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アメジスト

「清美、これ、その辺の石ころと一緒に置いてってもいいかい、場所も取るし、というかこれどっから持ってきたんだい。」

清美は母の手元をみた。そこには大きくてゴツゴツとした葡萄色の石が乗っていた。

「ああ、それはダメ。大切なものなんだよ。」

「ならちゃんと大切に持ってなさいよ、こんなとこに置いておかないで。」

母はため息混じりに呟きながらその石を清美に渡した。

清美は石を受け取り、縁側に座りながらぼーっとそれを眺めた。

(これは大切な大切なおばあちゃんからもらったアメジストなんだ。)


祖母とはそこまで仲良くもなかった。

どちらかというとおじいちゃんの方が、なんでもくれたし、優しくて、いつも笑っていて好きだった。

祖母は少し厳しくて、遊びに行っても勉強させられたり、お手伝いさせられたり、遊び盛りの清美にとっては、それが退屈に感じた。

ある日、いつものように祖母の家へ行った時、そこでたまたま葡萄色の大きな石を見つけた。

その石は先の方だけ紫で根本は白やくすんだ青色をしている、まるで霜柱をそのまま凍らせて色をつけたような形をしていた。

清美は、初めて見るその石に驚いて

「おばあちゃん、これは、石?大きな石だね。しかも不思議な色。名前があるの?こんなのがあるなんて知らなかった。」

と興奮気味に話しかけた。

祖母はその石について丁寧に説明してくれた。

「その石はね、アメジスト、というんだ。紫色で綺麗だろう。天然の石なんだよ。それを丸い形に加工したりすると、指輪とかに付いている宝石になるんだ。」

「へえ、すごい、アメジスト。アメジスト、かあ。」

清美はそのアメジストを隅々まで眺めた。こんなものが自然の内で生まれるなんて信じられなかった。みているだけで自然に笑顔になった。

「清美、それあげるよ。持って行っておくれ。」

清美は驚いた。

「これは、おばあちゃんにとって大切なものじゃないの?」

すると、祖母は今まで聞いたこともないような優しい声で、

「それはね、大切な人にあげようと思っていたんだ。清美は大切な人だし、なんせその石を気に入ってくれたみたいだからね。さあ、もらってっておくれ。」

清美はとてもうれしくなった。初めて祖母と打ち解けられたような気がした。

清美はその日、その石を大切に持って帰った。



祖母が亡くなったのはその2日後だった。

今思えば、祖母はきっと死ぬのがわかっていたのではないか、と考えてしまう。

(でも、あの時この石の話をしなかったら、きっと、おばあちゃんのこと...)

縁側には心地いい秋の風が入り、鈴虫の鳴き声が響いていた。


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