J2-第38節 モンテディオ山形対愛媛FC 2019.10.27(日)感想

 がんがんいこうぜ愛媛FC。うまくいかないときにはゴキゲンなナンバーをかけていこうぜ。ということで米津玄師の“LOSER”を聴きながらこの文章を書いている。
 J2第38節、モンテディオ山形対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 ボールを保持したいチームにとって大切なことのひとつは、ボールを動かすときに球ぎわをつくらせない、または球ぎわで負けないことだろう。相手が寄せてくるまえにパスをだせばボールを奪われないし、寄せてきた相手の背後を使ってボールを前進させられる。1対1で対面者を抜けられれば数的優位をつくれるので、ズレを生みだしやすくなる。ではこの試合の愛媛はどうだったか? 残念ながら球ぎわをつくらされていた印象だった。また対面者を剥がしてパスをだすこともむずかしかったので、ボールをもてても、山形の[5-4-1]ブロックの外側でパスを回す場面がおおかった。

[4-4-2]で試合にはいった愛媛。15分を過ぎたころから[3-4-2-1]へシステムを変更する。丹羽詩温選手が左ウイングバック、長沼洋一選手が右ウイングバックにはいる。4バックのときから、サイドバックが高い位置をとり、かつサイドハーフが内へ絞る形で攻めていたので、攻撃の部分での修正というより、守備面での修正の意があったのかもしれない。もしくは山形を混乱させるためかもしれない。つまるところ、よくわからない。ただ、ミラーゲームにすることでマークする相手がはっきりする。山形のビルドアップを困らせたり、ロングボールを蹴られたときにこぼれ球をひろえたりした場面があった。また、西岡大輝選手が山形1トップの脇をドリブルで運んでから、逆サイド高い位置に張っている茂木力也選手にサイドチェンジのパスをだしてチャンスをつくってもいる。愛媛としては、山形がシステム変更の様子見をしているあいだに得点したかった。

 山形の堅守はどこからくるのか? みていると、どうやらそのヒントを1トップの大槻周平選手に求めることができそうだった。
[5-4-1]でブロックを敷くと、どうしても1トップの両脇を使われてしまう。そのため、チームや状況によって、シャドーの選手が飛びだしていく場合と、そうでない場合とがある。積極的にシャドーの選手が飛びだしていく場合、大切なのはチームとしての連動。もしシャドーひとりで飛びだすと、その選手の背後が空いてしまい、そこから2ライン間へ進入されてしまう危険がある。一方、シャドーが2列めに留まる場合、相手にドリブルで運ばれてしまうが、代わりに、となりあうディフェンシブハーフと協力して2ライン間への縦パスのコースを遮断できる。山形の守り方はこちらだった。
 ブロックを穿つパスをだせないとなれば、愛媛のパスはサイドへむかう。山形のシャドーは、中央からサイドへボールがでたときを見計らって、パスの受け手へプレッシャーをかけにいっていた。サイドでウイングバックとともに数的同数をつくり、愛媛の前進をさまたげる。奪えれば最上だが、バックパスをださせれば充分。攻撃をやりなおすために後方で控える選手を、大槻選手が狙っていた。パスの逃げ場である選手からボールを奪えれば、あとはキーパーがいるだけとなる。たとえ奪えなくとも、味方がラインを上げておしこむ用意ができる。
 大槻選手はパスの逃げ場の選手をおさえるだけでなく、2列めの手前でボールを受ける選手にも積極的に寄せていた。そうして愛媛がよゆうをもってボールを動せないようにしていた。
 大槻選手だけでなく、ディフェンシブハーフの中村駿選手も、愛媛の選手が2列めの手前でパスを受けたときには、前をむかせないようすぐに寄せていた。また中村選手は愛媛がサイドチェンジしたさいに、ただ横へスライドするだけではなく、アンカーの位置へ下がるように移動することで、スライドが間に合わないうちに中央へ縦パスを入れられるのを防いでもいた。

 中央を塞ぎ、攻撃のやりなおしも奏功させない山形。必然的にフィールドの中盤でボールを奪う機会がふえていく。ボールを奪えばカウンター。その方法が洗練されていて興味深い。愛媛がサイド攻撃偏重になって中央が空きやすいこともあるが、山形はボール奪取後、中央の選手に預けることがおおかった。ここで坂元達裕選手がパスを受けると、ためらいもなくドリブルをしかけていた。彼が中央で/中央へドリブルすると、愛媛の選手たちはどうしても中央寄りの位置取りになってしまい、サイドが空くようになる。そこへ大槻選手が流れていったり、ウイングバックが上がっていったりしてロングパスを受けていた。サイドを突破してクロスを上げたり、上げられなくともコーナーキックやスローインを獲得することで愛媛を追いこんだ。
 38分。コーナーキックからファーサイドにこぼれたボールを柳貴博選手がとらえ、山形が先制する。このコーナーキックは、山形のしっかりとした守備から縦パスをカットして放ったカウンターによって得たものだった。愛媛としては固い山形のブロックを崩すため、果敢に狙った2ライン間へのパスだったので、かなりくやしい。

