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忘れていた「ロアルド・ダール」の世界

久しぶりにロアルド・ダールの本を読んだ。彼が手がける作品の多くは児童書だが、大人が読んでも充分楽しめるものばかりだ。

ダールの作品といえば、映画化もされた『チョコレート工場の秘密』や『おばけ桃の冒険』『マチルダは小さな大天才』などが有名かもしれない。もちろん、このほかにもユーモラスで魅力的な作品があふれるほどある。

※出典:紀伊國屋書店

今回わたしが読んだのは『ぼくのつくった魔法のくすり』だ。
――ある日、両親が出かけてしまった家で、意地悪なおばあさんと2人きりになった少年ジョージ。日ごろの鬱憤を晴らすため、めちゃくちゃな薬を作っておばあさんに飲ませてしまおう!そう思い、ジョージは大きな鍋を手に取り、いろんなモノを放り込みはじめる。
…そんなストーリーだ。

久しぶりに読んだダールの作品は、やはりテンポが良く、軽快に物語が進んでいく。そして物語には、彼特有の”ブラックユーモア”もたっぷりと注ぎ込まれていた。それがダールの持ち味、むしろ物語の要といっても過言ではないのだが、「そうか。ダールが描く作品って、こんなに大胆なブラックユーモアが散りばめられていたのか…!」と、子どものときには感じなかった”驚き”をわたしは覚えたのだった。

作中で少年ジョージが作った薬はめちゃくちゃだ。
バスルームや台所、ママの自室、ガレージなどにあるさまざまなアイテムを鍋に突っ込み、煮たてて魔法のくすりを作る。鍋の中には殺傷能力のありそうなアイテムもふんだんに盛り込まれている。そうして出来上がった魔法のくすりを飲んだおばあさんは、飛び上がり、目が飛び出し、口や耳から黒い煙が漏れ、そしてそのしわくちゃの体にアッと驚く変化が訪れる。

…なんというか、少年ジョージの鬱憤を、これでもかというほど晴らしてくれる展開なのだ。ああ、そうだったな。ダールってこんな人だったな。そう思いながら読了した。


そして最後、訳者のあとがきを読み進めると、彼のブラックユーモアに驚く以上にハッとさせられた。あとがきには、こう書いてあった。

『ぼくのつくった魔法のくすり』は、ダール得意のブラック・ユーモアが、ことのほか色濃くあらわれていて、どんな人の心の中にもひそんでいる、どすぐろいもの、あさましいものに、皮肉な目が向けられています。「生真面目な大人たちは、ダールの文学的態度やモラリティを疑問視するかもしれない。それは彼らが、児童文学とは知識と教育のためのものであって、驚異(ワンダー)と喜び(デライト)など二の次だ、と考えているからなのだ」(ジーン・ラッセル)という言葉を思い出させる作品です。
―――中略―――
「大人の中にはわたしの作品を残酷だと批判する人もいるが、わたしは子どもたちから苦情を言われたことは一度もない。みんなクスクス、ゲラゲラ笑って、楽しんでくれている」「わたしに手紙をよこす子どもたちは、決まって、物語の中のいちばんゾッとする部分がいちばんおもしろかったと書いてくる。彼らはそういう部分を現実の生活と結びつけたりはしない。あくまでファンタジーを楽しんでいるのだ」と、ダールは語っています。

そうなのだ。わたしもかつては、彼のブラックユーモアに、クスクスと笑っていた子どものひとりだった。それが気づけば「これってやりすぎでは…?」「これを読んで、子どもたちが真似をしないかしら?」などと心配する、”生真面目な大人”に片足を突っ込んでいたのだ。それが悪いというわけではない。しかし、思い返してみると、そんなダールのブラックユーモアを楽しめど、現実世界で同じようなことをやってみよう、誰かを痛めつけてやろう、と思ったことはただの一度もない。ダールの言う通り、きちんと”ファンタジー”として物語を楽しんでいたのだ。

魔女がいっぱい』はダール作品の中で一番好きだ!魔女は子どもを嫌っている。だから子どもたちに意地悪をする。動物に変えたり、絵の中に閉じ込めたり。そんな残酷でいやらしい魔女たちの生態・魔法の数々に震え上がるも、読む手が止まらなかった。

魔法の指』は感情が高ぶると、人差し指から光線のようなものが出てしまう女の子の話で、ちょっと不思議でドキドキする作品。当時わたしが読んだこの本は、ダールの相棒的存在のクェンティン・ブレイクさんのイラスト”ではない”本で、それが珍しかったし、大変魅力的な絵だった。

いじわる夫婦が消えちゃった!(アッホ夫婦)』は小学校の頃、図書館で見つけて読んだ作品。不潔で醜い夫婦のにちょっと怖くて面白い日常がすごく愉快だったのを覚えている。たしかミミズをパスタのように食べた、みたいなシーンがあった気がする。

…こうして少し思い出すだけでも、ダールのこのブラックな表現に惹かれて、物語を大いに楽しんでいたことがわかる。これは、大人になった今の自分が少しだけ忘れていた感覚だ。また、その感覚を今思い出せたことが、本当に良かったと思う。それにダールの作品は、ただ無意味にブラックユーモアを散りばめるのではない。物語を通して、わたしたち人間のキレイではないところを指摘し(しかし説教くさくはない)、笑わせながらも振る舞いや身の振り方について考えさせてくれる、そんな要素もあるのだ。
今回、『ぼくのつくった魔法のくすり』を読むことで、そんなダールの魅力を再認識したのだった。ぜひ今後もほかの作品を読んでいきたい!


――ちなみに、わたしは海外作家の「アーノルド・ローベル」もダールと同じくらい大好きだ。彼はストーリーだけでなく作中のイラストも手がける絵本作家で『ふたりはともだち』『どろんここぶた』『ふくろうくん』『とうさんおはなしして』など、たくさんの素敵な絵本を生み出してきた。

※出典:絵本ナビ

どれも世界で愛される名作ばかりで、その愛らしいイラストと柔らかな表現のストーリーは、読んでいるとたちまち温かく、満たされた気持ちになるものだ。そんなローベルの話は、また別の機会に触れられたら、と思う。

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今日は大好きな海外作家、ロアルド・ダールについてお話しました!コロナウィルスの影響でみなさんも自宅で過ごすことが多くなっていると思いますが、こういった素敵な本があれば、きっとより楽しく、充実した時間を過ごせるはず。

ちょっと小さな字を追うのに疲れたとき、歴史モノの小説を追うのに疲れたときなどは、ぜひ”児童書・絵本”がおすすめです!子どものころに好きだった本を大人になった今読むと、いろんな発見があります。(挿絵を見るだけでも充分楽しいです!)またこうして、いろんな本のことを書ければと思っていますので、これからも、共に素晴らしい読書時間を過ごしていきましょう…!

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