J2-第20節 ザスパクサツ群馬 対 愛媛FC 2020.09.20(日)感想

01_スタメン

 5連戦第3ラウンド1試合めの相手はザスパクサツ群馬。ちなみに第6ラウンドの初戦も群馬である。
 温泉ダービーと呼ぶとか呼ばないとか。今季からJ2に復帰した群馬は、シーズンオフにJ1経験者やJ2の猛者たちを呼びあつめている。松本山雅FCに布啓一郎氏を引き抜かれたため、監督はかつてザスパ草津時代に選手経験もある奥野僚右監督となった。
 愛媛FCは前節の敗戦で連敗。1週間空いたので心機一転といきたいところ。1週間ぐらいで心機一転というのもおかしいが。なんだか、1週間の準備期間があれば中断期間のときぐらいチームの調整ができるんじゃないかと錯覚するようになってきた。なお、先発する山瀬功治選手はJ通算550試合出場となった。おめでとうございます。
 J2第20節、ザスパクサツ群馬対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 群馬は[4―4―2]、愛媛は[3―4―2―1]でスタート。
 群馬で目を引いたのが右サイドハーフの平尾壮選手。サイドバックのイメージだったが1列前での出場。キックオフからロングボールのターゲットになったり、愛媛ディフェンスラインのあいだを走り抜けて田中稔也選手に空間をあたえたりと活発に動いていた。そして彼の背後には岩上祐三選手。中盤ならどこでもこなせるイメージのある岩上選手だが、どうやら今季は右サイドバックとして出場しているらしかった。
 平尾選手は田中稔也選手とともに高い位置からのプレッシングをおこなっていた。群馬としてはスピードのある平尾選手たちによるボール奪取と、岩上選手からの良質なパスをセットにしているのかもしれない。
 ただ、右サイドでとり切ろうとするぶん、岩上選手が長沼洋一選手をつかまえにいくとディフェンスラインに穴が空くようになる。3分には渡邊一仁選手が岩上選手の背後へ斜めに走りこんでボールを前進させた。
 愛媛の立ち上がりに目立ったのが、右ウイングバックの三原秀真選手がディフェンスラインの背後へ走りだしてロングパスをひきだす場面。裏への抜けだしに成功すれば御の字、できなくともこぼれ球を回収して前進をつづける、はたまた高い位置でのプレッシングへの移行が狙いだったか。
 落ちつかない序盤のさなか4分に中山雄登選手が丹羽詩温選手と交錯して負傷。いちどはピッチにもどったものの、9分に磐瀬剛選手と交代した。後日、靭帯の損傷で全治10週間の怪我だと発表された。1日でもはやい回復と復帰を祈っています。
 その交代から愛媛は群馬におしこまれ、セットプレーがつづくなかで立ち上がりの15分を経過した。余談だが、愛媛はファウルを犯すことがおおかった。そのため守備から攻撃へ切り替わっても、そのまま攻撃へ移り切れずに相手のセットプレーでのリスタートになってしまっていた。

 45+1分。愛媛が自陣からボールを保持してうまくハーフウェイラインを越えたのだが、気になるところがあった。
 前進のはじまりは茂木力也選手のサイドチェンジから。田中稔也選手をかわして入れ替わったことでフリーになり、よゆうをもって前野貴徳選手までパス。前野選手はタッチライン際にひらいた森谷賢太郎選手とのパス交換を繰り返すことで平尾選手をゆさぶりつつ、その時間でチーム全体をおしあげさせた。そして2ライン間へはいっていった長沼選手へ縦パスを入れることに成功。長沼選手は山瀬選手へバックパス。山瀬選手はワンタッチでペナルティーエリアの脇へロブパスを送るが、長沼選手の意図とはあわず、なおかつボールに勢いがついてしまってゴールキックになる。
 あぶなげなく相手陣内へ進入したうえ、2ライン間をついてチャンスになりそうな場面だが、ここで気になったのが長沼選手への縦パスがはいるまえのこと。山瀬選手がボランチをひとり引きつけて前野選手へ駆け寄っているのだが、そのとき相手の2ライン間中央がおおきく空いていた。山瀬選手がボランチをひとり引きずりだしたからだ。だが、そこへ顔をだしにいく選手はいなかった。

02_45+1分の攻撃①

 たとえば、山瀬選手が下がっていくのだから、川村拓夢選手が上がっていけば相手に脅威をあたえられたかもしれない。縦パスを受けた長沼選手は、中央へ顔と身体をむけられるようにトラップしている。川村選手が山瀬選手の空けた場所へはいっていければ、相手にとっていちばん危険な位置でパスの受け渡しができたかもしれないのだ。そうすれば相手センターバックはおおいに困ることになる。丹羽選手に対応をしなければいけないのに、2ライン間で前をむいてプレーする選手がでてきたら、そちらを放っておくわけにもゆかなくなる。その混乱に乗じて丹羽選手がマークをはずせればスルーパスでキーパーとの1対1にできたかもしれない。センターバックがでてこなければ、川村選手みずからシュートまでもっていけたかもしれない。はたまた右サイドでフリーになっている三原選手へふって相手をさらにゆさぶることだってできる。

03_45+1分の攻撃②

 もちろん、長沼選手のところでボールを失ってしまうと、手痛いカウンターを受けてしまう可能性がたかくなる。左サイドハーフの加藤潤也選手を自由にさせてしまうからだ。だから川村選手はバランスをとっていたのだろう。それでも後方には茂木選手と山﨑選手にくわえて渡邊一仁選手もいて数的優位を確保できていた。
 というわけで、崩せるチャンスになりそうな、かなりおしいと感じる場面だった。

 後半立ち上がり50分に群馬がPKを獲得する。コーナーキックの流れから愛媛がクリアーとこぼれ球の処理を誤ると、ボールは小島雅也選手のもとへ。GK岡本昌弘選手がボールに飛びこんで弾きだしたかにみえたが、とどかずに倒したとの判定がくだる。52分。大前元紀選手がゴール左下隅にきめて群馬が先制した。GK岡本選手もコースを読んでいたのだが、それでもとどかないコースとシュートスピードだった。
 失点直後の54分、前野選手のロングスルーパスに長沼選手が抜けだした。こうした最終ラインから同サイドのウイングバックを走らせるパスをあまり愛媛はださない。なので物珍しくみえた。
 長沼選手が相手にスピードでまさってマイボールにできたため、一気に群馬のディフェンスラインをペナルティーエリア内にまで押し下げることができた。さらに上がってきた前野選手が森谷選手とのコンビネーションでディフェンスラインの裏へ抜けだしてクロスを上げることもできた。これはGK清水慶紀選手にパンチングで弾かれるが、こぼれ球をひろった茂木選手がクロスを上げてコーナーキック獲得と、とても厚みのある攻撃になった。
 この場面は長沼選手が個で勝負できる状況をつくり、しっかりそこへ前野選手がパスを送りとどけた攻撃で、いってしまえばシンプルだった。だが、シンプルな攻めをおこなうための下準備もしていた。
 この攻撃はゴールキックからはじまっている。最終ラインでボールをまわし、それから1―2列めに下がってきた渡邊一仁選手へパス。渡邊一仁選手には磐瀬選手が中盤から飛びだしてきてつかまえにきたほか、田中稔也選手もバックパスにそなえた動きだしをしている。しかし渡邊一仁選手は冷静に前野選手へ横パス。平尾選手がよせにいきかけるのだが、磐瀬選手の飛びだしのケアに中央へ絞っていたため距離ができていた。それでできた時間で前野選手は長沼選手へロングスルーパスをだしている。
 相手を動かして陣形を間延びさせ、1対1で勝負ができる状況をつくる。そこへフリーになっている前野選手が良質なパスを送りこまないわけがない。

 愛媛は58分に丹羽選手から有田光希選手、山瀬選手から横谷繁選手へ選手交代。つづけて65分にも三原選手に代わって藤本佳希選手が出場し、フォーメーションが[4―2―2―2]になる。森谷選手と横谷選手は、サイドから2ライン間へはいってくるというより、はじめからインサイドハーフぎみに位置していた。そうしてサイドバックを高い位置へでていけるようにしていた。また、長沼選手が右サイドバックにうつっている。
[4―2―2―2]にしてからは、相手の1―2列めでパスを受けられるように渡邊一仁選手がしきりと動いていた。川村選手がブロックの外で受け、渡邊一仁選手をよりフリーにする狙いもみえた。そのふたりは79分に交代。代わりに忽那喬司選手と吉田眞紀人選手が出場。これによりドイスボランチは森谷選手と横谷選手になった。
 ラスト10分で愛媛はディフェンスラインの裏へのロングボールを多用して相手を押し下げるようになる。こぼれ球を2ライン間で回収して群馬をおしこみつづけた。長沼選手のシュートに横谷選手がヘディングであわせかけ、有田選手がセンターバック間を抜けだしてキーパーと1対1になることも。さらには大外フリーの状態でボールが有田選手のもとへ転がってきたりとチャンスを量産した。しかしGK清水選手に防がれたりシュートが枠に飛ばなかったりして得点には至らなかった。
 試合は1―0のまま終了。群馬は2連勝。愛媛に勝利するのは6年ぶりだったとか。対する愛媛は3連敗となってしまった。

 終盤にみせたロングボールで相手ディフェンスを押し下げる戦い方は、ビルドアップが手詰まりになったときの打開策として昨季よく用いていた。相手をおしさげてライン間を空けさせることでボール保持を助ける選択肢だったが、今季はあまりそういった応変がみられていなかった。残り時間がなかったからだろうが、けっかとして相手陣内でのプレーがつづいてチャンスをつくれていた。だからといって無暗に蹴りこんでいたら手痛いカウンターを食らってしまうから、やはり自陣でのビルドアップで相手を動かしていきたいところ。愛媛の選手たちが生きいきとしているのは、やはりみんなでゴールへむかっているときなのだから。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 ザスパクサツ群馬 1―0 愛媛FC @正田醤油スタジアム群馬

 得点者
  群馬:大前元紀、52分
  愛媛: