J2-第30節 FC町田ゼルビア 対 愛媛FC 2020.11.01(日)感想

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 視聴期限は飛ぶようにすぎていった。
 5連戦第5ラウンド初戦の相手はFC町田ゼルビア。ここ5試合で敗戦はひとつだけと好調。メンバーを前節から4人変更し、そのうちのひとりには元愛媛の秋元陽太選手もふくまれる。これまで全試合フル出場だったということでお休みをあたえられたそうだ。また、高江麗央選手が累積警告で出場停止になっている。
 愛媛FCは6戦勝ちなしの最下位。とはいえ前節栃木SC戦で手応えをつかむ。自陣でのビルドアップから2失点した前回対戦の借りを返すチャンスでもある。また、愛媛はここからアウェー4連戦となる。
 J2第30節、FC町田ゼルビア対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 立ち上がりの愛媛は相手陣内でのプレー時間をふやそうとしていた。キックオフ直後もゴールキックもロングボールを選択。しかしこぼれ球を回収できず、町田のカウンターを食らってしまっていた。
 さらに愛媛はボールをもとうとしても、相手の1―2列めでなかなか前をむけずに困ってもいた。このエリアでボールを受けようとしていたのが森谷賢太郎選手、田中裕人選手、山瀬功治選手の3人。森谷選手は最終ラインに下がりつつも、1―2列めが空いていれば上がっていてパスを受けていた。だがそこで前をむくというより、時間と相手の視線をあつめるためのプレーをおこなっていた。田中選手は相手ボランチの中間に位置することで相手の注意をひき、ボランチと2トップのあいだを間延びさせようとしていた。スペースができればそうしてできたスペースへ顔をだしてパスを受けようとしていたのだが、彼へのパスはなかなかでてこなかった。山瀬選手は1―2列めにスペースができると2ライン間から下がってきてパスを受けていたが、町田のよせの速さがために前をむけず、なおかつ前線の人数がひとり減ることもあってバックパスせざるをえない状況になってしまっていた。
 また、最終ラインから2ライン間へ縦パスをだせそうな場面があっても、近い味方へのパスを選ぶことがおおかった。
 序盤は町田に脅威をあたえるというほどでもなかった。だが、16分にはチャンスをつくる。最終ラインでボールをもつ森谷選手がキーパーへのバックパスをにおわせて安藤瑞季選手をキーパー方向へ動かすと、逆をとって1―2列めの田中選手へパス。田中選手はターンで前をむき、2ライン間の川村拓夢選手へ縦パスを入れた。こうしてひとつ、中央をつかって前進した。
 愛媛が1―2列めをつかえなかったのは、町田2トップの守り方による。安藤選手とステファン選手は、どちらかがアンカーの選手(主に田中選手)を見、もう一方がセンターバックへアプローチにいくことになっていた。そこに両サイドハーフもくわわり愛媛の3バックにあわせてきた。さらにボランチの平戸太貴選手もプレッシングにくわわることで、より愛媛のビルドアップを苦しめていた。

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 ただ、20分ごろからGK岡本昌弘選手をくわえた6人でのビルドアップがうまくいくようになった。
 町田は先に図でも示したように、平戸選手をふくめた5人でプレッシングをかけにいく。このとき、もう一方のボランチである佐野海舟選手は中盤の底に残ってバランスをとろうとしていた。だが、ひとりで守るにはいささか広すぎるスペースができる。愛媛は佐野選手の両脇にできるスペースめがけてビルドアップすることでボールを前進させるようになっていった。GK岡本選手のスペースへのミドルパスも前進を助けていた。

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 町田2トップのマークの受け渡しの隙をつき、1―2列めへパスをとどけられるようにもなった。
 町田の2トップはボールサイドがかわればマークを受けわたす。だが、プレッシングを嵌めこめそうなときはアンカーを捨てて最終ラインへのアプローチやパスコースの限定に動いていた。愛媛はその隙間を突き、田中選手が1―2列めでパスを受けられるようになった。
 こうして、高い位置でのプレッシングが機能していた町田に対し、愛媛はそれにのまれることなく冷静にたちむかった。
 さらに、相手陣内へはいってプレーできるようになったことで、最終ラインから2ライン間までの距離が近くなり、前野貴徳選手からシャドーの川村選手への縦パスがとおるようにもなった。
 ほかにも、相手2トップの位置関係をゆさぶることもできていた。
 35分のこと。山瀬選手が相手ボランチの手前でパスを受け、1―2列めの田中選手へ横パスをだした。田中選手はすぐに山瀬選手へ返して前へ走りだす。このときステファン選手が田中選手のマークのために近づいてきている。そのため、安藤選手とつくる2トップの横幅はほとんどなくなって縦の位置関係になっていた。パスを返された山瀬選手は、こんどはそのふたりのあいだを突いて山﨑浩介選手へパスをとどけた。ステファン選手が右サイドへ流れているため、山﨑選手にはドリブルでボールを運ぶスペースができていた。

04_2トップを縦にする

 相手2トップを縦にならばせて、そのあいだをとおして逆サイドの味方へパスをとおす――苦しんでいたときの愛媛にはこうしたプレーがでてこなかった。これだけでも、愛媛が調子をとりもどしてきたのを感じとれる。
 一方で、町田も高い位置でのプレッシングからショートカウンターを打ってチャンスをつくっていた。ペナルティーエリア内へはいっていく機会もおおかったが、シュートが枠にいかなかったり、愛媛ディフェンスが好守をみせたりしてゴールを奪えなかった。

