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さくらやリニューアルプロジェクト設計編

プロジェクトのはじまり

新潟県弥彦村、有名な弥彦神社のある温泉街の駅前にある櫻家旅館さん。私の大好きな友人であり、同じく新潟県の三条市のステージえんがわという建物を一緒につくった人である、コーディネーターの山倉あゆみさんにお声がけいただいたのが始まり。ステージえんがわは手塚事務所時代の担当作であり、私が関わってきた建物の中でも竣工後いちばん遊びに行っているお気に入りの建物です。えんがわをつくったときに集まった新潟のクリエイターチームと、私たちMIGRANTで、また一緒に弥彦で素敵な空間をつくろう!と、なんとも嬉しい連絡をもらったのです。

この建物の中に入っている飲食店、三条スパイス研究所をコーディネートしたのがあゆみさんで、店内の家具やプロダクトの選定をしてくれたツバメコーヒーの田中辰幸さん、スパ研やえんがわのロゴデザイン・暖簾の製作などをしてくれたグラフィックデザイナー、K・ARTの関川一郎さんという、懐かしの大好きなメンバーが勢ぞろいして、2018年の4月に櫻家さんを訪問しました。

現地調査 櫻家旅館と弥彦の町並み

櫻家さんは弥彦駅の目の前にあるとても良い立地の老舗旅館。弥彦は新潟県の中でもトップの観光地で、パワースポットとして有名な弥彦神社もあり、温泉もあり、訪れる人は後をたたず、よくあるさびれた観光地とは違って人が来なくて困っているとかいう気配は全然なく、櫻家さんも馴染みのお客さんがたくさんいるようでした。それでも櫻家のご夫婦、憲太郎さんと志保さんは、長い目で見て考えると建物は少しずつ老朽化していき、自分たちの子供世代に継いでもらうまでには建物の機能を維持するために大規模の修繕が必要になるだろう、そのためにも今から少しずつ建物に手を入れていかなくてはならないと考えているとのこと。そのためにまずは初年度、限られた予算の中で最も効果のあるリニューアルを考えてほしい、というのが今回の依頼でした。それを念頭に、まずはみんなで旅館を一部屋一部屋を見せてもらいました。


まさに古き良き旅館、といったイメージ。古さめかしさや旅館らしすぎる仕上げなど、気になる点は多々あり、さてどうしようかなあ。旦那さんは上の方の長めの良い部屋をかっこよくしたいと言っていたけど、手を入れれば入れるほどお金はかかるし、はたして費用をかけただけの効果を得られるかどうか?悩みながら、次は弥彦の町へみんなで繰り出しました。

いつも新潟の美味しいものを食べに連れて行ってくれるあゆみさんが、この日連れて行ってくれたのは櫻家さんのすぐ近くのやまぼうしというわっぱめしのお店。美味しい、なにこれ、イクラの歯ごたえと青のりのとわっぱの風味が最高、おいしい、おいしい、おいしーい!と、弥彦の食を満喫しながらも、櫻家さんの空間についてみんなで相談。客室に手をいれるのが本当にいいかな?カフェとして使い始めている1階のロビーの部分、あっちのほうが効果はでるんじゃないかな?などなど。

カレー豆屋さんに寄ったり、お土産屋さんが並ぶ街並みを散歩したり、弥彦神社をまわったりして、最後は弥彦山へ。

珍しく佐渡まで見渡せる晴れ渡りっぷりでした。山に登ると気合が入ります。よし、がんばろう!

