4月のはなし

NICO Touches the Walls(以下、NICO)に寄せて。

NICOを好きになってから11回目の4月が来た。
NICOを好きな人にとって4月は1年の中でも特別な月なんじゃないかと思っていて、少なくてもわたしにとってはこの10年間ずっとそうだった。

『April』。
メジャーデビューシングルのカップリング曲が、ずっとずっとメンバーとファンの間で大切にされているのはすごく喜ばしいことだなあと思う。
4月になるとウォークマンで毎日のようにこの曲を聴き、4月にライブがあるときは道中からAprilの演奏を心待ちにし、逆にライブに行けないときにはセットリストの中の April の文字を見ながら思いを馳せる。

今までもずっとそうしてきたし(特に頻繁にライブに足を運べるようになった大学生以降)、これからも変わらずそうなんだと思っていたし信じていた。
それが突然、2019年11月15日、NICOの解散宣言。

正直驚いた。
別に彼ら4人が仲良しバンドではないことなんてとっくに分かっていたけれど、ただ光村が後ろの3人を信頼していて、3人が光村の音楽を、歌を信じていることはライブを見れば明らかだったから、NICOは大丈夫だとライブに行く度噛みしめていたから。

もう今後4月のライブを殊更楽しみにすることもなければ、11月25日の予定をなんとか空けようとすることもなければ、ロッキン、CDJ等フェスの出演アーティスト発表を心待ちにすることもない。
なんとも呆気なく、しかしそれもまたNICOらしいと、ただ最後に何かこちらも腹を括った上で彼らを観る機会があればとどうしても思ってしまうのであって。

ただ何となく、(あくまで1ファンの想像に過ぎないのだけど)光村は大切なものから手を引いてしまうというか、いつも頭の片隅に「別れ」が前提としてあるんだろうな、という気はしていた。

古くんが骨折から復活したリベンジの武道館、最後に光村が弾き語りで歌った『ウソツキ』と、その2ヶ月後に発売されたアルバムの最後を飾る『勇気も愛もないなんて』(アルバムタイトルも同じである)。

僕はウソツキだよ / 君が思うより
気持ちは言葉を超えているのに / 伝わらない

もう会わないなんて言わないで / ただ傷つけてしまうから
へそ曲がりな愛満たす歌 / まだ歌えないや
もう行かなきゃなんて言わないで / また傷つけてしまうのかな

このあたりから光村がすごく自身の内面をさらけ出すような曲を書くようになったなあと思うとともに、「言葉で伝えられない」「大切な人が離れていってしまう」といった呪縛のようなものが奥底にずっとあるんだなあと感じることもあって。

近年の楽曲にもそれは色濃く表れている。

『bud end』(2017.12 OYSTER -EP-)
思い通りにはいかない / 秘密の楽園
そうやって笑っていられたら / 上出来な未来
愛おしい日々よ / さよなら

『bless you?』(2019.6 QUIZMASTER)
もう君なしじゃ / 生きてゆけないはずなのに
どうして言えなくて / 嫌われていく

こうしたフレーズに、刻み込まれた呪いのようなものを感じ取ってしまうのだ。

だから度々光村が口にする「自分には音楽しかない」「音楽の中では素直になれる」という言葉が切実な響きとしてこちらに届いていたし、その上で、音楽で遊ぼうとする彼らの姿がいつだって眩しくて、ためらうわたしの背中を押してくれていたのだと思う。

音楽とは自由に遊べるものだと、その時々で自分のやりたいように、思い描いた色を足したり引いたりしていいのだと、正解なんてないのだと教えてくれたのがNICOだった。

自分のファルセットが嫌いだと言っていた光村が『PASSENGER』(2011.4)を機にファルセットを用いた歌を書くようになったこと、メンバーも作詞作曲に絡むようになったこと、コーラスに参加するようになったこと。
既存曲のライブアレンジや新曲の魅せ方、何をとっても飽きることのない、楽しく音楽で遊ぶことを突き詰めていく彼らには信頼しかなかったし、色々な曲がライブを通して大切な想い出を携えた1曲に次々と変わっていった。

わたしがNICOを観た最後のライブ、MACHIGAISAGASHI'19 -QUIZMASTERのラストが『demon(is there?)』(2011.12 HUMANIA)だった。
2012年のHUMAMIAツアー以来のこの曲、これをラストに持ってきた意味をいつまでも考えていくことになるのかなあ、なんて、なんとなく。当時は「ここにも?が曲名に含まれるものがあった!」くらいにしか捉えていなかったけれど。
この時にはもうNICOとしての活動を終えて次に旅立つ決意をしていたのかなんて、当人以外には知る術もないし、真相は永遠に闇の中、「?」の中なのだ。

独りで枯れたままの / 僕に何か残せるなら
あなたの側にいるから / ずっと見守っていて欲しいよ

2011年に発表されたこの曲が、今でも色褪せずに、新曲をメインに組まれたセットリストの中で一際輝きを放つことが、そうした演奏を出来ることが、今となっては一種の哀しさを伴って想い出に刻まれてしまった。会場を照らす淡い光の中、静かに始まるあのイントロが今でも心を掴んで離さない。

ツアー後のブログにて、「僕達と音楽はいつでもすぐ側にいて、夢見るあなたを応援しています」と綴っていた光村。
ずっと見守っているから、どうかこれからも、側にいてほしい。いつだって鮮明に思い出せる記憶の中で。
そして、また4人で、笑いあって音楽を楽しむ姿を観るという夢を見ることを、見続けることを、どうか赦してほしい。

最後に、大好きな『April』の歌詞で。
泣いていい / 君は泣いていい / 僕が手を握るよ
君の涙の雨で / やがて海を作って / 二人で船を出そう

時折涙を流しながら、それでも、また12回目の4月をひっそりと待つことにします。

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