J2-第5節 愛媛FC対V・ファーレン長崎 2019.03.23(土) 感想

 いいかげんJ2ではなにが起こっても不思議ではないと神経図太くなってきたとおもっていたのだが、オリンピックの代表監督が率いるチームと対戦することになるなんて聞いていない。ACLを獲ったアジア最優秀監督である堀孝史さんが千葉のコーチに就任するなんてニュースもあるわけで、今年もまた「だれが来たって平気」の年輪が着実に増した感がある。そのうちワールドカップ経験監督が指揮するチームがでてくるのではないのだろうか。
 V・ファーレン長崎には愛媛FCや浦和レッズに所属していた選手が毎年のようにいるので、わりと気になっているチーム。ノダミウソンは元気にしているだろうか。
 というわけで毎年のように長崎戦では古巣対決があるのだけれど、今年は愛媛所縁の選手はスタメンにいなかった。高杉亮太選手はどうしたのか! とうろたえれば怪我らしい。そうとわかればわかったで心配になる。
 愛媛FCは長沼洋一選手がAFC U-23選手権タイ2020予選に召集されたことで、小暮大器選手が初先発。もちまえのスピードとクロスに期待。元長崎でいえば田中裕人選手が2016年に所属していた。またベンチにはユースから昇格したMF岩井柊弥選手がはいる。