現地調査2日目で気づいた古き良き旅館らしさの魅力

櫻家さんに泊めていただき、ゆっくり過ごした次の日の朝。あゆみさんと、ロビーの空間を変えたほうが効果はでるんじゃないかという話を憲太郎さん志保さんにして、いろいろ検討してご提案します、ということに。MIGRANTは居残って2人で客室やロビーを実測。主要な寸法を取って、写真をたくさん撮って、現地調査はひと段落。疲れてロビーでのんびりさせてもらっていると、ふと、なんだかとても居心地が良いことに気づきました。

最初にこの空間を見たときは、一体なにから手をつけていいのか、どこまで手を入れれば素敵な空間になるのか途方もないような気持になったのだけれど、自分がゆっくりとそこに身を置いてみると、案外居心地が良くて好きになってきてしまった。古き良き旅館の、旅館らしい仕上げ。掃除が行き届いたキレイなロビー。たぶんたくさんの人がここでのんびりしてきたんだろうという雰囲気。なんかいいじゃんここ。このピンク色のカーペットも、最初ちょっとうーんと思ったけど、全然悪くない。むしろ、これを全部変えちゃったら、今の良さがなくなってしまって、昔からこの場所が好きだった人たちの足が遠のいてしまうかもしれない。良いものは活かしたほうがいい。活かせるアイディアを考えよう!

もうひとつ、私が気になって気になって仕方なかった場所が。櫻家さんの入口の横の駐車場。なにやらイケてる軒が出ている。でも普通に車が停めてあるし、洗濯機や自転車は置いてあるし、完全に裏方の空気。でも目の前のとちにもうすぐ足湯ができるらしい、駅の目の前、素敵な軒、なにこの場所超ポテンシャル高い!ということで、ここもなにか提案しようと胸に秘めて帰りました。

最初の提案

ちょうど一か月後の5月、最初の提案書をあゆみさんたちチームメンバーに送りました。4月の調査を経て、ロビーは5つ、客室は2つの要素に分けてリニューアルの手法を提案。全体の空間を考えながらも、それぞれ1つずつでもリニューアルとして成立するように、また、櫻家さんだけにとどまらず他の旅館さんでも同じようなリニューアルを展開できるようにと、わかりやすく応用しやすい要素に分解してまとめました。

イチオシは、例の駐車場になっていた場所に大きな暖簾とベンチを設置すること。やることは多くないけど、絶対目を引く素敵な場所ができます!と。チームのみんな大賛成してくれました。

暖簾ベンチと合わせて反対側の駐車場も提案。こちらはテーブルを置いて櫻家のカフェのごはんが食べられるようにしたかったのだけれど、暖簾ベンチほどのインパクトはなさそうなので見送り。

内部空間の目玉はこれ。床も、壁も、天井も、仕上げは全く変えずに、棚をつくってかっこいいものを置きましょう!かっこいいものを置けば、かっこよくなります!という提案。私たちは棚をつくることができて、モノのセレクトなどはセンス担当の田中さんにお任せできるという目論見もありました。仕上げをいじらないことで費用を抑えられること、棚の設置だけなら1日でできるので営業できない期間がないことも大事なポイントでした。

さて、家具はどうしよう。家具って高いんですよ。ソファーなんてとってもお高い。全部買い替えるなんてとても大変。なのでこのときはソファをちょっと入れ替えるような提案をしました。でもなんか、絵が自信なさげ、、笑

今期はロビーのリニューアルをしようということであゆみさんと意見はまとまっていましたが、今後のことも考えて客室の提案も一応しました。壁を一部取り外して小上がりを挿入する案など。

他にもいくつかの提案をしましたが、全部説明すると長くなるのでこれくらいで。興味がある方は提案書を見てみてください。
櫻家プロジェクト提案書1

検討を進める

最初の提案をもとに、概算を出したり工程を出したり内容を詰めたりして、暖簾ベンチの案と、棚をつくること、照明を変えること、などをやることが決定。7月半ばにもう一度みんなで集まって打合せをして、さらに検討を進めました。

ベンチは模型をつくって詳細図を書いて、家具屋さんに見積を依頼。

三角脚のシンプルなベンチのデザイン。シンプルにつくるのって、意外と難しいんですよ!

