J2-第20節 栃木SC対愛媛FC 2019.06.29(土)感想

 愛媛FCのスタメンは前節からすこし変更。山瀬功治選手に代わって野澤英之選手がディフェンシブハーフにはいる。また、神谷優太選手と近藤貴司選手のポジションが左右逆になっていた。
 前節京都サンガF.C.相手に修練度の差を見せつけられてしまった愛媛。気をとりなおしたい一戦。西岡大輝選手と河原和寿選手は古巣対戦。
 栃木SCのスタメンにも変更がある。森下怜哉選手と大崎淳矢選手、そして寺田紳一選手の3人に代わって田代雅也選手、川田拳登選手、枝村匠馬選手が先発。
 昨季対戦したときは古波津辰希選手のパワフルさにてんてこ舞いになった記憶がある。
 ということで、J2第20節、栃木SC対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

[3-4-2-1]同士なので似たところが長所と短所になる。
 栃木はボール非保持のときの形はふた通り。ひとつは自陣まで下がったときの[5-4-1]。それから愛媛陣内や中盤でみせる[5-2-3]。
[5-2-3]のとき、栃木の2ディフェンシブハーフは愛媛の2ディフェンシブハーフへ積極的に寄せていっていた。はまればショートカウンターへもっていけるのだが、この日の愛媛は最終ラインに西岡選手、中盤には野澤選手と、ワンタッチでパスを散らせる選手がそろっていたことで、栃木のプレッシングはなかなかはまらなかった。
 そうして間延びした栃木の2ライン間を愛媛は利用することができていた。近藤選手や吉田眞紀人選手がボールを受けてサイドへはたく場面がおおく見られた。ここ数試合、相手陣内でのプレー時間をふやすためにロングボールを入れていくことがおおかった愛媛だが、この試合では自陣からのビルドアップを積極的におこなっていき、それが安定していた。
 中盤でも栃木のインサイドハーフは高めの位置にいるので、愛媛はウイングバックの選手が空きやすくなる。また2ライン間で愛媛の選手がパスを受けることで栃木のディフェンダーは飛びだしてつかまえにいかなければならない。すると栃木のウイングバックはサイドに張っているよりも中央に絞っていなければならなくなる。そのため愛媛はウイングバック――とくに左ウイングバックの下川陽太選手がフリーでボールを受けたりドリブルをしかけたりする機会がふえていった。グラウンダーのクロスがいくつも下川選手からあがったが、残念ながら愛媛は得点に結びつけることができなかった。
 ちなみに愛媛が栃木をおしこんだとき、栃木の1列めは大島康樹選手だけになるため、こんどは愛媛の左右のセンターバックがフリーになりやすくなる。そこへ栃木のインサイドハーフの選手がよせていけば、やはり愛媛のウイングバックがフリーになる仕組みになっていた。

 というのは、ミラーゲームである以上、栃木が愛媛を攻めるときにも起こりうる事象だった。しかし栃木はボールを前進させることに苦労しているようだった。愛媛の2列めが縦パスのコースをけしていたため、ボール回しが外を巡ることがおおかった。たいして愛媛は西岡選手がワンタッチでパスをだしたり、狭いところをとおしたり、ドリブルで運んだりと栃木のブロックをゆさぶっていた。
 栃木も枝村選手が藤原広太朗選手の左右におりることで最終ラインで数的優位をつくり、なおかつ左右のセンターバックを高い位置へおしだすことでビルドアップを安定させようとしていた。ただ、アンカーぎみに残るヘニキ選手に前をむかせないように愛媛がしていたことも、栃木が中央を突破していくことを困難にさせる要因になっていた。

 しかし、西谷兄弟と川田選手のところで栃木は好機をつくりだしていた。
 33分。ゴールキックを大島選手がおさめたところから栃木が攻撃を開始。左サイドへ展開すると、愛媛の2ディフェンシブハーフの脇で田代選手がボールを受けてドリブルで運ぶ。タッチライン際に張っていた西谷優希選手がパスを受けてさらに深く進入してから切り返してクロスを入れている。
 35分には川田選手が下川選手の逆を突いてドリブルし、西谷和希選手へ抜群のクロスを供給する。西谷和希選手のヘッドは枠をとらえるも、GK岡本昌弘選手が好セーブをみせた。
 栃木の先制点となるPKを呼びこんだのも西谷兄弟。下がりめでボールをもった西谷優希選手から、タッチライン際にひらいていた西谷和希選手へロブパスがでて、これを西谷和希選手が絶妙なワンタッチで愛媛の選手の矢印の逆を突く。時間の余裕をえてからクロスをあげ、飛びだしていったのは浜下瑛選手。前野貴徳選手と1対1になる。2人はボックス内で交錯するように倒れ、前野選手のファウルがとられる。
 45+2分にPKを西谷和希選手が決め、そのまま前半は終了する。

