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ものがたりvol.1『ガキ大将のズミー』

こんにちは、大貫理音です。

突然ですが、わたしは子どもが大好きです。
何故ならば一緒に遊ぶと楽しいから!というまったくもって身勝手な理由です。発言と行動が不条理で面白すぎる〜。

ほらほら、そうやって子どもぶってる人!居るよねー!子育てしたことないからこそ発言!無責任めー!と思われてしまうかもしれません。

そうなんです。わたし鈍感なんです。角に身体をぶつけた時も「大丈夫、ちょといい音したけど大丈夫」みたいな涼しい顔してたいがい耐えますし、作者の言いたかったことを理解するどころか自分の本心にすら疎い。
刹那的な感情よりも、じわじわ侵食する周りの環境変化のほうが気になってしまうのです。

もう少しわかりやすく例えると、鈍行列車。あれです、周りの景色や乗り降りする人々をひと駅ずつ楽しむ余裕のあるなかで目的地に着きます。
特急や新幹線もたまにはいいけど、速すぎる時間の流れに取り残される感覚はさみしい。
点と点の移動は味気ないって知ったわたしの人生はそんな感じです。マイペース。嫌なことも楽しいこともマイペースにこなします。大貫です。

常にマイペースなもんだから、自然な時の流れに心がついていかず、同級生たちがだんだんとしっかり大人しくなる姿を横目に想うことはあります。
いとけなさと切なさと心細さと共に、ハタチを越えてもわたしのワイワイした人生ひとり遊びは続いていました。

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注意:黒い物体はひとっ飛びしているわたしではなく飛行機です。飛行機。

ある時、そんなわたしをよく知る先輩(10歳年上)から「あなたは精神が常に10年くらい前に取り残されているね。私とよく似ているわ」と言われました。

わーい10年後の姿が彼女ってことか!(曲解)それはすごくいいなあ。若気の至り、呑気であります。しかし真っ暗闇な未来にまたひとつ、希望の星が見えました。子どものまま、子どもっぽいなどと言われることはあっても、こういう風に分析されたのは初体験でした。

(大好きな先輩の話はまた別の機会に)

はい、そんなこんなの希望の煌めきもまばらな星空の下で、キャンプファイヤーな宿泊バイトをした時のお話をそろそろしますね。前置きが長いのは仕様です。

そのキャンプ的な催しは夏の毎年恒例行事として市の施設が行っていて、対象は小学生。そりゃあもうイキのいいピチピチしてる彼等のリーダー的存在として我は君臨したわけなのです。

そう、何を血迷ったか当時は現役で卒業した芸術系の大学とは別の大学で、改めて初等教育を学んでいました。つまり20代半ばまで小学校の先生を目指していたわけなのです。(実際の小学校の現場でのお話はまた別の機会に)

その話を小耳に挟んだ母のご友人(教員)からこのキャンプという催しに誘われ、当時まだ実家にパラサイト暮らしの金パツ碧眼でフラフラしていた身の程知らずのわたしが、ノコノコ参加したわけなのです。

多くが教育者や弁護士などを目指している、真面目でボランティア精神抜群な大学生バイトさんたちに混じって!!!

当時、わたしみたいに気ままな風貌の教育学科生とか大学内でも見たことがなかったのです。今思うととても恥ずかしい。態度と図体のデカさにより目立つ。とにかく目立つ。周りから浮いている異質な存在、それがわたし。

こちら、当時の免許証を参考にした自画像です。

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ご覧のデバイスにより色味は若干異なりますが、髪色と瞳の色、そして髪型や表情なんかは実際の写真そのままです。なかなかふてぶてしい。

こうなりますと、もう子どもたちからナメられ…じゃなかった黙ってても心を掴んでしまいました。
子どもはピュアなので異質な存在も許容する場合がほとんどです。それ故、好奇心の大戦争が勃発します。

キャンプに100名10班ほど集められた子どもたちにとって、見ず知らずの同年代や先生の集団生活に突然突っ込まれること、環境が変わることには緊張があったはずです。たぶん。わたしすらも緊張しました。先生バイトちゃんたちみんな現役大学生だよ…わ、若い!

子どものなかには、生まれてはじめて親御さんと離れての宿泊が耐難く、参加前にリタイヤした子も少なからずいました。さすがに先生バイトちゃんには居ませんでした…と言いたいところですが、事前説明会すら音信不通で来ない、当日ドタキャンとかも含めて数名いました。残念ながら…。

そんなギクシャク緊張感のなか、子どもたちはみんな様子を伺うような行動を取りました。十人十色に。男子は特にわたしがどこまで許してくれるのかを探りはじめたのです。

はい注目ーわたしがこの班の担当です!
荷物置きながら耳だけ傾けてー!
先生一回しか言いませーん!
そこ枕投げなーい!
画用紙で班の旗つくるよー!
そこ布団まだ出さなーい!
班のリーダーも決めて班の名前も考えるよー!
ちょっと男子!
おら!まてこら!これでもか!リーダーにしてくれる

「先生!一緒に枕投げしないで!」

いっけね。ついつい枕投げの乱を阻止しようとお頭自ら盛り上げてしまいました。エンターティナー故の悲しきサガです。誰よりも的確に打ち込む枕。わきアガる室内。しまいには女子に怒られました。反省。

その間に(主に女の子が描いて)完成した4班の旗は、こちら。

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いやはやさすが女子。騒ぎを横目に素敵な仕上がり。反面教師とはこのこと!(ドヤ顔)