照明はまず模型をつくって、自分たちでモックアップをつくって細かい寸法を試行錯誤してから、図面にして見積を依頼しました。

置き型の照明って、案外良い既製品ないんです。だからつくることに。三兄弟にすると可愛い!と大盛り上がり。

モックアップをつくって検討

うちをカフェっぽくして大きさを検証してみたり

シェードを試作してみたり

そうしてようやく詳細図ができました。見積を依頼して、あゆみさんたちには提案書をつくってプレゼン。

最初の提案ではざっくりとしたイメージだったのを、今回は具体的に寸法やつくりかたまで検討した提案。みなさんとても喜んでくれました。頑張ったかいあったわー。
櫻家プロジェクト提案書2

本棚については、MIGRANTの商品として提案している積み板の棚でやったらどうか、という話をしました。

ベンチと照明は家具屋さんに発注すればあとは設置するだけだし、積み板の棚も発注して現地で積むだけ。これなら施工も1日2日で終わるので、営業に差支えないはず。だんだんと詳細が決まっていきました。

ロゴのデザインや暖簾の製作については一郎さんが、棚に並べるものについては田中さんが、さくらやカフェのメニューなどはあゆみさんが、みんなが自分の分野で考えつつ相談し合って連鎖的にプロジェクトが進んでいくのはとても楽しいです。10月頭には燕三条の工場の祭典が。それを目標に第一弾の変化をつけようということになりました。

家具をどうするか問題

設計も見積もまとまりつつあった7月末、あゆみさんから「まゆみちゃん、ロビーのテーブルどう思う?」という連絡が。正直私は今回はあきらめてたんですね。決められた予算の中でやる以上、中途半端に手をつけて変なことになるのも嫌だったし、棚でかっこよくできればある程度の変化を出せる自信はあったので。でもあゆみさんはどうしてもテーブルが気になって気になって仕方なかったらしい。ソファはいいような気がしてきたけど、テーブルが。とずっと言っている。そこはやっぱりコーディネーターとしてのあゆみさんの職能で、全体を見ての判断として、あのテーブルだけはどうしても変えよう!ということに。そこから、私たちはあの旅館らしいソファを残してテーブルだけを差し替えて全体をまとめるという難題と向き合うことになりました。

学生たちのパワーを借りて検討

棚は大体図面だけでも検討できるけど、テーブルって難しい。空間に対しての大きさとか、バランス。テーブルそのもののデザインも。これは模型をつくらないと確信をもって提案できない、でも空間の模型つくるの大変だなーと思っていた頃、ちょうど夏休みで、手塚事務所時代に仲良くなった学生さんが友達を連れてオープンデスクに来てくれることになりました。やったーちょうどいい!櫻家さんの模型つくってつくってーー!

マンパワーというのは素晴らしいですね。すぐに模型ができあがって、できあがった模型でテーブルの大きさや配置をあーだこーだ検討して、一気に検討が進みました。

MIGRANTはごはん付き宿付きという待遇で学生さんを受け入れております。若い子はたくさん食べるから料理もつくりがいがありました!

テーブルはまず10分の1のスケールでデザインを検討してから、50分の1の模型に入れてもらいました。高さや大きさなど、バランスを考えて決定!

全部学生さんたちがつくってくれました。ソファがリアル笑
みんなありがとう!!

そうしてできあがったのがこれらの提案資料でした。空間の模型があると説得力ある!
櫻家プロジェクト提案書3


テーブルの提案もうまくいったので、詳細の検討を進めました。モックアップをつくって、揺れや強度、脚の位置のバランスなどを検討。またまたオープンデスクの学生さんが大活躍でした。ありがとう!!

広い庭があって本当に良かったです。

三角脚シリーズでハイチェアもデザインしたのだけれど、どうしても割高になってしまったのでこれだけボツ。既製品のかっこいい椅子を田中さんが探してくれて、家具問題もようやく方向性がまとまりました。これが8月末のこと。工場の祭典まであと1ヶ月ちょっと!9月の前半は家具屋さんと図面のやりとりをして発注を無事済ませ、棚の材料も発注して、ほっと一息して私は2週間ほど休みをいただき知床エクスペディションへと旅立ったのでした。我ながら完璧な工程管理でした!
(施工編へ続く)

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