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愛用できる料理本の選び方(ミールスの舞台裏 #1)

創作ミールスの舞台裏紹介。

私のつくる南インド料理は、先人の料理本や食べ歩き、現地の方々に教わった家庭料理が元になっているのですが、創作と銘打っているように、他の食文化の食材や料理法を取り入れることもしばしばです。

イベントでは発信しきれない部分の紹介として、まずは本棚の料理本を何度かに分けて紹介していこうと思っています。(全部で25〜30冊ほど)

家に籠るお供の参考になれば幸いです。

・3000冊から編まれた、レシピアンソロジー本


1冊目は、土屋敦さんの『このレシピがすごい』。

料理研究家と書評家の顔を持つ著者が、感銘を受けたレシピを短いエッセイの中で紹介するという、ありそうでなかった、アンソロジースタイルの料理本です。

前書きによれば、このアンソロジーを編むに当たって頭においていた料理本は3000冊分(!)ほどもあったそうで、そこから選り分けたレシピが22個紹介されています。

異国の料理研究家が書いた保存食の本にカルチャーショックを受けながらワクワクして読んだ体験を綴っているかと思えば、極限までシンプルに作られた味噌汁の美味しさにその料理研究家のスタイルの真髄を見たりと、その切り口の多様さにも驚かされます。

ペペロンチーノで一冊本を書いてしまうほどギーク気質な料理研究家である土屋さんの語り口は、料理人として共感できるところも多々あり、食欲というより料理欲を大いにそそられます。

私にとってはルーツのルーツとでも言うべき本で、紹介されている本の1/3が本棚に並んでいます。

・レシピの個性は細部に宿る

個人的な考えですが、愛用できる料理本には、レシピの分量や調理工程などはもちろんですが、そのような定量化できるレシピの良し悪し以外の魅力が宿っているものです。

土屋さんがしばしば注目するのは、著者の語り口、書き口とでもいうべきもので、そこから書き手の大事にしていることや、自然と現れているルーツのようなものを読み取っていることが伺えます。

それは私が料理本を選ぶときに大事にしていることの一つでもあり、『このレシピがすごい』を読んで以来、注目するようになったことでもあります。

ちなみにインド料理でいうと、『レヌ・アロラのおいしいインド料理』が、そういう意味での個人的ヒット作です。

レヌ・アロラさんといえば、『美味しんぼ』にも登場したことのある、日本のインド料理の普及を語るには欠かせない一人で、もちろん、そのレシピの精度も並はずれたものです。一方で、「チャパティはごはんです」「おお辛い、でもリッチ」といった口語のユーモラスな語り口調が、レシピのあいま合間に添えられていて、どこか人懐こい人柄と、職人気質なストイックさを併せ持ったアロラさんの魅力をよく表現しています。

書き口に好感がもてるかどうかは(愛用できる本を選びたければ)、レシピの出来以上に重要なポイントです。例えば、レシピの再現には失敗がつきものですが、それによって本に対する信用がなくなってしまうか、またチャレンジする気になるのかは、書き手に対する信頼によって大きく変わってくるでしょう。

・こんな人にお勧め!

一番には、レシピの本を買っても、つい本棚に眠ってしまいがちな人に。きっと長く付き合える料理本が見つかると思います。

また、自分なりの料理スタイルを持っている人にも、改めて、レシピを開いてみることの楽しさを思い出させてくれる本でもあります。この機会にぜひ。

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