J2-第8節 アビスパ福岡 対 愛媛FC 2020.07.29(水)感想

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 ベテラン陣が負傷離脱中の愛媛FC。今節は若手選手がおおく先発した。左サイドバックが3人出場。3人。前野貴徳選手がふだんどおり左センターバックで、今季初先発の三原秀真選手が左ウイングバックにはいる。清川流石選手は右のインサイドハーフにはいった。
 右ウイングバックには小暮大器選手が開幕戦以来の先発出場。センターバックの中央には池田樹雷人選手。彼も今季初先発。
 もしこの試合のスタメン予想で toto がおこなわれていたらきっとキャリーオーバーされていただろう。読めないぜ川井健太監督。また、キャプテンマークは前野選手ではなく、もうひとりの副キャプテン茂木力也選手が巻いていた。
 4連勝を目指すアビスパ福岡。前節からふたり変更。湯澤聖人選手が左サイドバック、遠野大弥選手がフアンマ・デルカド選手と2トップをくむ。
 J2第8節、アビスパ福岡対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 愛媛のキックオフでスタート。左サイドへロングボールを蹴りこみ、落下点にいたのは有田光希選手。タッチラインぎりぎりで胸トラップすると、そのままゴール左下へロングシュート。GKセランテス選手が横っ飛びでおさえた。有田選手は、ほんとうに意外なタイミングでシュートを放って相手に脅威をあたえてくれる。
[3―1―4―2]でスタートした愛媛。しかし10分過ぎあたりから森谷賢太郎選手がボランチへ下がって[3―4―2―1]になる。フォワードの選手が中盤まで下がってくることで、福岡のマークをあやふやにした。そんなようなことを試合後に森谷選手がコメントしている。
 ここ数試合、森谷選手が下がってきてボールを前進させるかたちがおおい愛媛。以前は前線の動きが不活性になって窮することがおおかった。たとえば徳島ヴォルティス戦のたちあがり15分のように。だが最近はようすがちがう。森谷選手が下がってきても、ビルドアップで八方塞がりになる場面はすくなくなった。相手の2ライン間に選手がバランスよく位置どり、しきりに裏抜けの動きをみせる。森谷選手が前線にいるとき担っていた役割をこなす選手たちがあらわれ、愛媛はフィールドを広くつかえるようになった。この試合では、福岡の2トップと中盤のあいだがひらきやすいことも相まって、ビルドアップがサイドでつまることもすくない。川村拓夢選手や森谷選手が空いた1―2列めでパスを受けることで福岡のプレッシングを回避して、縦パスでの前進や逆サイドへの展開をおこなっていた。

