J2-第29節 愛媛FC対大宮アルディージャ 2019.08.25(日)感想

 さあ、ゴールデンウィークの借りをかえそう。ふるえそうな足を叱咤して戦ったJ2第29節、愛媛FC対大宮アルディージャの試合を、ざっくりとふりかえっていく。

[3-4-2-1]同士なので、両チームとも3バックのままビルドアップをしようとすると、相手の前線3人に人数をあわされ窮屈になってしまう。なので両チームともディフェンシブハーフの選手がひとり下がって4バックぎみにしてビルドアップをおこなっていた。愛媛FCではおもに田中裕人選手が、大宮アルディージャではおもに石川俊輝選手が1列下がっていた。
 形は同じだけれどボールの前進のさせ方は異なっていた。
 愛媛はまず大外のウイングバックやフリーになりやすい左右のセンターバックにパスをだして、大宮の2列めをサイドに寄せる。つぎにバックパスを用いてフリーになっている逆サイドのセンターバックまでとどける。そして大宮のスライドが間に合わないうちにドリブルで運んだり、2ライン間の選手や大外の選手へパスをだしたりする。前野貴徳選手も茂木力也選手もドリブルで運べるし、積極的に縦パスを入れていける選手たちなので、こうしてすこしずつ大宮のラインを下げて前進していくことができていた。
 たいする大宮はロビン・シモヴィッチ選手のポストプレーや、ウイングバックを裏へ走らせるロングボールで一気に前進しようとしていた。ただ、シモヴィッチ選手へのロングボールには愛媛の選手たちがしっかり対応できていたので、なかなか彼が起点となって前進していく場面はなかった。愛媛の前線の選手たちのアプローチがよかったため、効果的なロングボールを入れられなかったからであろう。
 愛媛はここ最近で例をみないほどしきりに前線からアプローチをかけにいっていた。上位のチームやボール保持につよみをもつチームにたいしては、時間限定でがんがんフォアチェックにいくこともあったが、この試合では90分とおして相手陣内から守備をしようとしていた。
 もちろんシモヴィッチ選手がいるからこそだろう。彼に良質なボールがはいってしまったらハンカチを噛みしめるしかない。
 1トップにはいる丹羽詩温選手が、中盤に残る小島幹敏選手へのパスコースをけしながらボールホルダーへ寄せることでロングボールを蹴らせていた。最後方ふたりでパス交換されたさいは、山瀬功治選手や近藤貴司選手がすぐに助っ人へいくようにしていた。
 とうぜんサイドからクロスをあげられたら万事休すなので、下川陽太選手と長沼洋一選手も普段より寄せをつよくしていた。そのためなかなか大宮はシモヴィッチ選手狙いのクロスをあげる機会がなかった。もっとも、シモヴィッチ選手に頼らずとも、インサイドハーフのダヴィッド・バブンスキー選手と奥抜侃志選手はボールをもてば前をむくのがうまいし、カットインしてゴールに迫っていくこともできる。前半大宮の攻撃はボックス前での地上戦がおおかった。

 さて両チームともディフェンシブハーフをひとり下げているので、ボール保持のときに中盤がひとりだけになりやすい。ボールサイドと逆側のウイングバックが内へ絞って埋めたり、下がってボールを受けにきたインサイドハーフが埋めたりもするが、2列めの間隔が空きがちになるのはいなめない。前半その隙をつけていたのが愛媛だった。
 愛媛の山瀬選手も近藤選手は、どちらも2ライン間でパスを受けたり、すばやいターンで前をむいたりするのが巧みな選手たちである。シモヴィッチ選手を狙ったロングボールをはじき返して愛媛がマイボールにすると、両者は小島選手の左右にできる空間に顔をだしてパスを呼びこんでは前をむいたり、サイドへ展開したりしてチームを前進させていた。
 14分あたりから、大宮はバブンスキー選手か奥抜選手のどちらかが1列あがり、山﨑浩介選手と田中選手でのビルドアップに人数をあわせるようになった。だが今度は愛媛の左右のセンターバックがよりフリーになりやすくなる。
[3-4-2-1]のインサイドハーフは、ボール非保持のときにディフェンシブハーフの選手と協力して2ライン間へのパスコースを閉めるだけでなく、サイドの選手にパスをだされたときはアプローチを怠ることができないという宿命にある。なかなかハードだ。ボールホルダーに寄せにいってパスをだされたら、だされたさきまで二度追いしなければならない役割もある。かなりハードだ。しなければ前野選手や茂木選手がボールを連れ去ってしまう。ハートブレイク。インサイドハーフはつらい。ということで、大宮の守備を全力で回避する愛媛がボールをもつ時間をふやしていった。

