J2-第34節 愛媛FC対栃木SC 2019.09.28(土)感想

01_スタメン

 愛媛FCは前節長沼洋一選手がイエローカードを受けたため累積で出場停止。茂木力也選手がウイングバックへはいり、山﨑浩介選手が右のセンターバックに。
 栃木SCは前節からヘニキ選手をフォワードに抜擢しているという。彼の相棒は榊翔太選手。西谷兄弟はベンチで大黒将志選手はベンチ外だった。
 J2第34節、愛媛FC対栃木SCの試合をざっくりとふりかえっていく。

[4-4-2]の栃木。愛媛3バックでのビルドアップには2トップが寄せていくけれど、それほどつよくいくわけではなかった。後方3人よりもディフェンシブハーフのふたり(神谷優太選手と田中裕人選手)を気にしているようだった。彼らがブロックからでてボールを受けるのは気にしないけれど、1-2列めでパスを受けさせまいという感じ。
 その理由はもうひとつ後ろにある。栃木の狙いは、愛媛インサイドハーフの山瀬功治選手と近藤貴司選手にパスをださせないことだった。そのためにセントラルハーフの枝村匠馬選手とユウリ選手に彼らをマークさせていた。というわけで神谷選手と田中選手を2トップが見る形になったのだろう。
 こうして栃木は[4-4-2]のブロックを敷き、そのブロック内に愛媛がボールを入れてこないように、入れてもブロックの外へ追いだすように守ろうとしていた。

 中央を固められた愛媛はサイドからボールを前進させようとした。先述どおり愛媛は3バックで栃木は2トップなので、愛媛の数的優位。つまり左右のセンターバック(前野貴徳選手と茂木選手)がボールを運べる可能性がある。実際左センターバックの前野選手がなんどもボールを運んでいた。ボール前進の一手めだ。
 すると右サイドハーフの和田達也選手が寄せてくるようになる。この動きにあわせて、右サイドバックの久富良輔選手が下川陽太選手へ寄せにいく。だが最終ラインから飛びだしてつかまえにいくにはすこし距離がある。つまりすこし時間がある。ここにひとつ突破口がある。そしてそれだけではない。
 中盤をみてみればフリーになりやすい選手がまだいる。神谷選手だ。枝村選手が山瀬選手をマンマークぎみにみているためだ。もちろん2トップのどちらかがパスコースを消そうとはするが間に合わない場合も多々ある。ここがもうひとつの突破口。愛媛はこの2点を利用して左サイドからボールを前進させていた。

03_栃木4-4-2と愛媛3-4-2-1の噛みあわせ

 たとえば12分には、前野選手のところで得ている時間と空間をていねいに前線へ送りとどけることに成功している。西岡大輝選手がドリブルでボールを運ぶことで、対面するヘニキ選手を中央に引きつけたまま後退させることに成功。すると前野選手がよりフリーになりやすい状況になる。ここで時間と空間を得ている。ではどうやって前線へとどけるか。
 まず山瀬選手が栃木の1-2列めにおりてくる。もちろん枝村選手がマークについてくるものの、前野選手からのパスをワンタッチではたくことで寄せを回避できる。パスをだす先は下川選手。下川選手へは久富選手が寄せてくるが、最終ラインからは距離があるため球ぎわをつくるまでには至らない。サイドバックの久富選手が飛びだしてくるということは、栃木の右サイドに空間が生まれるということでもある。その空間を使うのはだれか。神谷選手だ。山瀬選手が下がってくるのとは逆に前方へ飛びだしていくことで、下川選手からのパスをフリーで呼びこむことに成功した。こうして愛媛は、前野選手のところで得た時間と空間を栃木の右サイド後方へ移すことができた。ただペナルティーエリア近くへ攻めこみながらも決めきることはできなかった。

