J2-第10節 ツエーゲン金沢 対 愛媛FC 2020.08.08(土)感想

01_スタメン

 J2第10節、ツエーゲン金沢対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 愛媛の[3-1-4-2]に対して、ツエーゲン金沢は加藤陸次樹選手がアンカーをみる[4-2-3-1]で対抗した。ルカオ選手とサイドハーフの3人で3バックを、サイドバックがウイングバックをつかまえるかたち。ボランチも前線もふたりずつなのでオールコートマンツーマンのようだった。ということで、愛媛はまずズレをつくる作業からはじめる。まずは森谷賢太郎選手が左サイドへひらいて、右サイドバックの長谷川巧選手を最終ラインにおしこむ。これで三原秀真選手がフリーになる。つぎに、長沼洋一選手が左のボランチのような位置へおりてくる。しかしこれは相手ボランチもついてくるのでズレをつくれなかった。最終的には、森谷選手が左サイドバックのような位置へ下がってくるかたちで落ち着いた。8分ごろにはすでにそのかたちになっており、ビルドアップに苦しめられたアビスパ福岡戦の教訓がそうそうに活かされていた。
 森谷選手が下がると、金沢の右サイドハーフ高安孝幸選手を困らせることができる。もともと前野貴徳選手をマークしていた高安選手。そこに森谷選手があらわれたことで、ひとりでふたりをみなければならなくなった。よって前野選手がボールを運ぶ機会がふえる。すると連鎖反応が起こる。加藤選手が川村拓夢選手のマークをやめて前野選手へよせるようになる。ということで川村選手が1―2列めのあいだでフリーになる。長沼選手が三原選手とのワンツーで裏へ抜けだした場面は、川村選手がこうしてフリーになることで生まれた。
 なので金沢は対応をかえる。まずは前野選手がボールを運んできても加藤選手は飛びださず、代わりにルカオ選手がよせていくようにした。つぎに加藤選手が川村選手を背後におくかたちでよせていくよう調整し、ルカオ選手が前に残れるように変更した。

 20分に愛媛が先制する。コーナーキックから茂木力也選手がこぼれ球をおしこんだ。森谷選手のキックに高い打点であわせた山﨑浩介選手はさすがだった。

 30分ごろから、それまでサイドにいた森谷選手が川村選手とならんでボランチを組むようになった。森谷選手はこの場合前野選手と山﨑選手とのあいだに下がるようになった。そのため今度は右センターバックの茂木選手がサイドへひらいてフリーになっていた。これより愛媛は右サイドからボールを前進させるようになり、36分にはその右サイドの前進でえたコーナーキックから、三原選手がプロ初ゴールをきめた。みずから浮かせたボールをボレーでとらえたすばらしいシュートだった。
 2―0となってから金沢はふたたび前から奪いにいく姿勢をつよめたようにみえた。愛媛はビルドアップでのプレー選択ミスなどから自陣でボールを失う機会がふえていった。困った。下川陽太選手がボールをもつと、きっとクロスを上げられてシュートまで打たれてしまう。
 それでも愛媛はなんとか抑えて0―2のまま前半を終えられた。金沢は決定機をつくっていたが、それ以上に決定機のひとつ手前の段階でもゴールをきめてきそうな迫力があった。