 大宮はサイドに突破口を見いだしていた。17分に最後方で石川選手がボールをもつと、奥抜選手と内へ絞った奥井諒選手とが2ライン間から下がってボールを受けようとする。しかしその動きは囮で、右センターバックの櫛引一紀選手がタッチラインぎわをあがっていって石川選手からのロングパスを引きだした。けっか大宮はコーナーキックを獲得する。
 21分にはタッチライン際でボールをもった奥井選手が、裏へ抜けだすシモヴィッチ選手にスルーパスをだす。これで大宮は愛媛陣内深くまで攻めあがることができた。
 22分は逆の左サイド。イッペイ・シノヅカ選手が高い位置をとって長沼選手を最終ラインにおしこむ。つづけて内へ絞ることで長沼選手を大外から内側へ連れだすことに成功。これで大宮は左サイドに文字通りの突破口をつくりだす。このとき左センターバックの河面旺成選手がタッチライン際高くに位置して横幅をキープしている。小島選手→河面選手→シノヅカ選手とつないでサイドを突破しかけたが、シノヅカ選手のファーストタッチが足もとにつかなかったので愛媛のスローインになった。

 23分には愛媛のビルドアップを阻害することに成功して決定機を迎える。ボールが下川選手にわたると、石川選手が中央を、奥井選手がサイドのパスコースをけしながら寄せていく。パスコースをけされた下川選手はバックパスを選択するが、直前まで野澤英之選手をみたり前野選手をみたりと走りまわっていた奥抜選手の三度追いにあってGK岡本選手までしっかりと戻せず。シモヴィッチ選手がパスミスを奪ってゴールライン際から折り返すと、走りこんできたのは石川選手。ゴール前には山﨑選手ひとりだったが、ワンタッチで放ったシュートは枠の上へ。
 このあたりから大宮がボールを保持しはじめる。また先述のサイドの攻撃のように、奥井選手が内へ絞って櫛引選手が高い位置をとることで、愛媛のフォアチェックを機能不全に陥らせもした。内に絞る奥井選手が山瀬選手の手前に位置することで、山瀬選手は彼をみなければならなくなり、大宮の最後方でのパス交換にアプローチへいきづらくなっていた。

 大宮がじわじわと流れをたぐり寄せるが、先制点を決めたのは愛媛だった。
 28分。左からのコーナーキック。愛媛はGK加藤有輝選手の周辺にふたり、ファーポストにひとりとかなり人数を絞って配置する。これでゴール前に三つのグループ(中央とファー、それからニアにストーン役の大宮の選手)ができる。つまり、飛びこんでいけるコースがふたつできたことにもなる。秀逸だったのが山瀬選手のマークのふりきり方。バックステップを踏んでからゴール前、ニア側に空いたコースへ飛びこんでいくスピードが速すぎてわけわからない。ニアで前野選手のひくい弾道のクロスにあわせ、前回対戦につづいての得点を決めた。
 先制するが、30分に愛媛にとってよくない兆候があらわれる。奥井選手がクロスをあげかけるのだ。シモヴィッチ選手の準備ができていなかったためクロスはあがらなかったが、しだいに愛媛の寄せが甘くなりはじめていた兆候といえるかもしれない。
 33分にはコーナーキックくずれから愛媛のカウンターを受けるも、とどかなかったサイドチェンジをひろって大宮はすぐさまカウンターを返す。システムが同じなのだから、大宮にできる隙は同じく愛媛にも生じる。つまり、アンカーぎみに位置するディフェンシブハーフの両脇だ。大宮はその空間で時間をつくると、シモヴィッチ選手が裏へ抜けだすことに成功し、ゴールキーパーとの1対1に。しかしGK岡本昌弘選手が悲鳴を歓声にかえるビッグセーブで防いだ。
 愛媛は絶体絶命のピンチを乗り越え、41分に追加点を奪う。
 タッチライン際でボールを受けた前野選手が、横へのドリブルを選択する。大宮の2列めの選手たちは前野選手の中央突破を防ぐために迎え撃たなければならない。となると逆サイドが空いて茂木選手へパスをだせるようになる。パスを受けた茂木選手はさらに大外高めでフリーの長沼選手へパスをだす。相手との1対1をふりきった長沼選手は、内側をあがっていく野澤選手へスルーパス。大宮陣内深くへ進入して上げたクロスは大宮の選手にあたってこぼれるも、詰めていた近藤選手がワンタッチで蹴りこみ2-0とする。「今度は近藤」――もう、実況の江刺伯洋さん最高だ。
 さて2点差をつけられた大宮だったが、すぐさま1点返す。
 43分。愛媛は自陣でボールをもつも、中盤でビルドアップに失敗してボールを失ってしまう。すると攻から守の切り替えのところで右サイド大外を空けてしまう。
 すかさず大宮はフリーになっているシノヅカ選手へ。シノヅカ選手は長沼選手がバックステップを踏む瞬間に切り返してフリーになるというハイテクを繰りだしたのち、シモヴィッチ選手へピンポイントのクロスをあげる。シモヴィッチ選手はヘッドで逸らして決めた。
 あまりにも呆気なくみえる愛媛の失点だったが、寄せが甘くなりつつあったり、攻から守への切り替えで空く中盤の脇を使われはじめていたりしたので、必然性があったようにもみえて背筋に冷たいものが走る。愛媛としてはさいわいに時間は前半終了間際。2-1のままハーフタイムを迎える。

