹事長率いる志師会に属している。IR参入企業のアプローチリストの上位に名を連ねていることは間違いない。

 という話を聞くと、「ぜひそのあたりを徹底的に捜査して、カジノ利権を白日のもとにさらすべきだ!」と鼻息荒く特捜部にエールを贈る方も多いだろうが、魑魅魍魎が巣食う永田町では、そういう素直な見方とかなり異なる、耳を疑うような仰天情報も流れている。

 今回のカジノ疑獄は、実は安倍首相側近が仕掛けたもので秋元議員はハメられた、というのだ。

「は?バカも休み休み言え!年明けの国会で任命責任だなんだと野党からやいのやいのとたたかれるのは首相本人なのに、そんな自殺行為をする側近などいるわけないだろ」と呆れる方も多いことだろうが、この「風説」の中身を詳細に聞いてみると、それなりに納得できる理由がある。

菅氏側近の相次ぐ醜聞報道の仕掛け人は誰か
 ご存じの方も多いと思うが、最近の政局ニュースでは、政府与党内で「安倍・麻生」vs「菅・二階」という対立構図で熾烈な権力闘争をしている、という話がよく取りざたされている。

 詳細は省くがポイントは、ポスト安倍を見据え、菅義偉官房長官と二階氏の距離が近くなっている、ということだ。20人近い無派閥議員からなる「隠れ菅派」と二階派が合流したら、党内のパワーバランスは一気に塗り替わる。その動きを最大派閥・清和会の安倍氏と、志公会の領袖である麻生氏が警戒して、水面下で菅・二階の足を引っ張るような情報戦を仕掛けているという情報もある。

 今回のカジノ疑獄もそのひとつだというのだ。

 秋元氏にダーティなイメージをつければ、派閥トップである二階氏と、IRの旗振り役である菅氏にダメージを与えられる。もちろん、内閣府の副大臣だった人物なので安倍首相も無傷では済まないが、大騒ぎなればなるほど、首相と昭恵夫人が当事者とたたかれる「桜を見る会」を巡る疑惑が吹っ飛ぶというメリットもある。

 つまり、安倍首相の立場から見れば、秋元議員逮捕は「任命責任を追及される問題」ではあるのだが、党内勢力を脅かす政敵にダメージを与えつつ、長期化しつつある“政権の私物化疑惑”から国民の目をそらすことができる「一粒で二度美味しい他人のスキャンダル」という側面もあるのだ。

「首相を貶めるようなデマを流すな!」というお叱りもあるだろうが、筆者が今回のカジノ疑獄にまつわる怪情報を「デマ」だと笑い飛ばせないのには、もうひとつ理由がある。

 それは最近の露骨な「菅おろし」だ。

「文春砲」をきっかけに、就任してまたたく間にクビを取られた河井克行前法相、菅原一秀前経産相というのは、菅氏の側近として知られ、今回の内閣改造でも菅氏がねじ込んだといわれていた。

 ただ、これだけならば「そういうこともあるよね」と笑っていられるが、筆者が戦慄を覚えたのは、和泉洋人首相補佐官の不倫スキャンダル報道である。

 やはり「文春砲」によって厚労省大臣審議官と京都出張中に楽しく町歩きをするツーショット写真が撮影されて、「京都不倫出張」だと報じられた和泉補佐官も起用したのは菅氏で、米軍基地問題などの官房長官案件を任せるほど信頼の厚い腹心なのだ。

メディアのスクープは「リーク」が発端
 メディアの仕事をしていない方でも、最近のネット情報などでなんとなくわかると思うが、「スクープ」と「リーク」は同じ意味である。世の中に溢れるスクープや特ダネなるものは、ジャーナリストや記者が地をはうように突き止めたという側面があるのは確かだが、一方でそのような人たちに明確な目的意識をもって内部情報を流した人たちがいて、はじめて成立する。

