J2-第1節 愛媛FC対松本山雅FC 2020.02.23(日)感想

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 実直かつ勇猛な守備で相手をおしこみねじ伏せる――一昨年J2で戦ったときの松本山雅FCの印象はそうだった。[5-2-3]のブロックで中央を塞ぎ、ボールを奪えばすぐさまロングボールで相手をおしこむ。とくに前線3人が襲いかかって相手のビルドアップを苦しませるさまは圧巻だった。今季から布啓一郎監督にかわった松本山雅。はたしてJ1復帰を期する雷鳥はどんな姿をみせるのか。
 J2第1節、愛媛FC対松本山雅FCの試合をざっくりとふりかえっていく。開幕だよ! ばっちこい!

 愛媛の3バックに対して松本山雅は2トップなので、前からボールを奪いにいくには工夫が必要になる。そこでサイドハーフをあがらせ、2トップで逆サイドと中央をみることで愛媛のビルドアップに対峙していた。たとえば愛媛右センターバックの茂木力也選手にパスがでると、左サイドハーフの杉本太郎選手がすぐに寄せていく。このとき阪野豊史選手は西岡大輝選手をみ、セルジーニョ選手がディフェンシブハーフをみることで、茂木選手のパスコースをウイングバックの小暮大器選手へ限定させる。小暮選手にパスがでれば左サイドバックの高橋諒選手がすかさず寄せにいく。そんなふうに愛媛陣内ではマンツーマンぎみに人をつかまえる守り方をしていた。
 この守り方で気になったのが藤田息吹選手だった。サイドハーフが上がっていく守り方だと、その選手の背後が必然的に空いてしまう。なので横谷繁選手がそこへ顔をだしてパスをもらおうとする。しかしパスを受けた瞬間に藤田選手が寄せていってボールを奪う、または前をむかせないようにしていた。藤田選手はいうまでもなく、セントラルハーフのコンビを組む塚川孝輝選手もボール奪取に長けた選手なので、もしかしたらあらかじめ狙っていたボールの奪い方だったのかもしれない。

 中央をつかいがたい愛媛。ならばと[3-4-2-1]と[4-4-2]の組み合わせで生まれる齟齬を利用する。ビルドアップの起点になる前野貴徳選手がいる左サイドでボールを動かし、松本山雅のブロックをフィールドの方側へ寄らせる。それから逆サイドでフリーになっている小暮選手へロングパスをだし、1対1の状況をつくるようにしていた。サイドの選手の人数は[3-4-2-1]だとひとり(ウイングバック)、[4-4-2]だとふたり(サイドバックとサイドハーフ)なので愛媛のほうが不利になる。つまり愛媛としてはいかに相手を動かしてサイドで1対1の状況をつくるかがポイントになる。
 ロングサイドチェンジが成功すると、とうぜん愛媛の選手たちは前進し、松本山雅のブロックは後退する。左サイドバックの高橋選手は対面する横谷選手を放置できないので小暮選手には寄せにいけない。なので杉本選手がみることになる。さて、杉本選手がサイドへ流れる一方で、松本山雅のブロックは後退をつづけている。つまり2列めのラインがいびつに間延びすることになる。この間延びしたあたりは、愛媛にとってこぼれ球を回収するのにちょうどいい場所となる。というのも、ディフェンダーがクロスをクリアーしたとき、ボールは上げられた方向に跳ね返りやすいからだ。逆サイドへ逸らしながらクリアーすることはあまりないだろう。コーナーキックのアイデアのひとつとして、そんなことをヨハン・クライフが言っていた気がする。コーナーキックのときは蹴るサイドのペナルティーエリアの外にひとりいればボールをひろえるのだとか。へぇ。
 さて、となると小暮選手がクロスを上げ、松本山雅ディフェンスがそれを跳ね返せばこぼれ球はちょうど間延びしているあたりへむかいやすい。10分にはその間延びした場所でこぼれ球をひろった田中裕人選手がミドルシュートをはなっている。中で跳ね返されたわけではなく、杉本選手にあたったこぼれ球だったけれども。

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 松本山雅はたちあがり、ボールを奪ったらすぐさまロングボールを前線へ送り、阪野選手がキープしたり裏へ逸らしたりといったかたちで攻めあがろうとしていた。15分ごろからは速攻だけでなく遅攻も織り交ぜるようになっていった。そのさいキーとなっていたのがセントラルハーフの塚川選手。2センターバックのあいだにはいることで、森下怜哉選手がボールを運ぶよゆうをあたえていた。というのも、有田光希選手が塚川選手をみることになるので、森下選手をみるのは横谷選手になる。しかし横谷選手は大外の高橋選手も気にかけねばならない。もし横谷選手が森下選手へ寄せれば高橋選手がフリーになるし、高橋選手を気にすれば森下選手がボールを運べるようになる。
 18分にはこうして森下選手がよゆうをもって前をむいたところからサイドアタックがはじまった。左サイドハーフの杉本選手が下がりながらも内へ絞ってパスを受けにくると、その動きで空いた高い位置へ左サイドバックの高橋選手が上がっていく。さらに塚川選手が上がってくる/もどってくることで中盤の人数をふやす。森下選手はフリーでもちあがり、杉本選手がマークをはずしたところでパス。杉本選手は塚川選手とのワンツーで2列めのラインを突破した。
 愛媛としては後手を踏んだ場面だった。上がってきた/もどってきた塚川選手に1-2列めのあいだをつかわれてしまい、なおかつ2列めのラインも崩されてしまっていた。そのうえ中央ではセルジーニョ選手がフリーになってもいた。これは中盤の人数をふやされたため、田中裕人選手だけでなく山瀬功治選手までもマークに動かされて2ライン間を間延びさせられていたからだろう。

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 前線へあてて陣形をおしあげるカウンターだけではなく、愛媛の攻撃時に生まれる空間を利用してパスをつなぐ速攻も強力だった。4分や、上記の攻撃へつながる17分の守から攻への切り替えでは中央に生まれる空間をつかっていた。そこは左サイドの森谷賢太郎選手、長沼洋一選手、山瀬選手、前野選手の4人の中間。森谷選手と長沼選手は攻めあがっているときなので前めにおり、山瀬選手は中央から右寄りでビルドアップをサポートしている。前野選手が5メートルでも前にでて埋められればいいのだけれど、それもちとむずかしい。松本山雅は2トップなので、前野選手が前にでると最終ラインは2対2の状況になってしまうからだ。ということで、4人の中間付近は手がとどきにくい。4分の場面ではシュートまでもっていかれている。だが、17分の場面ではそうならなかった。なぜなら、4分のピンチを活かして森谷選手がはやめにもどっていたからだ。森谷選手ナイス。
 ところで、4分といい17分といい、空いた場所に顔をだしたのは右サイドハーフの鈴木雄斗選手だった。愛媛にとっていられたら都合のわるいところを突く選手だった。

 先制点は後半間もない48分に決まった。
 ゴールキックを自陣からつないでいく愛媛。松本山雅のプレッシングでキーパーまでボールをもどすが、GK岡本昌弘選手はロングパスを2ライン間へ蹴りこんで横谷選手へつなげた。相手にあてたりしながらも逆サイドへ展開。ゆさぶられたことで松本山雅の守備はマンツーマンぎみからブロックの形成へうつり、そのあいだは人に対する意識が下がる。そこでふたたびフリーになった横谷選手を経由して、右サイド深くに小暮選手を走らせるパス。しかしこれは高橋選手が猛然ともどってきてコーナーキックに。このコーナーキックで中央からニアへ走りこんだ茂木選手がヘッドで逸らして得点する。おそるべしニア逸らし。先日誕生した西岡大輝選手の息子さんのためにゆりかごダンスが披露された。いえい。

 さて、先制された松本山雅だったが、焦ることなくすぐ同点に追いついた。
 51分。愛媛は右サイドでボールロスト。攻めあがるところでのことだった。サイドでのボールロストかつ攻めあがりの途中ということは、例のあれである。前半につくられたピンチと同じ場面なわけである。そして同じように、中央に生まれる空間を鈴木選手につかわれておしこまれてしまった。ただ、速攻を防ぎ、ボールもGK村山智彦選手までもどさせることができた。
 しかし、塚川選手が不意にワンタッチでスルーパスを前線へ送る。抜けだした阪野選手が前野選手をふりきると、ペナルティーエリア内でマイナスのパス。走りこんできた鈴木選手が逆サイドのすみへグラウンダーのシュートを決めた。鈴木選手大活躍。
 愛媛としてつらいのは、危険をしのいで相手に攻めをやりなおさせた状況――つまりブロックをつくりなおした状況でありながら失点してしまったことだ。昨季の愛媛はシーズン終盤にそういった失点がみられはしたものの、全体としてブロックを敷いているときは強固さをみせていた。ただ、そのブロックをつくりなおせていなかったようにもみえる。2列めと3列めのあいだがだいぶひらいていたからだ。この2ライン間が狭められていれば、阪野選手の突破を防げなかったとしても、鈴木選手にフリーで打たせることはなかったかもしれない。2ライン間が間延びしているところを突かれた失点といえば、昨季おおかった失点のかたちといえなくもないかもしれない。

 追いつかれてしまったのならば仕方がない。めげずに戦おう愛媛FC。
 61分に有田選手にかわって丹羽詩温選手が出場する。直後の62分に愛媛は決定機をつくる。西岡大輝選手から小暮選手へロングパスがでると、横谷選手がサイドへ流れる動きをみせた。これまで横谷選手はウイングバックへロングパスがでたとき、松本山雅ディフェンスを中央へ引きつけるために中央や内側あたりを前進していた。しかしこの場面ではサイドバックの高橋選手が小暮選手へ寄せにいったのをみてサイドへ流れることにしたようだった。その結果、彼をマークしているセンターバックの森下選手をサイドへつりだし、橋内優也選手との距離を引きはなすことに成功している。こぼれ球の争奪戦の末、この空いた2センターバックのあいだから小暮選手がペナルティーエリア内へ進入。ただし波状攻撃もむなしく得点にはいたらなかった。

 追加点を決めたのは松本山雅だった。
 70分の愛媛のボールロストからはじまる。ただ守から攻への切り替えをスムーズにおこなえたため、松本山雅に速攻はさせなかった。しかし、1-2列めのなかを塚川選手につかわれてしまったことで、2ライン間で杉本選手に前をむかせてしまう。なんとかサイドへおしやりたいところだったが、そんな間もなく杉本選手からパスを受けたセルジーニョ選手にペナルティーエリア外から打たれてしまう。枠をとらえたミドルシュートをGK岡本選手が弾くも、ニアゾーン深くでひろったのは鈴木選手。ワンタッチでクロスを入れ、とっさにバックステップでフリーになっていた阪野選手があわせた。

 ひっくり返すぜ愛媛FC。73分、小暮選手にかわって三原秀真選手が出場する。期待のユースっ子が開幕戦からの登場となった。三原選手は左ウイングバックへはいり、長沼選手が右にうつった。
 三原選手のファーストプレーは出場から4分後のスローインだった。フィールド内でいえばさらに3分後、横谷選手のクロスに飛びこんだ場面。ボールタッチとなれば出場して8分経った81分のことだった。このファーストプレーが積極果敢なものだった。自陣ペナルティーエリア内でパスを受けると、鈴木選手が寄せてくるのにもひるまず、フェイントをまじえてボールを運ぶ。そしてサイドへ流れたところで前線へロングボールを入れて丹羽選手の裏抜けを引きだす。パス1本でチャンスをつくりだしてみせた。

 78分には西岡大輝選手にかわって西田剛選手が出場。この交代で愛媛はシステムを[4-4-2]に変更。前線をふやして突貫姿勢。サイドバックの長沼選手と三原選手も高い位置へでていくのでほとんど2バックだった。ただふしぎなことにカウンターを受けてピンチになることはなかった。松本山雅がジャエル選手(→87分、阪野選手)と高木彰人選手(→89分、杉本選手)を送りだし、試合を決定づける3点めを狙う準備を整えていたにもかかわらず。2センターバックと2セントラルハーフの4人で中央をケアすることになったので、それがカウンターの芽をつぶす位置どりになっていたのかもしれない。
 最終盤、愛媛はクロスから決定機をつくりだしていたが決めきることはできず。ホーム開幕戦は悔しい逆転負けとなった。

 エルゴラッソの『Jリーグ選手名鑑2020 J1・J2・J3』によると、布監督の志向スタイルは「攻守に関わり続けるトータルフットボール」らしい。小生、トータルフットボールは大好きである。現代サッカーの源流は74年にワールドカップで準優勝したオランダにあると信じているくらいである。どんなものだったのかはよくわかないけれど。
 トータルフットボールはいまではポジショナルプレーと名をかえている気がしないでもない。ちなみに松本山雅FCの前監督である反町さんは2016年にポジショナルプレーの導入を試みていたそうだ。だとすると、反町さんから布監督への交代はスタイルの変化ではなく継続なのかもしれない。はたして。
 残念ながら負けてしまった愛媛FC。ただ主力をになうと期待された選手たちのおおくが怪我で離脱している苦しい開幕戦でもあった。そのなかでも新加入の森谷選手はパスの技術のたかさを、横谷選手はボールをキープするフィジカルのつよさをみせてくれていた。
 丹羽選手もキープしたりワンタッチではたくプレーが正確になっているようにみえたし、山瀬選手はあいかわらずニアゾーンにはいっていくのがうまかった。山瀬選手、J2通算250試合出場おめでとうございます。
 ふたつの失点は、今季積みあげようとしていることが影響している気もする。それがうまく機能しはじめたとき、愛媛は2年まえの松本山雅のようになっているか、もしくは4バックになっているかもしれない。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 愛媛FC 1-2 松本山雅FC @ニンジニアスタジアム

 得点者
 愛媛:茂木力也、48分
 松本:鈴木雄斗、52分 阪野豊史、71分