・3CBには同数で

 長崎は愛媛の3バックを「全南ルーニー」イ・ジョンホ選手と2SHの3人で見るようになっていた。玉田圭司選手もCBにプレスをかける場面もあったが、どちらかといえばアンカーぎみになる愛媛DHの選手を見る形がおおかった。
 プレスの開始は愛媛のDHがCBへボールを下げたときや、逆にCBがDHへパスをだそうとするとき。ボールホルダー、もしくはレシーバーへ一気に寄せていくことで縦パスをやめさせたり、バックパスさせたりする。あとはパスの受け手にひとりずつ寄せていくことで、気がつけば愛媛は自陣におしこまれている状態になってしまう。
 人数をあわせられて困った愛媛DF陣。中央は玉田選手が下がりぎみとあって2CHとともに3人で封じられている。なので逃げ場はサイドになる。だがぽっかり空いてしまいそうな愛媛のWBにはSBがあがっていって潰す、というのが長崎の守備だった。
 さて、そうなれば当然飛びだしたSBの裏に大きなスペースができる。また愛媛のWBが高い位置をとってSBをピン留めした場合、中盤のサイドに大きなスペースができてしまうことにもなる。
 たちあがりの1分、愛媛が自陣でボールを持つ場面。右WB小暮選手が高い位置をとって長崎の左SB亀川諒史選手をピン留め。左SHの澤田崇選手が愛媛の右CB山崎浩介選手へプレスをかけにいくと、愛媛から見て中盤の右サイドにぽっかりスペースが生まれる。山崎選手は澤田選手のプレッシングにあって小暮選手へのロングボールを選択。ラインを割らせることができたので長崎としては狙い通りの守備ができたのだろう。ただ、愛媛のIH近藤貴司選手が空いたスペースでフリーになっていた。
 また直後の2分には、愛媛左CB前野貴徳選手から左WB下川陽太選手へパスがでる。この動きに長崎右SB徳永悠平選手が遅れてついていくことでサイドの裏がガラ空きに。下川選手がロブパスを長崎DFの裏へ入れると、抜けだした藤本佳希選手へとおる。藤本選手がボックス内へ進入するあいだに下川選手があがってきてパスを受ける。ワンタッチで入れたクロスの威力は弱かったものの、長崎DFが外へかきだしてCKを得る。
 それでは長崎はそのスペースをどう守るのかといえば、1分の場面で澤田選手が猛然とプレスをかけたように、1トップ+2SHの3人に頑張ってもらうことにしていた。愛媛のCBがボールを自由に扱えないよう強く寄せる。うまくいけばWBへパスをださせても目測を誤らせることができ、ボールがわたってもすぐにSBの裏のスペースへボールをださせないようにできていた。待っている状態で斜め後ろからきたボールを前方へ蹴りだすのは、身体のむきさえ正しければ難なくおこなえてしまう愛媛の選手たち。だが、ボールがズレていちど下がって拾うとなれば、当然身体は後ろ向きになっているからすぐに前方へパスというわけにはいかなくなってしまう。困った。しかしそこをはがせれば強烈な疑似カウンターを打つチャンスにもなる。
 サイドを突破されることのおおい長崎。だがCKをあたえてピンチになるものの得点は許さず。そしてゴールキックになり、さぁいくぜというとき、ひとまず前線にロングボールを入れて陣地回復を狙っていた。中央に人を集めてセカンドボールを回収しようという意図が見えたものの、ボールは愛媛の選手のもとへ転がっていくことがおおかった。こういうときには長谷川悠選手が必要なのではないか? とおもうが彼はベンチ。長崎の前節ヴァンフォーレ甲府戦のように、サイドへ流れた長谷川選手へのロングボールであれば愛媛はより困っていたかもしれない。
 愛媛が優位のようにすすんだ試合序盤。しかし先制点は長崎が決める。
 9分、愛媛は自陣左サイドからのスローインの流れより、中盤で前向きにボールを回収。右サイドを小暮選手があがっていくと、ボールを回収した神谷選手は迷わず小暮選手へスルーパスをだす。しかしこれを亀川選手がインターセプト。フリーのままドリブルで運び、ボックス内へ進入した澤田選手へパス。澤田選手はクロスを入れ、これは山崎選手に防がれるもCKを獲得。10分。このCKでキッカー大竹洋平選手のクロスを角田誠選手が落とし、フリーでチェ・キュベック選手がゴールへおしこむ。
 愛媛は左サイドでパスを繋いでから右サイドへサイドチェンジする攻撃を強みにしている。得点に直結する機会はまだそれほどないが、一気に相手ゴール前へなだれこんで決定機をつくりだすことができていた。それを逆手にとられてしまう形になり、愛媛としてはわりと精神的にきつい1点だったのかもしれない。
 失点してナイーブになってしまう愛媛。11分にはDFラインでのパス交換を澤田選手にかっさらわれて大ピンチを迎える。さいわいGK岡本昌弘選手のビッグセーブで肝を冷やすにとどまった。
 ここで得たCKから長崎は愛媛陣内でボールを保持する時間になる。甲府戦もそうだったが、長崎は相手陣内でポゼッションできれば恐い攻撃ができるチームという印象がある。相手陣内でボールを持つためのロングボールからのセカンドボール回収であり、積極的なプレッシングによる相手陣内でのボール奪取であるのかとおもえばとても理に適っている。
 しかし愛媛ボールになるとなかなかとり返せない長崎。15分。今度は愛媛がボール保持からチャンスをつくる。4-4-2でブロックをつくる長崎の1-2列めに位置した野澤英之選手へ西岡大輝選手から縦パスがでる。CHの新里涼選手が飛びだしてつかまえようとするも、野澤選手はまえをむいて藤本選手へパス。マークにくる角田選手をよそに藤本選手はフリックで近藤選手へ。近藤選手がフリーでボールを受けると、長崎の最終ラインは3人。対する愛媛は下川選手、神谷選手、近藤選手、小暮選手の4人。やったぜ数的優位。近藤選手はすこし運んでから右サイドの小暮選手へパスをだす。トラップで一気にボックス内へ進入した小暮選手はシュートを放つも、亀川選手の気迫のスライディングに防がれる。このCKでこぼれ球に反応した近藤選手がシュートを打つもわずかに枠の外。その後も愛媛がボールを持つ時間が続く。
 23分に長崎がようやくボールをキープできるようになる。かとおもえばロングボールを蹴る。愛媛の選手にあたってラインを割り、相手陣内深くでスローインのチャンスも、そのスローインがあわずに愛媛ボールに。左サイドを突破してふたたび長崎陣内へ進入する愛媛。このあたりからボールは両チームのあいだを行ったり来たりするようになる。
 長崎はなかなか地上でボールをまえに運べず、次第に重心が後ろへ移っていく。それでも中盤でボールを奪えたときには少ない手数で愛媛陣内へ進入することができていた。
 前半はその後、愛媛が自陣でのミスからピンチを招いたり、長崎はサイドを突破されてピンチになったり、中盤でボールを奪いあったりと落ち着きのない展開になった。