02_12分の愛媛の攻撃

 自陣までおしこまれることのおおい栃木。ボールをもったときはふたつのパターンでボールを前進させようとしていた。ひとつはロングボールをヘニキ選手にあててこぼれ球を回収する形。もうひとつはロングボールを愛媛ディフェンスの裏へ入れて榊選手の裏抜けを狙う形。そして愛媛陣内深くまで進入できたらアジリティーのある選手たちのコンビネーションやヘニキ選手へのクロスでゴールに迫ろうとしていた。
 ボール非保持のときには5バックになる愛媛の守備陣。5バックだと一人ひとりが守るべきエリアは狭くなるものの、かわりに相手選手が飛びこんでいけるコースがふえると指摘したのは元日本代表の岩政大樹さんだったか。つまり4バックであればならぶ4人のあいだにコースが三つできる。右サイドバックと右センターバックのあいだ、両センターバックのあいだ、左センターバックと左サイドバックのあいだの三つだ。となれば5バックだとコースは四つになる。うちへ絞った大﨑選手は山﨑選手の左右にあるコースを突こうとしていた。彼と、彼が内へ絞ったことで大外を上がってくる瀬川和樹選手とのコンビは強烈で、栃木のチャンスのおおくは彼らから生まれていた。

04_栃木の攻撃

 愛媛の先制点は、狙いつづけた左サイドの突破によって得たコーナーキックからだった。前野選手のワンタッチでのクロスも、それにあわせた田中選手もすばらしかった。
 栃木は失点後からプレッシングの位置を高めて愛媛陣内でボールを奪いとろうとし、決定機もつくったが得点までは至らず、1-0のまま前半を終えた。

 後半から栃木はより攻撃的な守り方に変化した。
 前半のうち、サイドハーフの選手は愛媛がミドルゾーンあたりまでボールを運んでくるまでプレッシングを控えていた。対して後半からは大﨑選手がはじめから高い位置をとった3トップになって愛媛のビルドアップを苦しめるようになった。プレッシングへいく基準を前へ移したことで、枝村選手とユウリ選手のマークも、山瀬選手と近藤選手から1列まえの神谷選手と田中選手へ移ることになった。

05_後半からの栃木のプレッシング

 キックオフから栃木はヘニキ選手へロングボールを蹴りこみ、こぼれ球を回収して愛媛をおしこんだ。ここから愛媛陣内でボールを奪いたい栃木と、栃木のプレッシングをかいくぐって前進したい愛媛のつばぜり合いとなった。そして後半立ち上がりは栃木が主導権を握り、厳しいフォアチェックによって愛媛を自陣から脱出させなかった。たとえ愛媛がロングボールで一気に陣地を回復させようとしても、こぼれ球を回収したらすぐにヘニキ選手へあてて、榊選手や両サイドハーフの選手が前向きにプレーできるようにしていた。アジリティーのある選手たちがそろっているので、前をむいてしかけられるのは愛媛にとって脅威だった。
 ただしだいに愛媛は栃木のプレッシングをいなせるようになっていった。栃木の1-2列めが空いた瞬間に神谷選手やインサイドハーフの選手が顔をだすことで、ボール回しがサイドで詰まることを避け、空間のある逆サイドまで展開することができていた。そしてボールがハーフウェイラインあたりまでとどけば、愛媛はしっかりとボールを保持することができていた。栃木もそこまで運ばれるとフォアチェックを控え、前半と同じような守り方に戻していた。

 愛媛は落ち着きをとりもどすと、63分のフリーキックで追加点を奪った。ペナルティーエリア手前で得たセットプレーは、前野選手のすばらしい個人技から生まれていた。
 ハーフウェイライン付近でボールをもっていた西岡選手が左斜め前へパスをだしたのがはじまり。近くにいた神谷選手へのパスだったのか、前野選手へのパスだったのかはわからない。神谷選手がパスをスルーしたため、ボールは前野選手と和田選手とのあいだへ転がっていってしまう。ここで和田選手がひろっていたら、栃木は一気にショーカウンターをしかけるチャンスになった。だが前野選手が先んじてボールに触れる。そのうえファーストタッチがすばらしく、和田選手を斜めにかわすものだった。このとき中盤では枝村選手が山瀬選手を、ユウリ選手が近藤選手をみていてふたりの距離がひらき、フィールドの中央が空いている状態だった。前野選手は和田選手をかわした勢いのままドリブルにはいり、空いている中央を突破する。和田選手と榊選手のふたりでボールを奪えると判断したのか、それとも茂木選手へのサイドチェンジのパスを警戒したのか、ユウリ選手は中央を締めるのが一瞬遅れた。その一瞬の遅れによって前野選手と正面から対峙することができず、たまらず後方からチャレンジすることになった。これがファウルとなって愛媛はフリーキックを獲得。神谷選手が直接決めて2-0とした。

