J2-第7節 愛媛FC対横浜FC 2019.04.03 (水) 感想

 気張っていこう愛媛FC。7節で登場横浜FC。
 ここ数年イバ選手の圧倒的な個人技にやられてしまっているイメージが強く、気づけば彼に愛媛キラーの異名を授けている。しかしこの試合で彼はベンチスタート。またレアンドロ・ドミンゲス選手もベンチに。連戦でコンディション調整に苦しんでいるのがうかがい知れる。
 元愛媛FCの選手でいえば、横浜には瀬沼優司選手と渡邊一仁選手がいる。瀬沼選手は先発で、渡邊選手はベンチ。ところで渡邊選手は愛媛済美高校出身だが、もしかして年齢的に済美高校が初出場で春のセンバツ優勝、夏大会準優勝を果たしたときの世代と重なっていたりするのかい? と調べてみたら鵜久森敦志選手と同級生らしかった。すごいぜ済美高校。その済美高校の後輩藤本佳希選手はこの試合も元気にスタメンを張っている。横浜FCでプロデビューし、その試合で得点まで決めている西田剛選手は残念ながらベンチ外だった。
 連戦のJ2。ミッドウィーク開催だった愛媛FC対横浜FCの試合をざっくりと振り返っていく。

・3バックでの守り方

 3-4-2-1で戦うチームはブロックをつくるときにウイングバックが最終ラインへ、インサイドハーフの選手が2列めへ落ちて5-4-1の形になる。もしくはインサイドハーフが高い位置をとって5-2-3の形になる。五角形の形に見えることからペンタゴンと呼ばれることもある守り方で、去年愛媛が対戦した相手でいえば松本山雅FCが使っていたのが印象的だった。愛媛はどちらかといえば5-4-1の形で守ることがおおい。5-4-1で構えてから、インサイドハーフがプレッシングに飛びだしていくイメージ。
 5-4-1で守ることのメリットは最終ラインに人数がかけられる上に中盤のラインにも人数が割けること。最終ラインに人数がいれば、2ライン間でパスを受けようとする相手に対してセンターバックが強くプレスをかけにいくことができる。後ろ向きや横向きへのプレスより、前向きにかけていくプレスのほうが相手は後ろ向きである場合がおおいのでボール奪取の可能性が高く、奪えないまでもかなり自由を奪える。そのうえ2ライン間そのものを狭めてしまえばなかなか崩されない。
 では5-4-1のデメリットはなにかといえば、とうぜん中盤と最終ラインに人をかけるのだから、前線には1人しかいないということ。これによって相手センターバックのビルドアップを容易にし、パスコースへの制限もかけにくくなる。2対1、さらには3対1の場面だってでてくるだろう。なのでボールをまわされやすくなる。ただしブロックの外でではあるが。
 もうひとつデメリットを挙げれば、狙い通り2ライン間でボールを奪えても、前線には1人しかいないため速攻が打ちにくいという点。フォワードが孤立してしまうので、カウンターになったときにその選手がボールを収めて時間をつくれなければ、たちどころにボールはふたたび相手のものとなってしまうだろう。
 では5-2-3で守ることのメリットとデメリットはなにか。まずメリットは前線に3人いるのでボール奪取後に速攻を打ちやすくなる。それから同じ理由で相手のビルドアップを困難なものにできる。自陣からボールを繋ぎたいチームならば、ビルドアップにすくなくとも同数の3人は必要になる。なのでMFかGKを参加させなければならない。またパスコースも人数がいる分制限ができるので、より相手はパスを繋ぎにくくなる。
 ではデメリットは? もちろん2列めに生じてしまう広大な空間だ。ディフェンシブハーフのふたりの脇には空間ができてしまう。この位置に相手のサイドバックやウイングバックが位置するば、容易に1列めのプレスは無効化されてしまう。ウイングバックがでていけばいいわけだけれど、そうなればもちろんその後方の最終ラインが空いてしまう。飛びだしていったのにワンタッチではたかれてしまえば、空けてしまった場所を使われてしまう可能性は高い。
 横浜FCは直前のツエーゲン金沢戦では5-2-3での守備をおこなっていた。その結果2列めの両脇を使われてしまっていた。では今節の愛媛にはどういう対応をしてきたのか。はたしてタヴァレス監督は5-2-3と5-4-1の合いの子を選択した。
