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9 2020年9月の香港立法会選挙について【延期されました】

前回2016年に行われた第6回香港立法会選挙について当事者たちの独自インタビュー記事をnoteの別の記事で一覧掲載しています→インタビュー記事まとめへ

◇選挙の実施が延期に

7月31日に香港政府は新型コロナウイルス感染拡大を理由に香港立法会選挙の実施を来年に延期することを発表しました。また、その後に開催された中国全人代常務委員会において現職議員の任期を1年延期することが決まりました。詳細な経緯は以下の記事をご覧ください。

国家安全維持法施行後の香港を記録する【最後の歴史とならないことを祈りながら】



(香港版国家安全法制に関する追記)

2020年5月に開幕した全人代で中国は突如として国家安全法制(共産党を批判することを禁ずる法律)を香港に適用することを決定しました。これは一国二制度を崩壊させる歴史的な国際公約違反かつ香港基本法に照らして違法行為と言えますが、中国が強引に推し進める理由には今秋に香港の立法会選挙があり、まさにこの記事で説明しているように、今度こそ民主派の躍進が予想されていることにあります。

(6月14日追記 香港政府発表)

6月12日の官報で選挙の方式などが発表されました。

投票日が9月6日、立候補期間は7月18日から同31日。

香港立法会選挙では全70議席のうち半数の35席が地域選挙枠、残りの半数はでは29の職能団体から選ばれます。

地域選挙枠では5つの選挙区に次のとおり議席数が割り当てられます。

香港島6  九龍西6  九龍東5  新界西9  新界東9

以下の記事もご覧ください。

9-2 2020年第7回香港立法会選挙方式について発表

香港の選挙

香港には唯一の立法機関として香港特別行政区立法会が設けられています。昨年民主派が圧勝したことで話題になった区議会選挙ですが、区議会にはその地域内のみで通用するようなものも含めて立法権はありません。

昨年が区議会選挙、今年が立法会選挙の年です。なお2022年が行政長官選挙です。

2020年の立法会選挙は、2019年以降続いているデモ活動、そしてその影響を受け民主派が圧勝した区議会選挙に続けて行われるもので、将来の香港を占うとても重要な選挙となります。

ここではこの立法会選挙について解説してみたいと思います。

香港立法会選挙の歴史

まず香港立法会の役割ですが、法律の制定や改廃、予算の審議と承認、行政長官の弾劾案の決議などがあります。

立法会の歴史は古くは1800年代のイギリス植民地時代に遡りますが、現在と同じような体制となってきたのは、1985年の間接選挙制度導入以降であると言えます。

イギリスは香港の中国返還を睨み、香港の民主化を進めます。その一環で立法会議員の選出方法にも改革が加えられ、続いて1991年には直接選挙も一部ではありますが導入されます。

政党政治もこの時より産声を上げます。選挙のために民主派がまず政党を結成、選挙での大敗を受け親中派も選挙後に政党を結成します。

返還の直前には民主制度を一気に推し進めるイギリス側とそれに反発する中国側で小競り合いが続き、返還後の香港立法会の第一回選挙は返還後の1998年にずれ込みます。

第一回選挙の際の議席は60、そのうち比例代表・最大剰余方式の直接選挙で選ばれるのが20、職能団体枠が30、選挙委員会枠が10です。

職能団体とは各業種の業界団体のようなもので、例えば医療、教育、輸出入業などの業種ごとに代表者を選出することができます。

また、選挙委員会は第二回選挙までは議席を持っていましたが、現在は無くなっています。

2012年の第五回選挙以降は定数70、うち直接選挙枠35、職能団体枠30、区議枠5となっています。

直接選挙の選挙区は香港島、九龍西、九龍東、新界西、新界東の5選挙区です。

2020年現在の議席の獲得数は、親中派40、民主派26(本土派1含む)、そのほか3(欠員2含む)となっています。

2016年の選挙の結果、本土派とよばれる普通選挙や独立も見据えた勢力は6議席を獲得しましたが、その後議員宣誓の不備などを理由に議会を追われ、勢力を減らしています。

法案の否決に必要な定数の三分の一は24議席ですから、このラインは民主派としてまだ保っている状態です。


香港立法会において重要な全体議席数2/3ライン

香港立法会において過半数はもちろん大切ですが、民主化運動においては全体議席数の2/3が重要な意味を持ちます。

まず法案の成立に関してです。香港行政長官は議会が可決した法案の拒否権を持っています。

行政長官が拒否した場合、法案は議会に差し戻されます。

しかしこの場合でも議会の総議席数の3分の2以上で再可決すると法案は成立します。

香港行政長官はそれでも納得できない場合は議会を解散することが可能ですが、およそ民意と離れた決定ですので、世論の大きな逆風にさらされることは必至です。

次に香港基本法を改正する場合です。

香港基本法は中国の国内法ですが、香港のミニ憲法の位置づけにあるため、その改正にはより慎重なプロセスが設定されています。

香港基本法を改正するためには、中国全人代に送っている香港代表36名のうち3分の2以上かつ香港立法会議員3分の2以上で可決され、香港行政長官が同意して中国全人代に提出されます。

全人代での審議が必要なため、現在の状況に照らせば民主的な改正案の場合はまず否決されると予想されますが、国際社会に対する大きなメッセージとなります。

2020年の立法会選挙の見込み

それでは、2020年9月に予定されている香港立法会選挙で注目される点を見ていきましょう。

まず一つ目は直接選挙枠でどれほど民主派が議席を伸ばすかです。

これまで定数の半分しか直接選挙枠が無く、もう半分は親中派の職能団体と区議からの枠であったため、どのように転んでも親中派が議会の過半数を維持できるような選挙設計となっていました。

民主派が逆転で過半数を獲得するためにはまず直接選挙枠で圧勝することが前提条件です。

一般的には香港の市民も日本の市民のように選挙にはあまり行きませんので、投票率は高くありません。これまでで最も高かった雨傘運動後の2016年の選挙でも58%でした。

ところが2019年の抗議デモの影響で市民の政治的関心が一気に高まり、同年、まさに抗議活動の最中に行われた区議会選挙では市民が投票所に殺到、実に71%の投票率を記録します。

区議会選は小選挙区制で争われるため、票数としては民主派:親中派=6:4であったものの、議席数としては民主派が議席の8割を超える388議席を獲得する一方、親中派は59議席と惨敗しました。

立法会選は比例代表のため、ここまで圧倒的な差はつきにくいことが想定されるものの、民主派としてはまずは1議席でも伸ばすことが躍進の前提条件です。

次に立法会には区議枠が5あります。これは従来区議会で親中派が有利だったこともあり、親中派議員に占められていましたが、今回は昨年の区議選での民主派圧勝により民主派議員が5枠を占めてくることが予想されます。

もともと親中派枠であったところを5枠獲得できるのは大きいアドバンテージとなります。

最後は職能団体枠をどれだけ切り崩せるかです。職能団体は各業界ごとに作られていて、いわば経済界の代表者です。香港経済は今は中国経済と切っても切れない関係ですので、自らのビジネスの成功のために、香港政府や中国政府から有利な政策を引き出せるように動きます。

そのため一般的にはこの枠はほぼ親中派で占められます。しかし2020年の選挙ではこの部分ももしかしたら民主派によって切り崩されるのではないかという予想もできます。


長引くデモによって多くのビジネスがマイナスの影響を受けていますし、香港政府も市民の声を無視した失策や市民に暴力を振るう警察を擁護する姿勢などから信用を失っています。

香港経済界は「中国や香港政府は信条的には嫌いだけれども、ビジネスのために支持する」という微妙なバランスの上で動いています。香港経済界における親中派というのは、必ずしも思想や信条の上で中国(共産党)を支持しているわけではなく、あくまで実利を考えて中国を支持するという意味での親中派です。そのため、今週の立法会選挙ではもしかしたら民主派が躍進する余地があるのではないかと考えられます。

立法会の議員構成はその翌年の行政長官選挙にも影響を与えますので非常に重要です。

行政長官選挙については別の記事で解説しています。

10 香港行政長官選挙について【香港の政治】



今日も香港の状況は刻一刻と変わっています。そんな状況の深層を理解できるような基礎知識を得られる記事を目指しています。皆様からのサポートは執筆の励みになります。どうもありがとうございました