 64分、キム・ヒョン選手がヘニキ選手に代わって出場する。栃木の狙いはかわらず、彼がポスト係を継続する。
 65分には両リームとも動く。
 愛媛は山瀬選手に代わって丹羽詩温選手が出場。山瀬選手は1列下がって組み立てに参加することもあったが、丹羽選手は2ライン間でパスを受けるだけでなく、サイドへ流れる動きでチームに変化をくわえていた。
 栃木は和田選手に代わって西谷和希選手が出場する。西谷和希選手はサイドではなく2トップの一角へはいり、榊選手が右サイドハーフへ移った。
 2点め以降は愛媛が主導権を握ってゲームをすすめていたが、終盤にかけて栃木のゆるがない戦い方が猛威をふるうようになる。
 倦むことなく左サイドを突きつづける栃木は89分に1点を返す。瀬川選手のあげたクロスを右サイドバックの久富選手が頭であわせる。強烈なシュートはしかしGK岡本昌弘選手がセーブし、こぼれ球を田中選手がかきだす。しかしボールは久富選手のもとへ転がり、ヘディング同様強烈なシュートを叩きこんで2-1とした。
 栃木はやがてディフェンダーの田代雅也選手が最前線へ上がってキム選手との2トップを組むようになり、陣形はサイドを捨てた[3-2-2-1-2]のようになっていた。中央の迫力はかなりのものだったが、とうぜんリスクもおおきかった。
 90+1分。サイドでボールを受けた茂木選手へ瀬川選手が寄せにいった背後を丹羽選手と近藤選手が斜めに突く。ユウリ選手がすかさずついていくが、最終ラインとのあいだにずれが生じる。神谷選手がそのずれを見逃さずに動きなおして茂木選手からのスルーパスを引きだすと、GKユ・ヒョン選手との1対1を裏街道で抜き去り3-1とした。
 終了間際に2点差をつけた愛媛。川井健太監督は負傷した田中選手に代わって禹相皓選手を送りだす。パワープレーをしかける栃木に対して、高さのあるユトリッチ選手ではなく、ミッドフィルダーの禹選手を起用したのは、クロスを跳ね返しつづけるよりも、中盤で落ち着きをとりもどすことに期待したからだろう。ふたたびボール保持の時間をふやすことで、なにがなんでも追いつこうとする栃木の心を折るというか。
 だが栃木の勢いはとまらなかった。瀬川選手のロングボールで愛媛をおしこむと、久富選手のクロスに対応したGK岡本選手と山﨑選手が交錯。両者倒れこむがプレーは続行。こぼれ球を預かったキム選手はボールを奪われない。マーカーをふりきり、ペナルティーエリアの外から反転しながらのシュートをゴール右へと突きさした。GK岡本選手の状態が万全でなかったといえ、間違いなくゴラッソだった。
 もう1点いけるのではないかという雰囲気があった。しかし時間は訪れる。愛媛はなんとか栃木の猛追をふりきって3-2での勝利を挙げた。

 連敗を脱する5試合ぶりの勝利にもかかわらず、愛媛FCの面々に笑顔はなかった。愛媛はおしこまれても落ち着いてボールをつないでいなせるチームだが、そんな余裕もないほど栃木SCのプレッシャーがすさまじかったのだろう。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 3-2 栃木SC @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:田中裕人、36分 神谷優太、62分 90+1分
  栃木:久富良輔、89分 キム・ヒョン、90+4分