 ハーフタイムで愛媛は選手交代。藤本佳希選手に代わって丹羽詩温選手が出場する。
 52分に丹羽選手が追加点をきめる。三原選手が横へドリブルしてから出したパスをおさめると、下川選手との1対1を制して左足でゴールした。
 山﨑選手の縦パスで攻撃のスイッチがはいった。その山﨑選手にパスをだしたのは自陣まで下がってきた渡邊一仁選手だった。その渡邊一仁選手をボランチの藤村慶太選手がかなり立ち位置をくずして追ってきていた。金沢はこのとき、かなり人につく意識をもっていた。
 山﨑選手からのパスをセンターサークル付近で受けたのは長沼選手。長沼選手についていたのはセンターバックの石尾崚雅選手だった。長沼選手がワンタッチで川村選手へおとし、川村選手から三原選手へ。三原選手へよせていったのは3選手で、そのうちのひとりがボランチの大橋尚志選手だった。金沢はボランチのふたりが左右へ移動したため、中央がおおきく空くことになっていた。そしてその中央で三原選手からパスを受けようとしていたのが森谷選手で、彼をマークしようとしたのがセンターバックの廣井友信選手だった。石尾選手はパスアンドゴーで裏へ走る長沼選手をそのまま追っていたため、センターバック間の距離は前後にひらいており、丹羽選手がパスを受けたのはその狭間だった。

 55分に金沢が動く。高安選手に代わって窪田稜選手が、長谷川選手に代わって渡邊泰基選手が出場する。渡邊泰基選手は左サイドバックにはいり、下川選手が右サイドバックにうつった。ここから愛媛は、金沢の右サイドに対応できなくなっていった。
[5―3―2]で愛媛は守るため、どうしても相手のサイドバックをフリーにしやすい。2列めのインサイドハーフかウイングバックが長い距離を飛びだしていって対応することになるためだ。なので金沢の前半のチャンスは、フリーになりやすい下川選手から生まれることがおおかった。その下川選手が右サイドへくる。
 58分に金沢が1点をコーナーキックから返す。試合後、自分の背後をつかれて失点したことを悔しんでいた廣井選手の強烈なヘディングシュートだった。このコーナーキックは右サイドを突破してえたものだった。最終ラインでフリーになった下川選手が裏へ抜けだす窪田選手へロングパスをだし、窪田選手がクロスを上げて獲得した。
 下川選手にボールがわたるまえ、金沢は左サイドでの前進をあきらめて右サイドからやりなおそうとした。愛媛の前線と2列めのブロックは幅が狭いため、逆サイドまでおおきくスライドする必要がある。だが、そのスライドが充分でないうちに下川選手までボールが渡ってしまった。下川選手がフリーでボールをもつことで困ったのが三原選手。前半には彼が1列上がってサイドバックをつかまえにいく場面もあったが、この場面ではその準備ができていない。なおかつ背後には窪田選手までいる。三原選手はどこに位置をとるべきかむずかしい判断を迫られ、いまからでも下川選手へよせにいこうかという中途半端な立ち位置をとってしまっている。
 65分に金沢が追加点。これも下川選手からだった。左足でロブパスをディフェンスラインの裏へ供給し、抜けだした加藤選手がGK岡本昌弘選手との1対1を制してループシュートできめる。加藤選手のワンタッチめのコントロールはすばらしかったが、裏へ抜けだすタイミングも秀逸だった。一般に、ディフェンスラインは相手の下がる動きにあわせてラインをおし上げる。なのでセンターバックからパスを受けた下川選手がワンタッチめでボールを自陣側へ下げたときも、愛媛のディフェンス陣はラインをすこしあげた。だが、その瞬間に加藤選手は裏へ走りだしている。なおかつ直前には窪田選手がタッチライン際へ斜めに走りだしているため、前野選手が対応するためひとりだけ下がらなければならなかった。このギャップをついて加藤選手は裏へ抜けだすことに成功した。
 まさか、金沢は意図的にこのギャップをつくったのだろうか? サイドハーフの裏抜けでディフェンダーをひとり釣り、相手ディフェンスラインを上げさせるようなプレーと同時に、2列めから飛びだす――そんな時間差攻撃の狙いをもったプレーだったのだろうか? だとしたらぞっとする。
 ともあれスコアは2―3であり、愛媛はまだ勝利する権利をもっていた。しかしその権利を1分後に失ってしまう。
 金沢の3点めはロングカウンターから生まれた。
 愛媛は金沢陣内でプレーしていたものの、パスミスからロングボールを蹴られてしまう。これを愛媛は回収できず、加藤選手が前をむいてしまう。その瞬間、窪田選手と自陣のペナルティーアーク付近にいた下川選手がスプリントを開始していた。加藤選手が中央で時間をつくる間に窪田選手と下川選手がそれぞれ追い越しざまにパスを受けてサイドへ展開。下川選手がワンタッチでクロスを入れ、あわせたのが加藤選手。これはGK岡本選手がセーブするが、こぼれ球をルカオ選手がおしこんで同点に追いつく。ゴール後、ゴール裏へ走っていったルカオ選手が飛び越えた看板のひとつに、「いしかわへとびこもう」と書かれていてほっこりする。
 さらに3分後の69分。ふたたび右サイド。下川選手から裏へ抜ける窪田選手へロングパスがとおり、窪田選手がクロス。自陣へ戻りながらのプレーとなった山﨑選手がスライディングで蹴りだそうとするも、残念ながらオウンゴールになってしまった。
 愛媛としては悩ましい失点がつづいた。悩ましいというのは、攻めれば得点をさらに奪えそうでありながらも、攻めきれずに隙をつかれてしまった印象だから。
 愛媛は失点後のリスタートで、自陣からつないでいくのではなく、相手陣内でプレーするためにロングボールを蹴りこんでいた。実際に金沢陣内でプレーすることができていたし、ペナルティーエリア内へ進入することだってできていた。だが、そういった部分が、攻めれば崩せそうな誘惑になっていた。
 自陣からつながずロングボールで一気に攻めこむと、守備の準備が間に合っていない状況になりやすい。ボールを失った直後に奪い返すこともむずかしくなる。そうなると自陣へ戻ってブロックを敷くか、それが間に合わなければ3失点めのようにカウンターを受けてしまう。たとえ自陣にブロックを敷けたとしてもサイドバックを、下川選手をどう抑えるのかという問題とむきあわねばならない。

