J2-第6節 FC町田ゼルビア対愛媛FC 2019.03.30(土) 感想

 オレオレオレたちの愛媛FC。第6節の相手は「コンパクトフィールド」、「ワンサイドアタック」のマーチングバンド高らかに魔境J2にさらなる恐怖と混沌をもたらしている強敵FC町田ゼルビア。昨季のJ2が最終節までもつれることになった展開の一因に愛媛FCもちゃっかり貢献している。あの日見たドリアン・バブンスキー選手のロングシュートを忘れない。
 スタメンを見た瞬間に全愛媛ファン・サポーターがおどろいたであろう前野貴徳選手の不在。どうやら怪我らしい。早期の復帰を切実に願う。お願いします。
 彼の代わりに愛媛FCは山崎浩介選手を右サイドバックにした4バックで臨む。そして、ついにユトリッチ選手が右センターバックで初出場。山瀬功治選手も初スタメン。ベンチには玉林睦実選手のほか、U-23帰りの長沼洋一選手、そして待ちに待った河原和寿選手が復帰した。
 前節の鹿児島ユナイテッド戦での勝利で復調の兆しが見えはじめた町田と、嫌な流れなるオカルトを払拭したい愛媛の試合をざっくりと振り返っていく。

・“ボールを大事に”の意味

 愛媛はポゼッションするチームだとおもわれている。否定はできないが、FCバルセロナのように自陣からショートパスを繋いで着実に前進していくチームかといえば疑問がある。べつにどんな相手であろうがパスを繋ぎ倒すぜ! というチームではない。結果的に支配率が高くなってしまうチーム、といわれれば頷けるのだけれど。
 ボールを大事にするというのは、なにも懐にかかえてはなさないということだけを指すわけではないであろう。丁寧にラッピングして遠くの人に送り届けることだってある。『GIANT KILLING』で大阪ガンナーズの志村選手がそんなことを言っていた。違うか。
 なにがいいたいのかといえば、ボールを大事にすると標榜しているからといってロングボールが多くなるのは目指すものとは違う、わけではなく、ロングパスを繋いでいけるのだってパスサッカーだよね! ということ。
 町田はハイプレス。愛媛のセンターバックからサイドバックへボールがでると、サイドハーフがプレスをかけにいく。サイドバックがセンターバックへ戻すと2トップがセンターバックへプレスをかけにいく。
 4対4のままでは追いこまれる愛媛。だが11分の場面ではGK岡本昌弘選手もビルドアップに加わることで町田のプレスをひとりずつズラすことに成功する。つまり町田のフォワードのひとりがGKにいかなければならなくなるため、愛媛の右センターバックのユトリッチ選手に、本来であれば右サイドバックの山崎選手担当の左サイドハーフ岡田優希選手が寄せていくことになる。そうなればとうぜん山崎選手が空くことになる。しかしそこはFC町田ゼルビア。左サイドバックの下坂晃城選手が猛然と寄せていくことで人数をあわせる。なおかつ町田はディフェンスライン全体が左へスライドすることで、右サイドでおこなっていた圧縮を左サイドへシームレスに移行する。とはいえ後方に人数が減るのは事実。ユトリッチ選手からのロングボールは藤井航大選手にクリアされるも、そのこぼれ球を町田が繋ぎ損ねたため愛媛が回収。そのまま薄くなった右サイドを突破しようとした。

 このようにこぼれ球を回収することで前進するというビルドアップだって可能。一見すると偶然に繋がったと見える場面でも、意外と狙って引き起こしたことであったりする。この場面も、まあ、たぶん。