 つまり、これらの菅側近の相次ぐスキャンダルというのも、何者かが何かしらの意図を持って、週刊誌に「リーク」をしたものなのだ。

 実際、筆者は少し前に某週刊誌でスキャンダルが報じられた言論人に関する「告発文書」を目にした。それはさながら興信所の調査報告書のような体裁で、隠し撮りされた写真や、行動が綿密に記載されていた。このような「告発文書」が週刊誌の編集部に寄せられ、取材がスタートして「スクープ」になるのだ。

 では、この「告発文書」を作ってメディアにリークをしたのは誰なのかという問題がある。その言論人は政権に批判的な発言を繰り返すことで知られている。何をか言わんやである。

 話が逸れたが、菅側近のスキャンダルがたて続けに発覚しているということは、裏を返せば、それだけ「リーク攻撃」を受けているということでもある。

 そこに加えて、今回のIR疑獄である。動いた検察庁というのは、菅氏がやはり腹心の黒川弘務・東京高検検事長を、次の検事総長にしよう根回ししていたが、河井前法相の失脚でそれがパアになったなどと囁かれている

つまり、権力闘争で菅氏の影響力が薄れた検察が、菅氏が肝いりで進めるIRへ切り込んでいるという構図なのだ。

 ゴーン事件でもわかるように、特捜部のお家芸もまた、「リーク」である。関係からの告発を元にして動き、それを元にしてストーリーを作ってマスコミに「検察関係者」として「リーク」をおこない、司法の判断の前に「人民裁判」で「推定有罪」にしてしまうという手法を得意としている。

 その力が凄まじいのは、法的には無罪だったにもかかわらず、マスコミによるダーティイメージが定着して、政治家としてのパワーを失った小沢一郎氏の例を見ればよくわかる。

 菅氏と二階氏も、小沢氏と同じような道をたどる恐れがあるのではないか。

 なぜそう思うのかというと、特捜部が今回のIR疑獄を広げていけば、年明けに設置されるカジノ管理委員会への悪影響も考えられるからだ。

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「令和おじさん」人脈の次なるターゲットは元警視総監か

 参入を目指す企業が政治家や官僚を賄賂や接待漬けにする、なんて腐敗が横行しないように、世界各国では、カジノは独立した機関がライセンスを付与して、検査や免許剥奪などの強い権限を持たせている。日本のIRもこの世界ルールにならう。

 そこで「世界最高水準のカジノ規制」「クリーンなカジノを実現する」を合言葉に年明けの1月に設置されるのが、内閣府の外局であるカジノ管理委員会である。

 しかし、内閣府の前副大臣がクロならば当然、この外局も本当に大丈夫かという話になっていく。「独立しています」なんて言っているが、実はズブズブじゃないの、と。

 もしこういう流れが盛り上がると、再び「菅おろし」の風が吹いてくるのではないかと個人的には思う。カジノ管理委員会の委員の中には、菅氏と近しいのではと囁かれる人物がいるからだ。元警視総監の樋口建史氏である。

 その詳細は、立憲民主党の阿部知子衆議院議員がおこなった、「五人のカジノ管理委員会の候補の見直しに関する質問主意書」という質問のなかにあるので引用させていただく。

《樋口建史氏は二〇一三年一月まで警視総監を務めた後、二〇一四年にはミャンマー大使に就任したが、その就任には菅義偉官房長官が大きく関わったとされる》(令和元年十一月二十二日提出)

 もちろん、事実はわからない。しかし、これまで見てきたように菅人脈がことごとく調査をされて、その内容が週刊誌に「リーク」されているのは事実だ。

 特捜部によって秋元議員が「推定有罪」にされていく中で、もしカジノ管理委員会の中の「菅派」に文春砲などでカジノ企業との不適切な関係が発覚したらーー。そうなれば、IRの管理体制は腐敗しているというイメージが定着して、この国策は頓挫する。スケジュールを延期され、旗振り役の菅氏のメンツは丸つぶれで、政治的求心力も失っていくだろう。

 もし筆者が「菅おろし」を仕掛ける側ならば間違いなく、このあたりを攻めていくだろう。今年、若者にもチヤホヤされた「令和おじさん」に、来年は大きな試練が待ち構えているかもしれない。