 攻めあぐねる愛媛。だが、相手を動かして空間を空けさせる場面がなかったわけではない。
 愛媛は個の力に頼らず、相手を崩して得点する狙いがある。そのためにもニアゾーン攻略は欠かせない。ペナルティエリア端からゴールエリアまでの空間へ進入し、できるだけゴールラインあたりからマイナスのクロスを入れたい。相手ディフェンダーが背走しながらのプレーをしいられるのに対して、味方は前向きのままゴールエリアに飛びこめるので、ワンタッチでのゴールが決まりやすくなる。
 ゆえに相手はニアゾーンへの進入を阻止しようとする。とくに3バックのチームは左右のセンターバックがニアゾーン入口の門番となることができる。つまり、この門番を入口から引きずりだすことで、愛媛は山形ゴールに迫りたい。山形陣内深くまでボールを運べたときは、左右のセンターバックをサイドへひきずりだせていた。が、その空いたニアゾーンへ飛びこんでいく選手がいなかった。残念。
 また、2ライン間でパスを受けることで、門番を手前に引きずりだすことができる。愛媛はその2ライン間へのパスがでないで困っていた。しかし、前半ロスタイムにあっさりと近藤貴司選手がライン間でパスを受ける場面があった。直後に山形のカウンターがあっておしこまれはしたが、苦境のなかにあって吉兆となりうる瞬間だった。

 後半にはいり、流れは愛媛のものとなった。ボール保持が安定し、山形が空ける空間を使って前進できていた。いたずらにボールを回すのではなく、中央へ進入してブロックを穿つ縦パスを入れるようにもなっていた。原因はよくわからない。山形の守り方がゆるくなったわけではない。考えられるとすれば、愛媛の選手たちの判断がはやくなったこと。あとは、縦パスにチャレンジするようになり、その軌道も正面ではなく斜めになったことだろうか。斜めのパスは守備側が守りづらいのに反して、受け手はゴールへ半身をむけられるため前をむきやすくなる。後半開始から15分間、あきらかに愛媛がペナルティエリア内へ進入したりシュートを打ったりする場面がふえていった。
 が、しかし、61分、中盤でのパスミスを中村選手ひろわれると、センターサークル付近からロングシュートを打たれ、これが決まってしまう。直後の62分にもパスミスをひろわれると、同じような位置から坂元選手がロングシュート。GK岡本昌弘選手が弾くも、ゴール横幅から軌道を逸らすことはできなかった。
 無人とはいえ、50メートル以上はなれた枠内に決めるのは簡単でないだろう。ほとんどの場合、枠をおおきく外すかとどかないか、もしくはバーやポストにきらわれてしまう。中村選手と坂元選手のシュートは、惜しいシュートではなく、間違いなくスーパーゴールになった。
 自陣からボールを前進させていく以上、キーパーの攻撃参加は避けられない。GK岡本選手には最後方で数的優位をつくるだけでなく、攻撃が行き詰ったときにやりなおすためのパスの逃げ場を担う必要もある。もし彼がペナルティエリアからでなければ、広大なディフェンスラインの裏を突かれるピンチが格段にふえてしまうだろう。そっちのほうがこわい。

 3-0となった愛媛。有田光希選手と西田剛選手が交代出場し、山形ゴールへ迫っていく。が、シュートが枠を外れたり、山形守備陣のからだを張ったプレーにはばまれたりと、ついに得点を奪えなかった。

 試合後、愛媛FCの川井健太監督が「総括としてはやはりシンプルで、力がなかったというところ」と述べているように、モンテディオ山形の選手たちの個の能力の高さを思い知ることとなった。が、後半立ち上がりに示した勢いは、愛媛が試合をひっくり返す可能性を充分に潜ませていた。その劣勢時を堪え、チャンスを逃さなかった山形。ただただ決めきった中村選手と坂元選手がすばらしかった。
 ということで、勝利へのよろこびはまたしてもキャリーオーバー。次節はFC町田ゼルビア。前回対戦でシュート0本におさえこまれた雪辱を果たすチャンスである。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 試合結果
 モンテディオ山形 3-0 愛媛FC @NDソフトスタジアム山形

 得点者
 山形:柳貴博、38分 中村駿、61分 坂元達裕、62分
 愛媛: