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短編小説 リボンが結べない君

「こうた〜、うまく結べないよ〜」
モモがそう言ったのは中学校に入学した日だった。

家が隣同士、いつも俺が世話をしていたせいで、
幼馴染みのモモはセーラー服のリボンを結ぶことさえ出来なくなってしまった。

はいはい貸しな!とぐちゃぐちゃのリボンを
結び直して、俺らは玄関を後にする。

幼馴染みとは不思議なもので、いつのまにか腐れ縁に近いものへと進化していった。

「「高校も一緒か…ここまできたか」」

モモと高校も一緒…しかも、、、

「おまっ、モモ!お前なんでまたセーラーの高校に入ったんだよ!?1人で結べるのか!?」
「結べるわけないじゃーん。さ、帰るよ〜」

あぁ、また始まるのか…
お前の弱みに漬け込む3年間が

***

「こうた〜!何もたもたしてんの!?」
「うるっせえな!お前ホント律儀に全6年間俺が迎えに行くまで玄関でリボン持って立ってるだけだったな!」
そこで待ってる間に、むすぶ練習する時間なかったのか!?

「卒業式の日にもたもたするなんてあり得ない…」
「俺からしたら、感謝の一言でも貰いたいもんだなあ?モモ?」

今日で終わる。こんな日々が、、、。

「こうたは本当に優しいね!毎日毎日リボンを結んでくれて、、、」

お前は人の心を疑うことを知らない。

「だろ?感謝しろよな??」

優しいって?そんなわけないだろ

この"幼馴染み"というポジション
毎日お前と登校するポジションを
誰にも奪われたくないくせに

嫌われる勇気も無く、
お前に、好きなやつに手も出せずにいる
ただのダッサい男なんだよ
だから俺は、
お前の弱みに漬け込む事しかできないんだ

「ズルいよなぁ、本当」

「ねえ〜、置いていくよ?こうたあー!」
「はいはい、今行きます行きますって」

式が終わった。何年もお前の世話をしていた毎日が日常ではなくなる。2人きりの登校時間も、もうなくなる。少なくともリボンを結ぶことはないな、、、

「こおた〜!一緒に帰ろう〜!そして家でお菓子食べよ〜」

モモがこちらにセーラーのリボンを揺らしながら走ってきた。
あーあ、可愛いな。もう、このまま帰るだけか。
てか、走り全力すぎてリボン取れかけてるし、、、

家に着く頃には、リボンは完全に解けていた。

「あらら、取れちゃった〜、、、」

「お邪魔します」

ちょっと待っててね、というモモの手を掴んだ
「なあ」
「ん?」
「それ、最後に結んでやろうか?いつまでも結局結べなかっただろ?」
モモがキョトンとした顔でこっちを見る
そして、、、

「あ…、、、、ふふっ」

笑った。俺には全くわけがわからん。というのをモモも察したらしく、リボンを手に取って笑った。
そして、リボンを優しく結び直していく。

「とっくの昔に結べるようになってるよ」

リボンが揺れた

「…え、おま、、。」
その時、モモが顔を上げる。

「ごめん!でも、こうたを手放したくなくてずっとその優しさに甘えてたの〜」

モモ、お前…お前…

「そんなの無しだろお〜……」

「こんなわたしじゃ好きになれない?」

「ダイスキ、付き合って、、、」


「えへへ」

モモがいたずらっぽくはにかんで、リボンを指差し困った表情になる。
さっきまでと違う、今まで見たことない大人の顔に。

「じゃあ、今度はこれ、解けなくなっちゃった」

グラっと目眩がする。本当にお前は、ため息が漏れる

「その聞き方はずるい。お前には一生敵いそうにないな」

モモの手に手を這わせてリボンを受け取る。

お前のリボンを結ぶのもほどくのも
これから先、俺だけでありますように

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