班名は『ズミーとゆかいななかまたち』。

そう、我々4班を統べるは枕投げでわたしに負けたズミーという、当時6年生の日本の代表的な男児。男児という呼び方が似合いすぎるくりくり坊主くんでした。日曜19時半にテレビから飛び出てきたような彼、とにかくイタズラわんぱく小僧。
枕投げで本日の体力は完売した、二十代後半に差し掛かろうとしている系女子にも容赦ない。顔は!顔はやめてさしあげて!ボディにして!悲痛な叫び声は最後まで彼には届きませんでした。我が班のリーダーの先行き怪しすぎます。

そんな感じで、何とか班のお子様たちの心をこじ開けたつもりのわたし。まだこの時は2日目にまさかふたりっきりのドッキドキ告白タイムが起こるとは予想だにしなかったのです…ざわ…。

(とりあえず初日に朝から森の謎解き探検に誰よりもハシャギすぎたわたしは深夜に熱中症でダウンし実家がたまたま近所だったこともあり家族の迎えで自宅に一時帰宅した情けない話はハショリます。ここまでで状況はだいたい説明しました)

はい2日目。熱中症から見事に復活を遂げたわたし。(その節はご迷惑をおかけしましたのに、先生方やバイトちゃんたちはみんな親切だし、子どもたちも大歓迎してくれてほんと優しい世界だった…)
午前中は朝から沢登りに参加しました。川のなかをひたすら歩くハイキングみたいなやつです。

その後は廃校で昼食とちょっとした工作体験があったので、水着の子どもたちを着替えさせるお仕事。女の子はまあ心配ないと思い、おそらく支度の早い男の子たちの様子を見に行こうと校庭へ向かう途中。
我らが4班リーダーの男子ズミーが気まずそうな空気を纏いながら立っていました。おそらくわたしが出てくるのを待っていたのですね。

「おやズミーじゃないか!着替え早かったね!」
「うん。あのさー…」
「どうした?」
「あいつさ、病気なの?」

ズミーがいう『あいつ』とは、班にいた自閉症の少女のことでした。

「どうしてそう思った?」
「んー…だってウチの班だけ先生ふたり居るし、あの先生はあいつに付きっ切りじゃん?」
「その状況にズミーは何か困ってるのかな?」
「いやぁ…困るっていうか…」

ズミーは顔を赤くしながら、わたしから視線を逸らし、とても言いづらそうに続けました。

「昨日はさ、何かワガママな奴だなと思ったし、探検中もあいつすぐどっか行くし…ウチの班ビリだったり…見ててイライラしたんだ。昨日は。でも病気なのかなって思うと気になって。俺、リーダーじゃん?」
「そうだね、探検もみんなを引っ張って頑張ってくれてたね」
「うん…だからさ、病気なら俺もさ…何か出来ないかなって」
「うんうん」
「先生、俺さ…どうしたらいい?」
「そっか、ズミーはどうしたい?」
「俺?」
「そう。ズミーはどう思った?病気とか女の子だからとか、そういうこと関係なく、みんなをまとめるリーダーとして、この班でどうなりたい?自分はどうしたらいいと思った?」
「リーダーとして…」
「ズミーが思う通りにしていいんだよ」

彼は、はっとした顔を向けて走り出しました。

「うん!ありがと!」

彼の質問に質問で返したわたし。答えたような答えてないような。
ただ自分から気にかけてくれたズミーを、おそらく答えを胸に隠し持っていた彼を、信じてあげたいと思ったのです。

子どもたちとの2日間。
彼らの目線では、わたしが見ている時間とは流れるはやさがまったく違ったようでした。

わたしにはたったの2日間。
しかし、悪ガキ大将は昼食後には先生から言われる前にきちんと自分の班員を点呼して並べたり、5年生の2人と6年生の1人の女子間にあった微妙に仲間はずれにする距離も、深夜のお布団恋バナ談義開催ですっかり近づき、仲良しトリオとして誘い合い帰りのバスに座る姿。

わたしだけは昨日と変わらないのに、彼らはオーラも表情も行動もまったく違うのです。
自分が日頃無駄に過ごしている毎日のぐうたらな日々や心を動かされるような、謎の頼もしい輝きが。

このキャンプを通じて、置かれた環境で自然を吸収しながら突然グンと成長する姿には驚かされました。子育ても驚きの連続だろうなあ。これが毎日でしょ?そりゃあ親バカにもなりますわ!ズミー抱きしめたいわ!って思ったものです。

子どもたちを保護者の方に引き渡して、キャンプは終わり。わたしの2日間の先生の真似事も終わり。
別れ際に目頭が熱くなったことを覚えています。おそらくもう二度と会えない君たちとのお別れ。

照れながらも自分の家族を見つけて走り寄る姿。昨日までの子どもらしさを感じてほっこりした一期一会。

ズミーはどうしてるかなあ。成人しただろうなあ。いいオトコになってるかなあ。今でも夏が来るたびに、彼の不器用なはにかみ笑顔を思い出すのでした。

このキャンプは翌年も2年連続で参加しました。
初参加時に一緒に4班を担当したもうひとりの先生、日本の宝のような当時大学3年生の女の子のお話もそのうちお送りしたいと思います。

同じ子どもでも「子ども」と「子どもっぽい」は違う存在。置いてきぼりの自分を少しだけ、取り戻すことができた気がしました。ズミーたちが揺り起こしてくれたのかな。
だからまた大勢の子どもと遊びたいなあと思う、大貫理音でした。おわり。

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