J2第15節 SC相模原 vs. 愛媛FC 2021.05.27(木)感想

 愛媛FCのスタメンはGK秋元陽太、DF前野貴徳、池田樹雷人、西岡大志、茂木力也、MF前田凌佑、岩井柊弥、川村拓夢、FW忽那喬司、藤本佳希、近藤貴司。實好礼忠監督就任後からの、インサイドハーフをふたりにする[4―1―2―3]で臨む。
 対するホームSC相模原のスタメンは、GKアジェノール、DF舩木翔、鎌田次郎、川﨑裕大、石田崚真、MF和田昌士、川上竜、窪田良、藤本淳吾、FWユーリ、平松宗。3バックがベースだと聞くが、今節は4バックでスタートした。小生、相模原の試合はシーズン開幕まえにおこなわれた浦和レッズとの練習試合をみたことがある。自陣からていねいにパスをつないでいこうとするスタイルだということと、稲本潤一選手危険なところに顔だしまくりだという印象をいだいていた。
 J2第15節、SC相模原対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

 キックオフから4バックで臨むのは今季はじめてという相模原。そのためなのか、はたまた前からボールを奪いにいきたい意思のあらわれなのか、2列めと3列めでつくるブロックと2トップとのあいだがひらけていた。中盤と最終ラインの距離間は10~15メートルをたもっていたが、2トップと2列めのあいだは15メートル以上はなれていることがおおかった。余談だが、距離をはかる目安につかっているのは芝の模様である。グラウンドを横から映すことのおおい中継映像では、色の濃い芝と白く光ってみえる芝とが縦むきの縞模様になっているようにみえる。色が違ってみえるのは芝を刈るときの方向によるものらしいのだが、相模原ギオンスタジアムでこの縞が22本あるようにみえる。フィールドの横幅は105、6メートルらしいので、縞ひとつの幅は約5メートルとあたりをつけることになる。10~15メートルというのは、縞ふた幅から三幅ていどの距離ということだ。あくまで目安でしかないが。ちなみにニンジニアスタジアムの縞は20本である。
 本筋にもどる。相模原は1―2列めがひらいていた。なので愛媛はアンカーの前田選手がそのスペースでよゆうをもってボールを受けることができていた。相手の2列めの手前で自由にボールをあつかえれば、逆サイドへの展開がスムーズになる。さらに相手を左右にゆさぶることで2ライン間の選手、とくに岩井選手へボールをとどける場面もつくれていた。
 この試合、岩井選手がライン間で前をむいてしかける場面がよくみられていた。よせてくる相手をいなせる彼自身の技術にもよるが、川村選手のサポートや忽那選手とのコンビネーションによって前をむく時間と空間をえることで、よりよゆうをもってターンすることができていた。川村選手はなるべく岩井選手の近くでプレーしつつ、ディフェンスラインの裏へ走る動きをみせては相手を押し下げ、岩井選手へよせにいけないようにしていたのが印象的だった。一方で忽那選手とはすくないタッチ数でパスを交換してどちらかが前をむく場面をつくることがおおかった。ユース出身のふたりが躍動しているのはうれしいかぎりだ。しかもふたりを後方から支えているのが、ユースの大先輩である前野選手というのもすてきだ。
 左サイドがコンビネーションでラスト30メートルへはいっていく一方、右サイドではディフェンスラインの背後に走った近藤選手へロブパスを送る場面が印象的だった。
 愛媛のビルドアップは右サイドからスタートすることがおおかった。今季から俄然ボールを運べて縦パスも刺せる現代的センターバックと化した西岡大志選手と、状況にあわせたポジショニングをとれる茂木選手がいるサイドだ。彼らのサイドで自陣を出発し、中盤で前田選手を経由してサイドチェンジをおこなうと、左サイドでラスト30メートルへ攻めこみクロスという狙いがあるようだった。それがかなわなかったときにみられたのが、裏へ走る近藤選手へのロブパスだった。しかし近藤選手は空中戦でつよみをみせる選手ではない。なので相手サイドバックの舩木選手にヘディングでクリアーされていた。だが狙いはそのあとのこぼれ球。相模原は4バックにチャレンジしていることもあってか、ひとり背走してクリアーする舩木選手の空けたスペース(おもにペナルティーエリアの角)をケアしきれていなかった。そこに顔をだしてボールを回収していたのが、ディフェンダーながら右サイドであればどこにでも顔をだす茂木選手だった。
 15分に愛媛が先制点を奪う。愛媛はゴールキックを自陣からつなごうとし、相模原は高い位置でのプレッシングで対抗した。2トップと両サイドハーフの4人にボランチのふたりもくわわって、愛媛の4バックとアンカー(それと下がってくるインサイドハーフ)に人数をあわせる形だ。高い位置でプレッシングとなれば必然的ともいえるが、ほとんどマンツーマンぎみだった。それを打破したのが茂木選手。よせてくる和田選手をドリブルではがし、相模原の守備にずれを生みだした。ドリブルで前進する茂木選手ととめるために、サイドバックの舩木選手が前にでてくることになるのだが、同時に、川村選手をマークしていた川上選手も、舩木選手のカバーにはいるためにマークをはずすことになった。茂木選手はフリーになった川村選手へパスし、川村選手は逆サイドへボールを展開させた。茂木選手のドリブルによって相模原の陣形が同サイドによっていたこともあって、パスを受けた前野選手はよせられることなく長い距離をドリブルで前進することができた。おしこんだあと、前野選手のクロスはうまくつながらなかったが、相手のクリアーボールをペナルティーエリアの角で回収したのはやはり茂木選手だった。近藤選手のクロスから藤本佳希選手のゴールへつなげた。
 ところで、クロスをあげるとき、中央にいる愛媛の選手たちはしっかりと役割を把握しているようにみえた。ゴールシーンにかぎらず、ニアに岩井選手、ファーに藤本佳希選手が飛びこむことがおおかったほか、ファー側のこぼれ球を回収するためにウイングの選手がひかえていたし、相手がペナルティーエリア内まで引くことで生まれる中央のスペースには川村選手がちゃんと位置どっていることがおおかった。ラスト30メートルにはいったらクロスをあげることがおおいのは、こうした役割と準備をしっかりしているからなのだろう。一方で、川井健太前監督のときに狙っていた、ニアゾーン深くへ進入してからマイナスのクロスを入れる形はへったようでもある。