 逆転されてしまった愛媛。逆転されてからふたたびボールを握るようになる。77分には西岡大志選手と渡邊一仁選手に代わって小暮大器選手と忽那喬司選手が、79分には山﨑選手と三原選手に代わって西岡大輝選手と西田剛選手が出場。長沼選手がひさしぶりに感じる左ウイングバックにはいり、小暮選手が右ウイングバックにはいった。
 忽那選手がはいったことで中盤に時間が生まれていた。というのも、彼がライン間や相手選手たちの中間に顔をだすことで、彼自身が前をむいたり、ほかの選手へのパスコースをつくりだしたりしていたから。彼のところで時間ができると、右サイドで高い位置でフリーになりやすい小暮選手へボールをとどけやすくなる。愛媛は終盤、右サイドからラストパスをだすことがおおくなり、非常に惜しい場面もつくっていた。
 84分にルカオ選手に代わって杉浦恭平選手が出場する。再会を叙したいところだがそれどころではなかった。
 試合は4―3のまま終了。愛媛は最後の最後までゴールの確率を上げる攻めをつづけたが、最後の最後であわないで終わった。ぴえん。

 相手のサイドバックをどうみるの? という問題は、たとえばアビスパ福岡戦でもあらわれていた。サイドバックの位置へおりていく鈴木淳選手をだれがみる!? 質の高いロングパスをだされてしまうぞ! という感じで困らされた。同じ4バックでも、ジュビロ磐田はボランチが下がって3バックになっていたので、マークがはっきりしやすかった。では今回のようにサイドバックの位置にいる選手がフリーになりやすいときはどうするの? という問題の解答は、次節モンテディオ山形との試合でしめされることとなる。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 ツエーゲン金沢 4―3 愛媛FC @石川県西部緑地陸上競技場

 得点者
  金沢:廣井友信、58分 加藤陸次樹、66分
     ルカオ、67分 オウンゴール、71分
  愛媛:茂木力也、20分 三原秀真、36分
     丹羽詩温、52分