 14分に愛媛がチャンスをつくる。川村選手がセンターバックとサイドバックのあいだを抜けだしてキーパーと1対1。GKセランテス選手のすばやい飛びだしによって防がれてしまったが、じゅうぶん1点ものの場面だった。
 愛媛は相手のセンターバックとサイドバックのあいだを突いて、ペナルティーエリア内の両脇、ニアゾーンやポケットと呼ばれる長方形のエリアを陥れようとしていた。
 このエリアはゴールを守るうえで要衝のひとつではあるのだけれど、意識しすぎると目が眩んでしまう危険な場所でもある。ゴールの斜め前というのがミソ。守る側はボールのある方向へ顔をむけるので逆サイドが死角になりやすい。また、このエリアでゴールラインぎわまでえぐられてしまうと、自分たちのゴール方向へ身体をむけてのプレーになりやすく、マークする選手に背後をとられやすくもなる。守るとき、一般にはゴールを背にする。だがこのエリアに進入されてしまうと、守るべきゴールは背後ではなく正面や横になってしまう。やはり守るべきものは背後にいてくれたほうがらくだろう。
 センターバックとサイドバックのあいだを突くとき、その隙間へはいっていくのはボールでも人でもいい。14分の場面では人だった。川村選手がまず走りこみ、つぎに前野選手からスルーパスがでている。一方でボールだけが通過する場合もある。直後の15分。ボランチへ下がった森谷選手から左サイドへロングパス。これを三原選手がやわらかなタッチで忽那喬司選手のまえへ落とすと、そのままマーカーのサロモンソン選手の背後へ走りこむ。忽那選手はワンタッチでスルーパス。サロモンソン選手と上島拓巳選手のあいだを抜けてペナルティーエリア内へボールはとどき、外から斜めに走りこんできた三原選手がクロスを上げる。
 この場面では、ボールがサイドバックとセンターバックのあいだを抜けていき、そのさきで人が追いつくかたちだった。言い換えれば人にとどけるパスではなく場所にとどけるパスだった。
 それにしても三原選手のタッチがすばらしかった。距離も角度もあるパスだったので、あわせること自体むずかしそうなのに、勢いを吸収してちゃんと忽那選手の前に落としている。
 三原選手はほかにも、サイドでボールをもったとき横へドリブルで運ぶことができるのもすてき。ビルドアップのとき、三原選手はサロモンソン選手に背後からよせられることがおおかった。そうなったときできるのは、反転して縦にしかけるか後方や横手にいる味方へのパス。むりに縦にしかけるとボールを失ってショートカウンターを受ける危険がある。もちろん長沼洋一選手がよく試みているように、すり抜けられれば大チャンスにもなるのだけれど。
 後方へのパスであれば、それはビルドアップのやりなおしともなるし、はたまた寄せてきたサイドバックの背後をつくチャンスにもなる。横手へのパスは相手の1―2列めのあいだにいる味方へのパスになる。相手の守備の方向をズラして縦パスを狙えたり、逆サイドへ展開したりもできよう。
 横へのドリブルは横手へのパスとは異なり、ひとりでおこなうぶん相手に齟齬が生まれやすい。三原選手が横へドリブルすることで、サロモンソン選手だけでなくボランチの選手までひきつけることができていた。横へドリブルするということは相手の中盤の選手へむかっていくということでもある。むかってこられた側は迎え撃たねばならない。そうなると自分がマークしていた相手を放して、むかってくる相手と対峙することになる。三原選手の横へのドリブルは、こうして味方をフリーにするのにひと役買っていた。

 前半から動きのある試合だった。
 16分にはトラブル。有田選手が負傷してしまい、18分、丹羽詩温選手が出場する。
 怪我人がおおくなっている。有田選手は前線で起点になってくれるし、キックオフ直後にみせたロングシュートのように相手の意表を突くタイミングでゴールを狙ってくれる。せめて軽度のものであってほしい。
 飲水タイム後の24分には福岡が動く。フアンマ選手に代わって城後寿選手が出場する。高い位置からプレッシングをかけたかったからとも、フアンマ選手が負傷したからともいわれている。どちらせによ、城後選手の出場後、福岡のプレッシングはつよくなった。それでも愛媛はGK岡本昌弘選手もくわわってのビルドアップや相手の1―2列めをつかってプレッシングを回避しボールを前進させていた。
 ところでセンターバックの中央にはいった池田選手が大活躍していた。フアンマ選手との空中戦に勝利していたほか、福岡が迎えた得点チャンスでことごとくシュートブロックしていた。なにより、ヘディングで遠くまで弾き返せるのがすてき。福岡はフアンマ選手へロングボールをいれ、遠野選手や2ライン間へ絞ってきた両サイドハーフがこぼれ球を回収しようと狙っていた。だが池田選手がハイボールに勝利し、なおかつ相手選手たちの頭上を越えていくようなクリアーをすることで福岡の攻撃を継続させなかった。もし相手選手の足もとへクリアーボールが転がってしまうと連続して攻撃を受けてしまう。しかし頭上を越えていくボールになると、相手も下がりながらヘディングでバックパスするのが精一杯となり、攻撃が一時中断する。もしこのボールが相手ではなく味方へわたれば、一転カウンターのチャンスにもなる。池田選手のプレーにはおどろかされた。せっかくなので、愛媛にはすばらしいキッカーがたくさんいるのだから、彼らから学んで最後方からロングパスをばんばんだせる選手にまで成長してほしい。
 前半終了間際には愛媛のビッグチャンス。これも福岡のセンターバックとサイドバックのあいだを狙ったものだった。時間はロスタイム。愛媛は自陣でパスをつないでいた。福岡はショートカウンターを狙ってじりじりと前進。湯澤選手も小暮選手にパスがでればよせるのを怠らない。が、愛媛は湯澤選手の背後をつく。森谷選手のながい距離のスルーパスに小暮選手が抜けだして中央へグラウンダーのクロス。丹羽選手がすべりこんだものの、ボールにじゃっかんとどかなかった。さわれば1点もの。丹羽選手も悔しすぎて呆然。

 ハーフタイムに福岡は選手交代をおこなう。ボランチの重廣卓也選手に代わって前寛之選手が出場。後半からは福岡と愛媛が交互にボールをもつ展開になった。
 58分に清川選手に代わって長沼選手が出場する。長沼選手はそのままインサイドハーフの位置についた。
 後半で気になったのは、愛媛が[5―4―1]のブロックを、流れによって[4―4―2]へ変化させているようにみえたこと。福岡のバックパスにあわせてインサイドハーフが前にでていくとき、同時にウイングバックの選手が1列あがる動きをしているようにみえた。こうして片方のウイングバックがサイドハーフの位置へ上がって守る方法は3バックのチームでよくみられるし、愛媛も去年やっていたことがある。ただ今季はまだやっていなかったようにおもう。
[5―4―1]のままでは後ろに重たくなってしまう。なので前からボールを奪いにいきにくいし、場合によってはサイドに人があまって守るべき中央が手薄になってしまうこともある。相手陣内で攻撃的にボールを奪いにいこうとしている今季、この守り方がうまくできるようになったら対戦相手にとってかなり脅威になりそうだ。
 76分に愛媛が先制。自陣右サイド深くで福岡の攻撃を防いでカウンターへ。長沼選手がサイドで鈴木惇選手とうまく入れ替わってドリブルで前進。福岡は両サイドバックが高い位置をとっていたため、長沼選手が突破すると逆サイドにおおきな空間ができていた。長沼選手は寄せてくる相手の逆を突くドリブルで二度もかわし、中央を駆け上がってくる川村選手へパス。川村選手はペナルティーエリアの外から、GKセランテス選手でも見送るしかないミドルシュートをゴールマウス右上へ蹴りこんだ。
 80分に長谷部茂利監督が勝負にでる。城後選手に代わって三國ケネディエブス選手が出場。ディフェンダーの三國選手はそのまま2トップにはいる。パワープレー。すると82分、コーナーキックでニアに飛びこんだ三國選手のヘディングシュートがゴールネットをゆらして福岡が同点に追いつく。三國選手はうれしいプロ初得点。
 勢いをます福岡。83分には途中出場の菊池大介選手が裏へ抜けだしてキーパーと1対1。ここはGK岡本選手がビッグセーブをみせて逆転をゆるさない。GK岡本選手はこの試合、シュートストップだけでなくペナルティーエリアを飛びだしてディフェンスラインの背後をカバーするプレーでもチームを救ってくれた。
 87分には3人交代で攻勢をつよめる愛媛。古巣対戦となる西田剛選手もピッチへ。しかしそのまま1―1で試合終了。福岡は4連勝ならず、愛媛は2試合連続の引き分けとなった。

 愛媛FCからしてみても、アビスパ福岡からしてみても、勝ち切れなかったという印象の一戦だったか。悔しいがとてもおもしろかった。愛媛としては発見のおおい試合でもあった。福岡の上島選手が興味深かった。センターバックでありながら、2ライン間へ積極的に縦パスを入れて愛媛のブロックを揺るがしていた。まだプロ2年めながらキャプテンマークを任されていたのも立派。
 気づけば3人交代があたりまえになってきた。すこしずつ監督たちが口にするようになってきたが、5人交代制は今後も残っていったらおもしろそうだ。
 次節はジュビロ磐田。森谷選手は契約によりでられない。川井監督がどんな選手たちを送りだすのかたのしみ。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 アビスパ福岡 1―1 愛媛FC @ベスト電器スタジアム

 得点者
  福岡:三國ケネディエブス、82分
  愛媛:川村拓夢、77分