楽しい楽しい謝る仕事

20年前、大阪で高齢者ショップの店長もどきをしていた頃、今のようにマーケティングや監査をかじっていなかった私。店で何をやって良いかわからない状態が続いた。

とりあえずいろいろとやったがどれも思いつきの域を出ず戦略性皆無だった。「せめてこのくらいは」ということで実際に顧客対応する5名のパートさん(いずれも私より年長のヘルパー資格を有するお姉さま方)に如何に頑張ってもらうかを心がけた。店は年中無休だったので交代制でローテーションを組む。マニュアルも用意していたが、私が年少で弱腰のリーダーということで、パートさん5人の売り方にバラツキが出てしまった。結果、お客様にちぐはぐな印象を与えて、クレーム電話が入り、謝りに行くことが多かった。

この謝罪が実に楽しかった。クレーム電話が入ると「出番だ、チャンスだ!」と色めき立ったものだ。むしろここで売上を稼いだ。

私の理屈はこうだ。「自分が直接悪くなくても怒鳴られて謝るのは従来は理不尽なことなんだろう。だが、自分で自分が悪くないと分かってるから、落ち込む必要はまるで無い。そしてお客様が腹を立てられているのは事実だから、それを解消してもらわねばならない。ならばプロとして誠心誠意、徹底して謝り倒すのが自分の仕事。」

この辺り、「正しさよりも効率性」を重視して考えていた。

いったん、腹を決めて謝罪のプロとして臨むと不思議なもので、大抵帰りには新しい注文がもらえる。内心がイヤイヤの謝罪であれば相手にも伝わったかもしれない。だが、上述の思考だったのも幸いしたのだろう。この当時はソコまで考えていなかったが、結果的にお客様が望む「怒りの発散」というサービスを提供できていたのだろう。お客様の望む者を提供すると言うのが商売の原理原則である。商品を売るだけなら自動販売機でも出来る。

唯一注意しなければならないのは「誠意」ということでのサービスの要求のエスカレート。ここだけはずるずる許すわけには行かない。東大阪と言う地域は良くも悪くも泥臭く、実践的な土地柄だった。1万円するショッピングカートを半額で販売していると・・・。

おば様「兄ちゃん、(私が店長だと認識するお客様は居なかった)これ、ナンボ?」
私「ああ、値札の通りです。」
おば様「それはわかっとうねん。で、それが更にナンボになるか聞いとるんやないの。」
と、こんな具合。(笑)丁々発止の値引交渉は幾度も対応させていただいた。いや、実に懐かしい。


CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。