・愛媛の狙いは疑似カウンター

 たちあがりからボールがもてない愛媛FC。ただ相手が町田だからボール保持にこだわっていないという側面もありそうだった。自陣左サイド深くからボールを繋ごうとする場面はあったが、目的はボールをもつことではなく、町田の選手たちをひきつけること。なぜなら疑似カウンターを打ちたいから。
 愛媛の武器である疑似カウンターを効果的に使うには、ハイプレスを仕掛けてくる町田は絶好の相手だったともいえる。もちろん相手のプレスをかいくぐられればの話。たとえば16分には自陣からの繋ぎでミスが出てピンチになりかけた。とはいえミスが出てもリカバリーできるように人数は残っていたので、町田の選手たちは厳しいところしかシュート狙えないよ! となる守備――というよりも攻から守への切り替えの準備をちゃんとしていた。
 町田は愛媛陣内でのプレーが続き、シュートも多く打っていたため、かなり優位に試合を進めているように見えた。ではGK岡本選手のビッグセーブも多かったのかといえばそういうわけでもない。先述のとおり、愛媛はカウンターのケアをしていたため町田のシュートが枠をとらえることはすくなかった。チームや選手によってはシュートを打たずに味方を探す選択をしていたかもしれない場面でも積極的に打ってきたあたり、町田の選手たちの勇猛さと好調さがうかがえる。
 圧縮のFC町田ゼルビア。逆サイドにできるオープンスペースは、おそらく自他ともに認めている弱点。ただそこまでいかせないための圧縮なんだぜ! という主義のもと遂行してしまうのが町田の凄いところ。ボールが出てこないのならばそんなところにスペースは存在せず、あるように見えるのはたんなる幻。青の幻術師FC町田ゼルビア。カッコイイ。
 幻術の源は努力。そこに見えているスペースへ出させない熱量。なので疲れてくると幻が幻でなくなってくる。蜃気楼かとおもっていたらほんとうにオアシスあったみたいな歓喜が、試合がすすむにつれて愛媛にもたらされるようになってくる。
 愛媛は左サイドに町田をひきつけてから右サイドハーフの近藤貴司選手へサイドチェンジして疑似カウンター、という狙いを徹底していた。30分頃からはっきりと西岡大輝選手がロングパスを近藤選手へ通す場面が目立ちはじめる。
 42分には裏へ抜けだした近藤選手がボックス横から藤本佳希選手へクロスを入れる。藤本選手はスルーを選択。絶好のチャンスだった。
 町田のサッカーは豊富な運動量を要求し、選手たちはそれに応えている。とはいえ、90分続けられるかどうかとなれば話は別。なので前半に町田の選手たちを消耗させて後半から勝負! となれば愛媛にとってこれ以上ない展開。そのためであれば自陣で攻め続けられてもOK。むしろ攻め疲れを狙うぜ、というスタンスにも見え、愛媛はそれを完遂し0-0で折り返す。

・リベロGK岡本選手ふたたび

 後半から両サイドハーフを入れ替える町田。右に岡田選手、左に戸高弘貴選手がはいる。「攻めてるけれど停滞感があったため」とは町田の相馬直樹監督の談。
 愛媛は前半2センターバックでのビルドアップを試みていたが、52分には田中裕人選手がセンターバック間におりてきて3バックぎみにビルドアップ。アンカーの位置には山瀬功治選手がおりてくる。後ろが3人になったことでボールが運べるようになる愛媛。
 そのうえ、この試合でもGK岡本選手がFC琉球戦のときのようにリベロとして振る舞う場面も多かった。田中選手がおりてくるときと違うのは、田中選手がより高い位置にいて相手をひきつけられるようになる点。
 60分にはGK岡本選手がミドルサードまであがってパスを受けることで、ユトリッチ選手が3バックの右ストッパーのように振る舞えるようになる。ユトリッチ選手がボールを運ぶことで町田セントラルハーフのロメロ・フランク選手をひきつけ、2ライン間にスペースをつくる。このスペースへ山瀬選手が顔を出すと、ユトリッチ選手が絶妙な縦パスを入れる。縦パスがはいる瞬間にタッチライン際で下坂選手と駆け引きをしていた近藤選手が飛びだし、すぐさま前をむいてみせた山瀬選手がスルーパスを出す。愛媛はこうやって崩せたところから得点を決めたかった。

