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🅼の臨床推理日記 ❸失神と言えば....

ひとくちに「失神」といっても、さまざまな原因がある。
中には命を落としかねない病態が潜んでいたりするので、あなどれない。

こんな患者さんもいた。
スポーツジムで鍛えている偉丈夫な熟年の男性Bさんだった。
訴えは、こんなものだった。

Bさん 「いつもスポーツジムで水泳をして、その後にプールの周囲を歩いているんだけど、その時に意識を失って倒れるだよね」。
意識を失うのは、自覚的にはホンの数秒らしい。
当然、専門医を受診している。

検査の結果などを聴いてみると、総合病院での脳画像では問題が検出されなかった。
かかりつけ医である循環器科のクリニックでは、心電図等でやはり問題は指摘されなかったようだ。
失神が起きるのは、スポーツジムでのことに限定的のようである。運動負荷に関連しているのだろう。
そこで、危険度の高い問題からチェックした。

🅼 「ちょっと心音を聴かせてもらっていいかな?....」(仰臥位になった状態でベッドサイドで聴きとりをしていたので、そのまま心音を聴いた)
肺動脈弁、大動脈弁、三尖弁、僧帽弁....、4つの弁での心音が聴きとれない。
聴きとれる弁でも、かすかである。
確かに問題がありそうだけどなぁ~!
🅼 「これで循環器の先生はなんて言うの? 聴診の結果については何か言ってました?」
Bさん 「大丈夫だって、心電図も問題ないし、そんなに気にしなくてもいい...、と言うんだけど。本人ににしたら気になるよね」
それはそうだ。

🅼 「あれっ!、もしかしてクリニックで聴診するときは座ってやってるんだよね」
Bさん 「そう! 座って診てもらう」
🅼 「それじゃ、座ってもう一度聴いてみようか!」
座位で聴診したら、今度はしっかり聴こえる。
🅼 「これは臥位のときと、起きているとき、あるいは座っているときと心音が全く違っているよ! 循環器の先生に24時間ホールダーで検査してもらうように、リクエストしてみたらどうだろう?」

それで24時間ホールダーでの検査になった。
その結果にクリニックの先生は驚いて、総合病院の循環器科に紹介状を書いた。
結論としては、ペースメーカーを付けなきゃいけないことになった。

その後、Bさんが身体機能の調整に…、と元気に来院した。
🅼 「ひとまずよかったね! スポーツジムの方はどう?」
Bさん 「今は何ともない! 助かったよ! 運動も無理のないように気をつけてる」

Bさんの失神は「心血管性失神」だったことになる
そこには突然死の危険性も潜んでいたわけだ。
病院の検査で問題が指摘されなかったからと言って、起立性低血圧や神経調節性失神などの予見は禁物である。

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