 後半立ち上がりは町田が愛媛陣内でボールをもってプレーする時間がおおかった。サイドチェンジで愛媛のブロックをゆがめ、2ライン間にできたスペースをつかってゴールに迫った。愛媛2列めが最終ラインに吸収されたことで平戸選手がフリーでシュートを打ったり、ステファン選手とのワンツーで酒井隆介選手がペナルティーエリア内でシュートを打ったり。
 対する愛媛。前半同様、町田の高い位置からのプレッシングに真っ向からたちむかった。自陣深くからビルドアップをおこない、佐野選手の脇にできるスペースを狙う。53分には丹羽選手がそのエリアでボールを回収して一気に攻勢へでた。左から中央、そして右サイドへ展開すると、山瀬選手とのワンツーで小暮大器選手がタッチラインぎわを突破。ペナルティーエリア内にまで進入するとクロス。このボールが町田の選手たちのあいだで落ち着かないなか、川村選手がおしこんで先制点を奪った。

 スコアが動いた直後は町田が愛媛陣内でプレーする時間をふたたびふやした。愛媛はこの時間帯、町田ゴール前まで迫る機会が減ったものの、すばやい攻守の切り替えと中央を閉じたブロックでピンチを未然に防いでいた。ボールをもってるときはちゃんと握って刻々と時計の針がすすむにまかせた。
 町田としては、蹴らせてマイボールにできているのだからいい流れのはずなのに、いまひとつおしきれていない歯がゆさがあったかもしれない。安藤選手が負傷し、中島裕希選手と交代する場面もあった。安藤選手は左足関節の靱帯損傷で復帰まで約6週間と後日発表されている。1日もはやい復帰を祈っていたら、約ひと月後の38節、モンテディオ山形戦で復帰をはたした。はやい。よかった。
 愛媛がペースをこっそり握っていたが、71分に町田が追いつく。平戸選手が中盤からロングパスをディフェンスラインの裏へ送ると、ジョン・チュングン選手が胸トラップから反転してボレーシュートをたたきこんだ。スーパーゴール。愛媛としては、ブロックの手前とはいえ、自陣内で平戸選手をフリーにさせてしまったのは痛恨だった。
 ところでこの得点場面でひとつ気になる部分がある。それはジョン・チュングン選手のマークが、前野選手ではなく長沼選手になっていたこと。この入れ替わりは、町田が後半に再三みせていた攻撃と関係しているようだった。
 町田は前野選手の前のエリアに縦パスを入れることがおおかった。そこにいるのは内へはいってきたジョン・チュングン選手のときもあれば、ステファン選手のときもあった。この縦パスに対して前野選手が前へでて対応していた。
 得点場面の直前にも、ステファン選手への縦パスがはいっていた。前野選手が先んじてボールを奪ったのだけれど、すぐにステファン選手に奪い返されてしまった。なおかつ前野選手は球ぎわのところで倒れてしまったこともあって、自分のポジションへもどるのに時間がかかっていた。なので代わりに長沼選手が絞ってジョン・チュングン選手に対応することになっていた。やはりディフェンス時の空中戦は前野選手に一日の長があるから、町田はうまく得点の可能性をあげていたといえそうだ。

 追いつかれてしまった愛媛だったが、その後のプレーは落ち着いていた。得点失点にかかわらず、スコアが動いた直後に浮き足だってしまっていたころをおもい返すと、チームとしての成長を感じる。
 74分にふたりの選手交代をおこなう。丹羽選手に代わって有田光希選手が、山瀬選手に代わって吉田眞紀人選手が出場した。吉田眞紀人選手は古巣対戦となる。
 前めの選手がふたりかわったことで、愛媛はふたたび高い位置でのプレッシングをおこなうようになった。有田選手はポストプレーでもチームの前進を助けていた。
 終盤にはいると両チームとも選手交代が活発になっていった。78分には愛媛、田中選手に代わって横谷繁選手が出場する。79分には町田、岡田優希選手に代わって橋村龍ジョセフ選手が出場。橋村選手はユース出身者ということで期待もおおきいようだ。ボールをもったとき、狭いエリアでも積極的に縦にしかけていく姿勢をみせていた。
 両チームともゴール前に迫ってシュートで終わる場面がふえていった。体力的におたがいボールホルダーへつめきれなくなってきて、パスが相手陣内でもよく繋がるようになってきていたからだ。
 そんな折85分、愛媛は待望の追加点をきめる。前野選手から長沼選手へ縦パスがとおったことで攻撃のスイッチがはいった。長沼選手はワンタッチめで前をむき、有田選手へパス。有田選手はボールを足もとでは受けず、並走して中央へ。深津康太選手のよせに耐えたことで、ペナルティーエリア内への進入路を吉田眞紀人選手につくった。深津選手の足もとをとおすパスをだすと、ペナルティーエリア内へ走りこんだ吉田眞紀人選手がシュートをたたきこんだ。
 最終盤には町田が猛攻をしかける。愛媛は中央をしっかりしめて守る。枠内へ飛ばされたシュートもGK岡本選手が抑え、1―2で愛媛が勝利した。

 愛媛FCは7試合ぶりの勝利。ふしぎだったのは、FC町田ゼルビアに高い位置でボールを奪取されても、落ち着いて対応できていたこと。空くスペースをつかえるようになってきただけでなく、ボールを失ったあとの対応もしっかりできるようになったのかもしれない。そうした曰く説き難い点が愛媛のビルドアップを安定させているのかもしれない。よくわからない。一方で、町田の得点がショートカウンターではなく、愛媛のブロックをゆさぶったことによるものなのも興味深かった。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 FC町田ゼルビア 1―2 愛媛FC @町田GIONスタジアム

 得点者
  町田:ジョン・チュングン、71分
  愛媛:川村拓夢、54分 吉田眞紀人、85分