 と、序盤から主導権をつかみ、あまつさえ先制点まで奪った愛媛。だが、その要因は自分たちにあるというより、相模原がシステムに順応する途中であったことにありそうだった。とくに守備の場面で相模原は1―2列めの距離間がひらいていることもあって、ボールの奪いどころがはっきりしていないようにみえた。
 しかし、遠すぎるようにみえる2トップは、攻勢に転じると愛媛に脅威をあたえていた。
 相模原は前半、マイボールになると2トップめがけたロングボールをえらぶことがおおかった。これには池田選手と西岡大志選手がしっかり対応していたが、それでもユーリ選手が足もとで受けられたときはちゃんとおさめたりワンタッチではたいたりしていた。また愛媛のビルドアップミスを突いて2トップが前をむく機会もあった。こうして2トップがボールをコントロールしたときは、両サイドハーフとサイドバックとで一気に攻勢へでてチャンスや決定機をつくっていた。
 相模原が本領を発揮しはじめたのは30分が経ったころのこと。まず、高い位置でのプレッシングをひかえるようになった。これでプレッシングが空転して自陣におしこまれる機会がへった。
 それから自陣でのビルドアップをみせはじめた。33分にはGKアジェノール選手から鎌田選手へきわどいパスをとおして愛媛のプレッシングを回避している。相模原が自陣でボールをもてるようになると、愛媛もブロックをしいて迎え撃つようにならざるをえない。相模原は攻撃の陣形をととのえる時間をえられるようになった。
 相模原は前節まで[3―5―2]を基本としていたという。ボールをもつ時間がふえると、馴れ親しむこの形に陣形をととのえるようになっていった。両サイドハーフが2ライン間へはいっていき、空いた大外でサイドバックが幅をとる。ボランチの川上選手が鎌田選手の左隣や斜め前に下がり、窪田選手がアンカーになる。愛媛にとって脅威だったのは、藤本淳吾選手の位置どりと、川上選手のパス。藤本淳吾選手は2ライン間で縦パスを受けるスペースをみつけだすようになったし、川上選手は最後方から2ライン間へ縦パスをとおすようになっていった。
 攻めの練度をみるにつけ、相模原がこの試合を4バックで臨んだのは、より相手陣内でのプレー時間をふやしたかったからなんじゃないかとおもえてくる。3バックだと、守備のときに両ウイングバックが下がって5バックになるため、前の人数がへってしまう。なので高い位置でのボール奪取はむずかしくなる。それを避けるために4バックで守りたいのではないかと。それはなんだか、ボール保持を目指すチームの健全な道のりの過程をみているようだった。
 前半ラスト15分は、こうして相模原がボールをもつ時間をふやしつつ、愛媛もマイボールになればショートパスをつないで攻めあがる形で推移した。