 愛媛がボールをもてばまずは1トップと2インサイドハーフの3人で1列めを形成。ただ積極的にボールを奪う役割を担ってはいなかった。彼らが高い位置で1列めを形成することで愛媛のビルドアップを低い位置でおこなわせることが目的。1列めが高い位置をとった上でブロック全体をコンパクトにする。愛媛のビルドアップでミスがでればショートカウンターを仕掛けられるようにもなる。
 では2列めの両脇はどうするのか。
 愛媛は左ウイングバックの下川陽太選手を下がりめに、右ウイングバックの長沼洋一選手を高めの位置にとらせていた。なので警戒すべきは横浜にとっての右サイドの下川選手。ここにパスをださせないように瀬沼選手がサイドへのパスコースを消しながら西岡大輝選手へ寄っていく場面があった。ださせてしまっても右ウイングバックの藤井悠太選手が猛然と寄せていく。というか、全体的に右にスライドして陣形をコンパクトにして愛媛に時間を与えないという守り方をしていた。ボールを自由にもつ時間がないのなら、空間があっても使うのは難しい。瞬間的にFC町田ゼルビアのようだった。
 ただこれはボールが愛媛陣内半分あたりにあるときまで。ミドルサードまで運ばれたときはその限りではない。インサイドハーフはディフェンシブハーフとともに2列めを形成して5-4-1ぎみになっていた。ぎみに、というのは、ボールのないサイドのインサイドハーフはすぐに2列めに加わらないで速攻を仕掛けられるようにもしていたため、正確には左右非対称の5-3-2みたいになっていたからだ。
 序盤愛媛がボールを持てるときは、普段通り左サイドでビルドアップをしていた。そのため瀬沼選手がパスコースを消しながら下がっていく場面がおおく見られた。先述のように瀬沼選手は高めの位置では下川選手へのパスコースを消していたが、ボールが運ばれればインサイドハーフの神谷優太選手へのコースを消すことに重点をおく。このとき横浜の右センターバック乾大知選手が神谷選手をマークするように最終ラインから浮きぎみに位置することがおおかった。もし神谷選手へパスがとおったとしても、乾選手と瀬沼選手のふたりですぐさま挟みこむことができるからだ。この狙いは逆サイドでも同じだったように見えた。
 2ライン間に位置するインサイドハーフへパスをつけることで攻撃のスイッチを入れたい愛媛FC。だがそこはケアされている。ならばどうするか。これは解説の大西貴さんが説明していた。
 先述のとおり、横浜のセンターバックは愛媛のインサイドハーフの選手を見るために最終ラインよりまえめに位置する場面がある。となれば当然その背後に空間が生まれる。なので空いた空間に藤本佳希選手が走りこんで裏を狙う場面があった。そのとき下川選手が下がりめであれば藤井選手も下がっていることがおおい。なので藤本選手は川崎裕大選手との1対1になることもある。もし下川選手が高い位置にいたとしても、1対1が2対2になるだけ。最終ライン全体で見れば神谷選手が下がりぎみの5対4であっても、こうした工夫で局所的に1対1の場面を愛媛はつくれていた。そしてそこからチャンスまでもっていけていた。

 さて、横浜FCはどう攻撃を組み立てていたのか。ボール奪取後に前線に残っている3人を活かしたショートカウンターを仕掛けることも目立ったが、自陣から繋いでいこうとする意志も見られた。いや、パスを繋ごうというより、時間と空間をつくろうというボールの持ち方だったのかもしれない。
 横浜の2ディフェンシブハーフ、特に田代真一選手は最終ラインにまで下りてビルドアップに加わる場面がおおかった。相方の伊野波雅彦選手は下りてきた松浦拓弥選手と2セントラルハーフのような形になることがおおかった。そうなるとどうなるか。愛媛のディフェンシブハーフが前後に揺さぶられるようになってくる。
 松浦選手や伊野波選手が下がりめに位置すればフリーにさせないために愛媛の田中裕人選手と山瀬功治選手もラインを高くしなければならない。となれば2ライン間が空きやすくなる。そのタイミングで戸島選手へロングパスをだしてこぼれ球を回収する、という形を狙っているようだった。