・システム変更に次ぐシステム変更

 時間が進むにつれてブロックの位置がミドルゾーンから自陣へと後退していった長崎。追加点を奪うにはふたたびブロックの位置を高くして愛媛陣内でのプレーを増やしていきたいところ。
 後半がはじまると、ひとりずつかけていくプレッシングを再開。48分には愛媛陣内でのボール奪取から攻めこむ。後半になって長崎の毛色が違うのは、愛媛のWBにSBがなにがなんでも寄せていくわけではなくなったこと。愛媛陣内であれば前半どおりSHがストッパーへ寄せにいくが、ブロックが下がってしまうこともおおいためか、SHがWBを見るようになる。そうおもわせて、52分には小暮選手へのパスを亀川選手がインターセプトしてチャンスになりかけもしたが。
 おもうように攻められない愛媛FC。55分に川井健太監督がひらめく。
 野澤選手に代えて山瀬功治選手を、小暮選手に代えて有田光希選手を出場させる。これにより愛媛は3-1-4-2ぎみになる。有田選手と藤本選手の2トップで、IHに神谷選手と山瀬選手。山瀬選手とアンカーの田中選手はポジションを入れ替えることもあった。小暮選手のいた右WBには近藤選手がはいる。この変更で戸惑う長崎の面々。マークがはっきりしなくなったせいか、最終ラインに6人引っ張られる場面もでてきて、2ライン間なんてあってないようなものになることも。相手をおしこんだ上に混乱させる川井監督のすてきな采配。
 長崎がまごまごしているうちに是が非でも同点に追いつきたい愛媛。田中選手を最終ラインに落として山瀬選手アンカーの4-1-2-3に変形してとあの手この手で長崎攻略に邁進。しかしフィニッシュまでなかなかゆけず、逆に長崎のカウンターを受ける場面が目立ちはじめる。
 そんななか66分には前野選手が1試合に1度は見せるライン間突破のドリブルでチャンスメイク。サイドでフリーの山崎選手から低いクロスが近藤選手へ。近藤選手はぎりぎりトラップしたのをふりむきざまに渾身のシュート。しかしGK徳重健太選手が好セーブ。
 67分に長崎は玉田選手に代わって島田譲選手を投入。これにより新里選手と島田選手の2CH、黒木聖仁選手がアンカーの4-1-4-1にして中央を封鎖。1トップになった分、愛媛のCBにボールを運ばれてしまうのは仕方ないけれど2ライン間は攻略させないよ! という対応。相手が中央に人数をかけてくると迷子になってしまうのが愛媛の課題。こうすればそうなるのはわかっているぜの手倉森誠監督。
 70分ごろから愛媛のプレッシングが弱まったことで、長崎は運ぶドリブルでハーフウェイライン付近まですすめるようになってくる。
 77分に藤本選手に代えて吉田眞紀人選手を投入。同時に長崎がイ・ジョンホ選手に代えて長谷川選手を投入。長谷川選手はここから圧倒的な存在感を見せつける。
 長谷川選手投入後、みたびSHがCBにプレスをかけていく長崎。すると愛媛はロングボールを蹴る場面もでてくるようになるわけで、今度はセカンドボールを長崎が回収するようになる。そうしたら前線の長谷川選手へロングボールを蹴り返す。長谷川選手によるポストプレーでセカンドボールを愛媛陣内で回収できるようになる長崎。愛媛が間延びして長崎にカウンターのチャンスがでてきたタイミングを見計らって長谷川選手を投入するあたり、やはり百戦錬磨の手倉森監督したたかである。
 愛媛ボールになればいさぎよく撤退する長崎。なので愛媛は長崎陣内へボールを運ぶことはできるのだが、なかなかシュートまではいけない。サイドを捨てて中央をよりかためられてしまって困ったわーいの状況。88分には神谷選手がゴール隅を狙ったコントロールシュートを放つも、GK徳重選手がふたたび好セーブを披露する。
 直後に長崎は新里選手に代えてFW畑潤基選手を投入。これで4-4-2へ戻す。時間もないし前線増やしてくるならロングボールだ! の愛媛。今度はシュートまでいける場面がふえたものの枠内へ飛ばすことはできず。崩せそうで崩せないまま試合は終了。0-1で愛媛はホーム初黒星を喫した。

・終わり

 サッカーにおけるミレニアム懸賞問題は「引かれた相手から点をとるにはどうするか」だろう。きっとジョゼップ・グアルディオラ監督にだって答えはだせていない。今のところ回答として有力なのは、①ボックス内へ進入する、②ミドルシュートを打つ、③リオネル・メッシの三つぐらいだとおもわれる。ボックス内へボールを持って進入できれば相手はファウルができないから寄せが甘くなる。相手が引けばボックス前が空くようになり、そこからミドルシュートを打てればはいるかもしれないね、という解決法。メッシはメッシ。
 つまり引かれた相手を崩せないというのは問題以前に「ボールは丸い」ぐらいあたりまえなことなのだから、悲観がっていても仕方がない。ゴールなんて決まるときは決まるし決まらないときは決まらない。大切なのはそのチャンスをいかにつくれるか。88分の神谷選手のシュートはおしかった。
 V・ファーレン長崎はたくましかった。自陣からのビルドアップにロングボール以外の方法も確立されてくれば、かなり攻撃的なチームになっていくのではないだろうか。
 愛媛FCとしては悲観するような内容ではなかった。長沼選手不在ではいった小暮選手も溌溂としていた。この試合でというより、これからさき試合が続いていくなかで気になるのは、攻撃においてカウンターの起点にもフィニッシャーにもなり、守備においてはサイドの広範囲を縦横無尽にカバーする近藤選手の体力。近藤選手の豊富な運動量とスピードによる頑張りが愛媛をかなり支えているので、これから彼に疲労の色が見えてきたときにどうするのか。近藤選手を攻撃に専念させるオプションがでてくれば、愛媛はさらに一段階手強くなりそう。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

試合結果
 愛媛FC 0-1 V・ファーレン長崎 @ニンジニアスタジアム
 得点者:10分、チェ・キュベック