 後半立ち上がり15分も、どちらかといえば愛媛がボールを保持する時間がおおかった。とくに藤本佳希選手が前線でボールをおさめることでチャンスをつくっていた。が、それ以外ではなかなかボールを前進させられなくなってきてもいた。どうやらハーフタイムを経て相模原はあっさりと守備を整備したようだった。
 顕著だったのが愛媛ゴールキック時の守り方。前半、相模原は高い位置でボールを奪おうとしていたが、中盤がボランチふたりの相模原に対して、愛媛はアンカーとインサイドハーフふたりの合計3人のため、数的不利を突かれてプレッシングを回避されていた。だが、後半からサイドハーフの立ち位置をかえることで中盤の数的不利を解消していた。たとえば50分、愛媛が左サイドからビルドアップをはじめようとしたときのこと。逆サイドの和田選手が川村選手をマークすることで、中盤でフリーの選手をつくらせず、前野選手にロングボールを蹴らせることに成功した。
 前半であれば、和田選手はサイドバックの茂木選手と川村選手の中間あたりに位置していただろう。ひとりでふたりをみられる位置をとろうとして、かえってどちらにも間にあわない状況になりやすかったのだ。だが後半からは、サイドハーフの選手がインサイドハーフの選手にはっきりとつくようになった。当然、大外にいるサイドバックはフリーになるのだけれど、そこまで展開されなければだいじょうぶなのである。

 60分に愛媛が3度つづけてコーナーキックをえる。そこまでは愛媛もチャンスや決定機をつくれていた。でもやはりそういった機会は藤本佳希選手のボールキープに頼むところがおおかった。彼がおさめているあいだに、忽那選手が猛然と駆けあがってきては、クロスやシュートを打つ場面がつづいて迫力があった。しかしながら、ウイングとして前線に張っているはずの忽那選手が後方から飛びだすことがふえたというのは、ふしぎでもある。
 63分に相模原が最初の選手交代をおこなう。窪田選手に代わって梅鉢貴秀選手が出場する。実況の河村太朗さんが指摘されていたように、梅鉢選手は再三にわたってこぼれ球を回収してチームを助けていた。フィールド上をボールの落下点めがけて走りまわっていた。
 梅鉢選手がこぼれ球をひろいつづける一方で、愛媛の選手たちは活動量が落ち、前に人をかけられなくなっていった。60分以降相模原がボールを保持しつづけたおおきな要因だろう。愛媛の選手たちはしだいに、時間によゆうがあるようにみえても前線へクリアーするようなプレーがふえはじめ、気づけば、そのボールを追っていくのが藤本佳希選手だけという状況になっていた。
 愛媛はこの試合、80分に内田健太選手と唐山翔自選手が交代出場してから5バックにして守備をかためた。内田選手がフィールドにはいってきたとき、チームメイトたちに指を5本たてて5バックだとしめしていた。小生も最初はこのときから5バックにしたものとおもっていた。だが、見返してみると、後ろを五人で守るきざしは60分のコーナーキック直後からすでにみられていた。タッチラインぎわに張り、ユースの後輩と先輩とのコンビネーションで躍動していた忽那選手が、最終ライン近くまで下がって守備をするようになっていた。意図は読めない。もちろん、対面する右サイドバックの石田選手が高い位置をとりだしたので、それに対応するためなのかもしれない。実際前半には2度、川上選手から石田選手へのサイドチェンジがこころみられ、42分には和田選手からのサイドチェンジがとおってチャンスをつくられてもいた。だが後半にはいってからは、石田選手をフリーにさせたことで致命的なピンチを迎える場面はまだなかった。予防としておこなったのかもしれないが、わざわざ忽那選手の立ち位置を下げさせて、相模原に中盤をあけわたす必要があったのかわからなかった。
 ともあれ、最終的にスコアを動かすことなく0―1で試合を終えた。愛媛は9節の松本山雅FC戦以来の勝利をつかみ、降格圏からもちょっとだけ脱出した。いえい。

 この試合のアクチュアルプレーイングタイムは47分37秒だったそうだ。かなりすくない。どちらかといえばボールをもちたいであろうチーム同士の対戦でもあるのに。なにかのサインかもしれないが、見当がつかない。たんにリーグ下位同士の対決はそんなもんというだけなのかもしれない。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。またね。

 試合結果
 SC相模原 0―1 愛媛FC @相模原ギオンスタジアム

 得点者
  相模原:
  愛 媛:藤本佳希、15分