 前半を経て反省を活かしてきたのは栃木のほうだった。55分には高めにでた田代選手のところへ長沼洋一選手を食いつかせてから、彼の背後をロブパスで狙って決定機をつくっている。愛媛の2ディフェンシブハーフの脇をつかうこともふえ、自分たちが前半に苦慮した攻撃をそのままやり返していた。
 愛媛は吉田選手のポストプレーやサイドをつかった攻撃でチャンスをつくるものの、後半の序盤、なかなか栃木を困らせる展開にはできなかった。そんななか59分の浜下選手は不憫だった。倒れた浜下選手の足が自分を蹴ってきたようにみえたのだろうから、西岡選手にも三分の理があるかもしれないけれど、やっちゃいけないこともある。
 69分に田中裕人選手に代わって藤本佳希選手が出場する。この交代により神谷選手が1列おりる。また藤本選手がトップへはいり、吉田選手が右インサイドハーフへ移った。
 前めのポジションでゴールゲッターとしての才能を開花させたといわれる神谷選手。もともとはボランチの選手である。ときどき忘れてしまうけれど。今季もディフェンシブハーフででたことがあった。そしてその試合で彼は出色のプレーを披露していたと記憶している。フィールドの中央でゲームメイクする力を、神谷選手は十二分にもっている。
 ということで、70分にさっそく自陣からのドリブルで見せ場をつくっている。下がりめの位置なのでドリブルをしかける空間があるうえ、彼がドリブルをはじめたら栃木ディフェンスはラインを下げざるをえないので、愛媛は俄然栃木陣内へおしあがることになった。ここからの時間帯、中盤中央でボールを散らす神谷選手が愛媛の攻撃をコントロールするようになる。
 愛媛が主導権を握りはじめるかとおもわれた73分。栃木のゴールキックからのこぼれ球。ヘニキ選手がワンタッチでディフェンスラインの裏へパスをだすと、抜けだしたのは西谷和希選手。ボックス内でファウルを受けてこの日2度めのPKを獲得する。これをGK岡本選手がセーブして得点は1-0のまま。やったぜGK岡本選手。しっかりこぼれ球をクリアした長沼選手もナイスだ。その直後コーナーキックの流れで栃木が2度も決定機をつくっていた。GK岡本選手の好セーブが切ないものにならなくてよかった。
 75分に西岡選手に代わって有田光希選手が出場する。そして愛媛は久しぶりの4バックとなった。
 試合はオープンな展開になっていき、栃木がショートカウンターを打つ機会がふえていく。カウンターを打たれてそのままポゼッションされるなど、なかなかボールを保持できない愛媛だったが、80分に自陣でのパス回しに栃木の選手たちが食いついたところをはがして前進し、攻めのターンになる。
 85分。吉田選手のクロスをファーサイドで下川選手が競り勝って中央へ折り返すと、藤本選手がヘッドですらしてゴールを決める。試合をとおして狙いつづけてきたクロス攻撃が実を結んだ瞬間だった。
 栃木は大島選手に代わって大黒将志選手が87分に出場してもういちど攻勢にでる。モンテディオ山形や京都のときから大黒選手にはゴールを決められている印象が強かったが、愛媛は栃木をおしこんで大黒選手をゴール前に近づかせない。
 大黒選手投入により2点めをとって勝つぞという田坂和昭監督のメッセージのもと、栃木の前線の選手たちはかわらず高い位置からプレッシングへいく。しかしなかなかはまらない。
 愛媛は前がかり一辺倒になってしまいそうなところをしっかりとケアしていた。90+2分の栃木のカウンターを、しっかり相手よりも1人おおく後ろに残していたことで防いでいる。
 90+3分。長沼選手が相手陣内深くからクロスをあげてコーナーキックをえる。このコーナーキックの流れから90+4分の吉田選手の逆転弾を生みだす。アシストは下川選手だった。
 試合は1-2のまま終了。愛媛にとってひと安心の逆転勝利となった。

 にわかに復活した自陣深くからのビルドアップがうまく機能した愛媛FC。栃木が対応に慣れてきた前半の終わりごろには、ひっかけられてピンチ! という場面もなんどかあったが、まあ、自陣でボールを保持する以上切っても切れない部分だろう。
 栃木SCはアジリティーのある選手たちがサイドや前線にそろっていたので、ボールをもたせるのがこわかった。2度あったPK獲得の場面を含めて、中盤から裏を突く攻撃は一撃必殺的なこわさだった。
 ミッドウィーク(2019年7月3日〈水〉)に開催された天皇杯2回戦で、愛媛は徳島ヴォルティスと対戦し、PK戦のすえに敗れてしまったという。出場機会のすくない選手たちが両チームともおおく出場した試合らしい。この試合で悔しいおもいをした選手たちが、やがてリーグ戦でも台頭してくるのだろう。栃木は次節愛媛が対戦するモンテディオ山形に勝利している。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 栃木SC 1-2 愛媛FC @栃木グリーンスタジアム

 得点者
  栃木SC:西谷和希、45+2分
  愛媛FC:藤本佳希、85分 吉田眞紀人、90+4分