 後半にはいり、愛媛はボックス内まで攻めこまれる場面が散見されるようになるものの、町田のプレッシングが弱まったこともあってボールが安定してもてるようにもなる。
 63分、山瀬選手に代わって古巣対戦となる吉田眞紀人選手が出場。右サイドハーフにはいり、近藤選手がインサイドハーフへ。また守備時には吉田選手が1列あがった4-4-2になる。
 さあ、これからいくぜというところで町田に先制点がはいる。
 64分の町田のCK。キッカー岡田選手がインスイングのクロスをあげ、藤井選手がフリーでヘディングシュート。きっちりととらえたすばらしいゴールだった。藤井選手には前半にもCKからヘディングを打たれていたので、なんとかして抑えたかった愛媛。痛恨の1点となる。
 先制点の直後、アシストの岡田選手に代わってジョン・チュングン選手が出場。
 68分には愛媛、山崎選手に代わって長沼選手が出場。守備力よりも攻撃力をあげていく川井健太監督。この交代で3バック変更の噂もあるが、見ている限り4-1-2-3のまま変更はなさそうだった。田中選手がセンターバック間に下りることはあったが、システムに変化はなかったように見える。
 長沼選手をはじめ、東京五輪世代の選手たちはポジションに関わらずテクニックのある選手がそろっている感じがする。さらに心強いのはそのテクニックを発揮する方法やタイミングもわかっていると見えるところ。ワンタッチではたければ相手の裏を突けるなぁとか、いま間をつくれれば後ろの選手の上がりが使えるんだけれどなぁ、というタイミングがわかっているみたいな。テクニックしかないと揶揄された日本人選手だけれど、若い世代にはついに戦術理解も加わってきているのかな、と勝手におもっている。たんに彼らがエリートだからというだけかもしれないけれども。
 長沼選手投入により右サイドが活性化されたかに見える愛媛。しかし攻撃は左サイドから。なぜなら長沼選手の攻撃力は疑似カウンターで使いたいから。左サイドで時間をつくってから右サイドでフリーの長沼選手へ、という展開を狙う。しかしなかなかそうならない。
 79分、町田は足を攣った富樫敬真選手に代わって山内寛史選手を入れる。その後、下坂選手も足を攣る場面があった。アディショナルタイムに交代した酒井隆介選手も足を攣っていたのかもしれない。苦しいFC町田ゼルビア。強敵を苦しめている愛媛FC。
 90分には愛媛がビッグチャンスを迎える。西岡選手から長沼選手へロングパス。近藤選手が町田のセンターバックとサイドバックのあいだへ走りこむことで町田の左サイドバック下坂選手を中央へひきつけ、長沼選手がフリーになる。これにより下坂選手は近藤選手を捨てて長沼選手を見なければならなくなる。下坂選手がくいついたところを長沼選手はフリーの近藤選手へパス。長沼選手とのパス交換から左足でクロスをあげると、ボールは町田ディフェンダーの頭上を越え、交代出場していた有田光希選手のもとへ。有田選手が落ち着いてトラップしてシュートを放つも酒井選手が弾きだす。これはシュートにカウントされないものだったらしい。なので愛媛はこの試合シュート数が0本だったそうだ。試合は1-0で町田が愛媛を完封。町田はうれしい2連勝、愛媛はしょんぼり2連敗となった。

・終わり

 数的優位をつくりハイライン・ハイプレス(?)を敢行するFC町田ゼルビア。もしかして世界最先端の戦術なのではないか? 和式リヴァプールなのではないか? と考えたくなるくらい、洗練された努力を見せてくれるチームだった。試合後に相馬直樹監督もおっしゃっていたが町田の選手たちには頭が下がる。
 愛媛FCとしては、前野選手の不在もあり、ボールを保持できないのは織り込み済みで町田の圧縮の力を反転させる狙いがあったように見えた。そして狙いが嵌まったのに勝てなかったとなればかなりつらい敗戦。ゴール前までいけるけれどシュート打てないよ! というのは去年からの課題。今年は神谷選手が積極的に狙っていくことでシュート数が増えているものの、やはり攻撃が単発で終わってしまっている印象もある。
 ただ西岡選手から近藤選手へ何回もサイドチェンジが成功していたように、再現性をもって攻撃できていたのは興味深い点だった。前節V・ファーレン長崎戦ではサイドチェンジをケアされていた感があったものの、この試合では(町田の圧縮にもよるが)効果的なサイドチェンジができていた。ジョゼップ・グアルディオラ監督が言うところの最後の70パーセントまではできている、ということなのだろう。最後の30パーセント、つまりファイナルサードを崩せるかどうかは選手たち次第。
 ますます選手間のコンビネーションも増して行くであろうこれから、たとえ負けたとしても愛媛FCに対する期待は増していく。
 最後にユトリッチ選手について。彼、すばらしい選手でした。フィジカルがあり、テクニックもある。さらにはたんなるクリアボールになりそうなのを味方につなげてしまう視野の広さと判断力もある。相手を見てプレー選択ができる賢さもありそう。自陣からのビルドアップをおこないたい愛媛にとって、喉から手がでるほどほしかったであろうタイプの選手。セットプレーではナイーブなところも見受けられたが、期待値のほうが遥かに高い注目の選手。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 FC町田ゼルビア 1-0 愛媛FC @町田市立陸上競技場
 得点者:64分、藤井航大