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古典的エリミネーター 1

「なんだ、呆気なかったな」

この日のために入念な準備をしてきたにしては、つまらない幕引きだった。

「久々の『お仕事』とはいえ、ま、こんなもんか。お前さんとは歴が違うんだよ、歴が。相手が悪かったな。」

煙草に火をつけながら、眼下に横たわるターゲットを足蹴にして吐き捨てるように言った。

生憎の荒天と、泥濘んだ地面のせいで、スラックスのプレスラインが台無しになってしまったが、今日は気にしてはいられない。

「さてと」

高級な眼鏡を扱う仕草で銃についた水滴を拭き取り、お気に入りのダレスバッグにしまった。代わりに、サバイバルナイフを取り出し、ターゲットの眼孔に当てがった。煙草の煙が目に染みる。

「死人に鞭打つことは本意じゃないが、お前さんは記念すべき第一号だ。」

★★★★★★★★★★★★★★

「指定されたターゲットの殲滅と、その眼球を無傷で持ち帰ること」、それが依頼内容だった。

時代は変わった。やれ“しぇありんぐ”だ“あいおーてぃー”だの意味不明な言葉が横行し、ヤケに未来的な話ばかりで、血生臭い仕事が性分な俺には不釣り合いな時代になっていた。

俺の需要は終わった、そう思っていた。だからこそ、この話には胸が躍った。

依頼人や依頼背景に興味はなかった。自分が求められている、活躍できる場所がある。それだけで十分だった。少なくとも、この時は。

★★★★★★★★★★★★★★

「へえ。『繋がってない』のに結構ヤるじゃん」

不意を突かれた。俺以外に、この場でまだ生きている人間がいるとは。
女だ。まだガキだが、やけに出るとこは出てやがる。顔は、まあ悪くない。

「ねえ、おじさん。あたしと一緒にヤらない?」

気づけば、俺の手の中にあったはずのナイフは、俺の首元に突きつけられていた。

【続く】

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