 後半開始から2プレーめ。大宮のスローインからボールを奪うと、守備の陣形が整うまえに愛媛はゴール前へ迫る。このときしっかりと中盤の脇に位置取って前をむいた近藤選手がミドルシュートを放つ。これは大宮ディフェンダーにあたってしまうも、丹羽選手が相手のマークにあいながらもGK加藤選手に迫ることで混戦をもたらす。こぼれ球をふたたび近藤選手が詰めて3-1と突き放した。
 再度2点差となった大宮。高木琢也監督はすぐに手を打つ。インサイドハーフのハードな役割をこなしていたバブンスキー選手に代わって、大前元紀選手が51分に出場する。大前選手の登場でたてなおしたい大宮だったが、ボールは愛媛が保持する。
 この試合の愛媛は的確なボール回しができていた。なおかつ球ぎわで勝つこともできていた。球ぎわで優位にたてたのは、しっかりとした立ち位置をとり、相手に先んじて動くことができていたから、といえるのだろうか。この2点は同時に、スムーズにボールを前進させる要因でもあろうから。
 ということで、ながらく愛媛がボールをもちつづけた。ただ大宮もボールをもてば愛媛のゴール前まで迫っていたし、サイドからクロスをあげる機会もふえていった。68分には奥抜選手に代わってフアンマ・デルカド選手が出場している。ツインタワーでごりおしか! とおもったら、フアンマ選手、シモヴィッチ選手にあわせるクロスよりも、彼らをとおり越したところで待つ大前選手がボックス内でシュートを打つ場面のほうが目立った。なんていう2段階攻撃!
 80分をすぎたあたりから大宮は彼ら3人が前に残るようになり、必然試合展開はカウンターの打ち合いになっていく。
 愛媛は84分に丹羽選手に代わって藤本佳希選手が、89分に山瀬選手に代わって禹相皓選手が出場し、大宮との打ち合いに真っ向からむかっていく。
 90+1分に大前選手がボックス内でシュートを打つ決定機も、GK岡本選手がしっかりと防ぐ。すると直後、近藤選手が裏へだしたボールを追いかけるのは藤本選手。菊地光将選手ほどの実力者との競りあいに勝利すると一気にボックス内へ進入。ゴールキーパーの股を抜くシュートで4点め。
 90+3分には近藤選手に代わってキャプテン西田剛選手が出場。1分後、こぼれ球を拾うと、よせてくる相手ふたりをリフティングぎみのパスで躱して、そのままボックス内へ前進。藤本選手がボールをいちどおさめ、西田選手へすれ違いざまにパス。ゴールキーパーと1対1になった西田選手。放ったシュートがネットをゆらした。
 目を疑う5-1というスコアで試合は終了。昨年ホームで大宮に喫した1-5のスコアをそのまま返し、西日本豪雨災害復興祈念ユニフォームを着てのラストゲームを勝利で飾った。

 前節の悲劇的な敗戦を払拭するには充分すぎる光景だった。なにより、愛媛FCのファン・サポーターが待ち望んでいた、西田キャプテンのゴールと歓喜の笑顔がみれた。チームとしては積極的なフォアチェックをおこなうことができていていた。シモヴィッチ選手対策による必要ゆえの賜物と想像するが、効果的にアプローチをかけられていたのが心強い。
 大宮アルディージャとしては受け入れがたいけっかになった。抑えがたい激情をお察しする。とはいえ、大宮がこれでくずれるようなチームでないことは自明だ。かつてさいたまダービーの勝利以降負けなしでJ1を突きすすんでいったチームを僕らは知っている。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 5-1 大宮アルディージャ @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:山瀬功治、28分 近藤貴司、41分、47分
     藤本佳希、90+1分 西田剛、90+4分
  大宮:ロビン・シモヴィッチ、43分

【フォロワーのみなさまへの謝辞】

 大宮戦のあと、直近の鹿児島や千葉との試合の感想がおおく閲覧されていたので、おやっとおもっていたのですが、フォローしてくださっているHaruさんがツイッターで小生のことを話題にあげていただいているのをお見掛けしました。嬉し恥ずかしくてわーわーとなってしまい、どうお返ししたものかわからず、こうしたかたちで述べるのがただしいのかもわかりませんが、御礼申し上げさせていただきます。
 Haruさん、ありがとうございます。いつも勉強させていただきながら拝読しております。

 これまでもフォローしていただいている方々や、対戦したチームのサポーターの方々が、拙文をツイッター上で紹介していただいているのをお見掛けしています。愛媛FCの情報を探していて自分の文章がでてくると、ご厚意が嬉しくてドギマギしてしまいます。ほんとうは個別にこっそりと御礼申し上げたいのですが、出過ぎたことにも感じられてうまくできません。不精を笑ってお許しください。気にかけていただき、ありがとうございます。これからもみなさまのnoteを楽しみにしております。