・前半

 20分に横浜が先制する。ヨンアピン選手からのロングパスを戸島章選手がヘッドで後ろへ逸らし、抜けだした左ウイングバック袴田裕太郎選手がボックス脇からグラウンダーのクロス。これがGKとディフェンスのあいだを抜けていく愛媛ディフェンス陣にとって歯痒いボールとなり、走りこんだ瀬沼選手がスライディングシュート。悲しいような嬉しいような、いや切ないという瀬沼選手のゴール。さすがなんだけれど。
 この得点の場面で秀逸だったのは袴田選手。彼は戸島選手へのロングパスがでると、戸島選手の右脇をすれ違うように抜けていった。これによってマークについていた長沼選手は戸島選手の左側、つまり袴田選手から遠ざかる側から追いかけることになってしまった。これによって袴田選手はフリーでクロスを上げる時間を得られていた。
 先制したからなのか、29分頃から横浜は守備の仕方をすこしかえる。愛媛と同じように5-4-1のブロックをまずは敷く。そこから対面するセンターバックがボールをもてばインサイドハーフがでていく、という形になる。これによって愛媛はボールを保持する時間が増えた。
 33分には山瀬選手が圧巻のパスをだす。ユトリッチ選手からのパスを相手陣内中央で受けると、伊野波選手と戸島選手が寄せるなか、まえをむいて近藤貴司選手へパスをとおす。パス&ゴーで飛びだす山瀬選手に近藤選手がボールを返し、山瀬選手はシュートを放つ。ボールはヨンアピン選手にはじかれたが、狭い空間にもパスコースを見出せる視野、実際にパスをとおせてしまう技術、パスのあとすぐに動きだす積極性、なにより状況を瞬時に把握して一連の流れを組み立てられる想像力を発揮してみせた。これらを経験値というのか天賦の才というのか知らないが、脱帽です、山瀬選手。
 愛媛の同点弾は得意の形からのものだった。
 45+1分。愛媛は横浜のFKのこぼれ球を自陣左サイド深くで回収すると、横浜の選手たちがフォアチェックのために控えているのをしりめに右サイドへ展開。長沼選手が松浦選手を振り切って右内のレーンをドリブル。このとき近藤選手もすぐに走りだすことで横浜の選手をひとり引きつけている。これによって右サイドに寄っていた横浜の2列めが間延びし、藤本選手への広大なパスコースがひらかれる。パスを受けた藤本選手は間をとってから近藤選手へスルーパスをだす。近藤選手が切り返して相手をかわすと、左サイドに見えるのは広大な空間。そしてそこへ駆けこんでくる下川選手。横浜の選手がそのパスコースを消しにくるなか、近藤選手は浮き球で下川選手へパスをだした。ボールはズレてしまったが下川選手がラインぎりぎりで残す。そこからボックス左内側、いわゆるニアゾーンへ走りこむ山瀬選手へパスをだし、山瀬選手はライン際まで運んでからクロス。GKのまえに跳びこんだ藤本選手がヘッドで合わせて得点。
 愛媛はこれまで疑似カウンターを打つとそのままシュートまで至ることがおおかった。だが今回は相手陣内深くまで一気に攻めこんだあと、シュートまでいけなかったとしても、それからしっかり相手を崩して得点した。これはおおきい。単発で終わりがちだったカウンターからの攻撃に広がりができはじめている証左に見えた。

・後半

 後半はじめから横浜FCタヴァレス監督が動く。ハーフタイムに松浦選手に代えてイバ選手を出場させる。これによりイバ選手がトップで戸島選手が左インサイドハーフの位置へ。
 57分に愛媛が絶好のチャンスを迎える。西岡選手がフェイントで相手をかわして藤本選手へ斜めのパスをだすと、藤本選手はフリックで神谷選手へ。神谷選手はボールの流れのまま左へ避けて横浜のディフェンダーをかわすと左足でシュートを打つ。残念ながら枠の外。
 西岡選手の足もとの技術とパスセンス、藤本選手のすぐれたポストプレー、神谷選手の冷静に相手を見たプレー選択。どれもすばらしかったが、残念ながら神谷選手は利き足とは逆の左足でシュートを打つことになった。直前にも神谷選手が左足でシュートを打つ場面があり、どうにも右足でシュートを打たせない守り方をされていた感じがある。ただ利き足とは逆だから打たないとならないのが神谷選手の凄味。ガンガン打っていく。打ててしまえると言ったほうがいいのかもしれない。
 60分にタヴァレス監督は瀬沼選手に代えてレアンドロ・ドミンゲス選手を出場させる。これによって横浜は4-2-3-1にしてレアンドロ・ドミンゲス選手をトップ下に。ブロック形成時にはイバ選手とともに2トップで残る4-4-2に変化。恐怖の2トップである。
 ボールを持てば簡単に失わないイバ選手とレアンドロ・ドミンゲス選手。よって横浜は攻撃時にサイドハーフ2人とセントラルハーフ2人も参加した6人で攻撃にでられるようになる。その際サイドバックはすこしまえめの内側に位置することで愛媛のカウンターに備えていた。
 とはいえ、横浜の最終ラインに空間が生まれやすいことにかわりはなく、下川選手や長沼選手によるドリブルでの中央突破から、空いたサイドバックの裏を突く場面があった。また最終ラインが4人になったのでサイドチェンジも有効になってきていた。2ライン間を攻略する場面も増えはじめ、前半ロスタイムに追いついた勢いも相まって、試合は愛媛のもの、愛媛が逆転するのは時間の問題、イケイケ愛媛FC! という雰囲気になっていく。
 しかし追加点は横浜FCが決める。
 84分。横浜は自陣でボールを奪う。中央でフリーのレアンドロ・ドミンゲス選手へ戸島選手がパス。山崎浩介選手がマークについて攻撃を遅らせることに成功も、できた時間で藤井選手があがってくる。レアンドロ・ドミンゲス選手は藤井選手へパスをだすタイミングをはかる素振りを見せていた。そして藤井選手が追い抜いていった瞬間、そちらは囮で中央のイバ選手へパス。イバ選手はワンタッチでレアンドロ・ドミンゲス選手へ戻し、まえをむいてパスを受けたレアンドロ・ドミンゲス選手もワンタッチで途中出場していた斉藤光毅選手へ。斉藤選手は長沼選手と山瀬選手に寄せられながらも粘り強くシュート。斉藤選手の嬉しいプロ初ゴールは横浜FCの決勝点となった。
 愛媛は西岡選手に代えて河原和寿選手、藤本選手に代えて岩井柊弥選手を出場させることでより攻撃的に同点を目指す。引いてブロックを敷く横浜。バックパスを用いて横浜のブロックに隙間をつくって攻める愛媛。ファイナルサードまでおしこむものの最後まで追加点は生まれず、1-2で横浜FCが勝利した。

・終わり

 やはり強かった横浜FC。ボールを保持することもできるし、かといってボール保持にこだわるわけでもない。ボールをまえへ運ぶためにその状況その状況に合わせた選択をしてくる。松井大輔選手がリベロとして出場したという噂を耳にしていたが、その起用からもわかるように、タヴァレス監督はかなり攻撃的なサッカーを志向しているようだった。松井選手の起用は北海道コンサドーレ札幌で宮澤裕樹選手がリベロで出場している理由と似てる気がする。
 昨年度まではイバ選手とレアンドロ・ドミンゲス選手の個人技で圧倒していたイメージをもっていたが、彼らだけには頼らない攻撃的なサッカーも準備できている感じがした。末恐ろしい。
 愛媛FCは残念ながら3連敗。V・ファーレン長崎、FC町田ゼルビア、横浜FCと一筋縄ではいかない相手であり、それぞれの試合で愛媛の特徴をだしていただけに、いずれも悔しい敗戦となった。いずれも強敵に伍してみせた、というより、高いレベルで実力が拮抗しているライバルに敗れた、という悔しさに近い。結末は愛媛にとって残念なものだったが、非常に見応えのある試合でおもしろかった。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 愛媛FC 1-2 横浜FC @ニンジニアスタジア

  得点者
   横浜FC:20分、瀬沼優司 84分、斉藤光毅
   愛媛FC:45+1分、藤本佳希