短編小説『学校 カレシ』vol.2同学年の癒し系カレシと部活動
「ファイトー」「ナイッショー!」「ガンバー」「ナイスリ」
「アツすぎる…」
高校最後の地区大会予選を控え、私が所属する女バスもここぞとばかりに力を入れていた。
そして、ハーフラインの向こう側、男子もゲーム形式で練習を行っている。
「ユウヤ、ナイッシュ」
「お前もナイスパス、ありがと」
自然と同じ部活は同じ日に練習になりがちだけど、最近は別での練習試合が多く、いつの間にか熱が入った練習をしていたと思わなかった
さすが大会前…。
男バスのわいわい騒ぐみんなの少し奥の方に、はーっと息をついて床にしゃがむキミと目が合う。
『おつかれさま、がんばれ』
思わずにやけてしまう
いやいやだめだめ!今は練習中今は練習中!
また前みたいに、ボール見てなくて顔面に当たったら流石に先生に怒られる…
「あいつも頑張ってるんだから私もやらなきゃ」
バスケットシューズのスチール音と共に、私は走り出す。
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少し前まで、風に揺れるポニーテールを眺める事が息抜きな所もあったけれど、
『わたし、気合い入れて髪の毛切る!』
そう言って、耳にかければ顔のどこにも掛からなくなった猫っ毛の髪がふわふわと揺れるのもありだなあと思う。
彼女が頑張り屋さんなのも知ってるし、俺らに負けないような成績を残そうとしている。
ほんと、かわいい
ピーッ!!!!! 集合!
コーチの笛で、男女ともに真ん中に集められる。
最後は、コートを行き来する定番のダッシュで終わりだ。このクォーターダッシュが何かときつい。
「ちゃんと並んだか?男女混合でいいから列ならせよ」
はじめの合図で、みんな一斉に走り出す
自分の番が来て、1度向こうのラインを踏んで切り返し、次の人にタッチしたらもう一度ラインを踏んで向こう側に戻る。
単純なんだけど辛いんだよなあ
前の走者が、俺の手にタッチした。
よし、頑張ろうかな
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「次、頑ばれよ…」
タッチの瞬間、ようやく後ろに並んでいたのが私と分かったみたいで、唖然とするユウヤが可愛かった。
いやいやいや、部活部活!!と気合を入れて、反対側のラインを踏みに行くと、走り終えた子達が見える
その後ろで、しゃがみ、息を整えながら、はにかむユウヤの顔が見えた
『ここまで走りきれる?』
と、言わんばかりの笑顔で、首を傾けこちらをじっと見つめてくる。
1ターン走り終えるまで30秒
その中のたった数秒のハズなのに、時間が止まったような感じになる
「走りきるに決まってんじゃん…!」
より力を入れ、最後まで走りきる。
こうやって頑張れるのもあと少し
いける、まだ…
足に力を込めた瞬間、鈍い痛みと共に、足から力が抜けた____。
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「あーっ!疲れたあ〜」
横に流れた髪を耳にかけて、彼女が笑う。本当に疲れたね〜
「あんた、大会予選で負けたりなんかしないでよね!」
彼女が口をいーっと噛んで、スポーツドリンクを飲む。今いる公園はバスケットゴールがあり、練習にはうってつけの場所だ。
『おい!?大丈夫か!??』
『先生大丈夫ですよ〜、試合もうすぐですもん〜』
さっきの彼女が怪我した瞬間が脳裏に浮かぶ。
気丈に振舞ってはいるけれど、相当痛みがあるはず。
何より、、、今までの集大成である大会前に大きな怪我をしてしまったという心のダメージが…
うつむいて、自分も飲み物を飲もうとすると
おもむろに、彼女がバスケットボールを出して、ボールをつき始める。
「もうちょっとで大会だね〜」
顔は笑っているけれど、いつもの笑顔じゃない。
「そうだね、じゃあ、君が俺にバスケを教えてくれてからもうすぐで10年ぐらいかな?」
君と出会ったのはこの公園だった。
内向的で、運動が苦手な俺は、砂場で遊んでいたっけ
『一緒に遊ぼ!出来るでしょ??』
半ば強引に、けれど全然運動が好きじゃないしできない僕に、最後まで諦めずバスケを教えてくれたのは君だった。
初めてゴールを入れた瞬間も鮮明に覚えている。
『わー!!!!!出来るじゃん!』
自分の事のように君は喜んでくれたっけ。
いつの間にか、足の速さも身長も、スピードも俺の方が君に追いついて追い越して、簡単に負けなくなった。
けど、俺に負けないように、チームメイトにも負けずそしていつも自分に負けないように彼女は頑張ってきた。
チームのために、後輩にも先輩にも分け隔てなく接して、誰よりもみんなを応援していた。
なのに__。
「…あ、ボールそっちに行っちゃった……っ!てて」
リングに当たったボールが大きく外に外れ、僕の方まで戻ってきた。
それを追いかけた彼女が転んでしまう。
「ちょ!大丈夫!?」
「____っ、なんで」
肩を上げて起こすと、涙を目尻にいっぱい溜めて、彼女は眉を下げていた。
「なんで今なの?私の足は…治るの?大会にみんなと出れるの?ここまで頑張ってきたのに_なんでっ!」
俺の事を彼女は突き飛ばした。
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ユウヤが倒れ、勢いのせいで手が砂だらけになってしまっている。
「あ、ごめ…、私が悪いのに…」
涙で視界がぼやける。ごめん、でも、なんで私が__
「まだ泣いちゃダメだ」
ユウヤが、私の身体を抱き寄せる
公園で遊んでいた子供たちがこちらを覗きに来る
「ちょ!ユウヤ!私が悪かったから、ちょっとここは…その、、、離して!」
「やだ」
その言葉と同時に、抱きしめる力がより一層強くなる
ちょ、流石にこれ以上は恥ずかし…
「ねえ、いつも俺に言ってたよね。諦めるのまだ早いって。本っ当に負けそうな試合がその一言で変わった日も、変わらないで負けちゃう日もあった。」
ユウヤの言葉にはっとする。
「いつも大きな声で、俺に届くように、必死に叫んでくれた。」
瞳が真っ直ぐ私を捕えた。真剣な顔はいつぶりにみたんだろう。
涙が出そうになると、ユウヤが微笑んでくれる
「今まで頑張ってきた成果が、いつ出るかはわからない。でも、最後まで頑張ろう」
違う、ちがうのユウヤ。私はあんたが居たから___
落ち込んだ日も勝った日も、負けて挫けそうになった日も、きつい練習でもいつも君が笑っていたから。
その笑顔に救われてきたの
応援してくれたから、だから私は頑張れた
公園で出会った時も、バスケを辞めそうになった私が今も続けられているのは、あの時一生懸命に取り組んでくれたあなたが居たからよ…
「らしくないよ、俺が好きなキミはいつも笑顔でコートを駆け回ってるもん。」
両手で私の顔に触れて、ユウヤが涙を拭いてくれた。
そうか…私たち、似たもの同士だったのね?
思わず、言葉がこぼれ落ちる。
「ユウヤ、大好き。あんたの為にもみんなの為にも、怪我、少しでも良くするね」
「俺も、君の為にももっと努力して、もし負けちゃってもその時は俺が勝って慰めてあげるね」
いや、まだ負けてないから。
そういう所ちょっと、腹黒いんだよね、
「そういう腹黒いところも好きなんだけどね」
「俺に惚れすぎ__。でも俺も君が好き〜」
抱き合って笑うのに夢中で、子供たちがキャーっと恥ずかしがってこちらを見ているのを気付くのはもう少し先の話。
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大会特有の独特な雰囲気に身震いする。
ライトは体育館より明るく、人混みと歓声が各所で入りまじる。
今日が俺たちの集大成の始まりになる。まだ終わりは見えていない。
足はサポーターがいるが、この地区大会を勝ち抜いたら本大会までまた休ませられる。
この3日間が、勝負だ。
「やるしかない」
『私ならきっとできる』
「きっとあの子も頑張ってる」
『あいつも頑張ってる』
「みんなの為に」
『自分の為に』
「『今出来ることを最大限にやりきる』」
大好きな、最好敵手の君に勝利を伝えるために。
「『絶対、負けない』」
試合のブザーが、鳴り響いた
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