見出し画像

作り手も食べ手も、今こそ

相変わらず暗い状況が続いています。
私が見ている飲食やホテル、うつわの世界はさらに状況は過酷で、
残念なニュースや悲しい連絡が飛び込んでくる一方、
それに負けない方々によるハートウォーミングな活動の噂を聞いたりして
このところ、人とのつながりが一層濃くなったようにも感じます。

そんな最中、世界的なレストランアワード「アジアのベストレストラン50」の2020年の結果が発表されました。

今や「ミシュラン」と双璧をなす存在となった賞で、
「サンペレグリノ」「アクアパンナ」が国際スポンサーを務めており
これの親分的な大会が「世界のベストレストラン50」です。
コペンハーゲンの「ノーマ(noma)」を一躍世界のスターダムに押し上げた“張本人”が、これ。
日本からはまだ1位は誕生していないものの、アジアでは最多となる軒数がランクインしており、
ミシュランや食べログとは異なり、「フーディー」たちの投票によって選出されるレストランアワードとして、
私はこっそり

「食のパリコレ」と勝手に命名

して毎年結果を楽しみにしています。
今年の速報については、WEBマガジン「Premium Japan」や、「ELLE gourmet」で書かせていただきました。
よろしければご覧ください。

ところで。

今年は、にっくきコロのせいでオフィシャルでの開催が中止された「アジアのベストレストラン50」。
これまでは、シンガポールやバンコク、マカオなどのド派手な場所で華やかに開催されており
アフターパーティーと呼ばれる場では、世界中から集まるスターシェフやフーディーたちがドレスアップして集い、
互いの栄誉を称えたり情報交換するというのが恒例でした。

今年は、オフィシャル開催ではないということでしたが、日本からは12軒のレストランがランクインしました。
さらに特別賞である「アイコン賞」を京都「菊乃井」の村田吉弘さんが、
「ベストパティシエ賞」を東京「 été」の庄司夏子さんが受賞されるという快挙で、

12軒+2軒=14軒

つまり、日本で活躍する14人のシェフが国を超えて海外からも高く評価されたわけです。
彼らの栄光を讃えたいというメディアやフーディーたちが集まって、ごく小規模な授賞式が行われました。
式後のアフターパーティーは、過去に比べると茶話会のように控えめでハートウォーミングな会だったのです。
しかし、そこに集結した受賞シェフたちの強烈な個性を目の当たりにして、

シェフって本当、スターなんだな

と感じ入りました。

かねがね、シェフという人種は究極の個性派集団だと思っていたのですが、
「ベストレストラン50」にランクインするシェフたちはさらに、その傾向が強いような気がします。
今回、日本人女性として初めてこの壇上にあがった庄司夏子さんなどは、
長くいろんなシェフにお会いしてきましたが、明らかに今までいなかったタイプです。
料理の味わいやビジュアル、展開方法はもちろんですが、ファッションやメイク、言動などもぶっ飛んでいます(いい意味で言います!)。

いわば

人間の濃度が違う

ように思うのです。
庄司シェフのロングインタビューを書かせていただいた時は、
途中で酸欠のような息苦しささえ覚えるほどでした。

しかしふと見渡せば、会場に集ったフーディーと呼ばれる「食べ手」も、ひと昔前に比べるとずいぶん変わりました。
私のような「職業フーディー」とは違い、
シェフたちと同様のリミッターの外れっぷりで食を追いかける個性派が増えたような気がします。

●XILEのパフォーマンスアーティストとか、
女性誌やカルチャーマガジンで大活躍の若いフーディー女性、
大企業に勤めながら、会議の日以外はすべて食べ歩きに人生を捧げるレストラン修行僧のような方も。

かつて「レストラン」という場所では
作り手→食べ手という一方通行しかなく、
提供されるものは料理とサービス、それに伴う感動が主でした。
しかし

作り手も食べ手も、今やそれだけではない

……と気づかせてくれるのが、「ベストレストラン50」です。

作り手が次々に提供場所を変えてポップアップディナーを開催すれば、
それを追い求めて世界中移動する食べ手たち。
作り手に対し、他ジャンルから「組まない?」と声をかけ、
不思議で楽しいコラボレーションを実行してしまう食べ手たち。
予約困難店にようやく足を運んで、「ははぁ〜」と崇めながら食事を楽しむようなクラシックスタイルの食べ手もまだいるにはいるんですが、
これからの食べ手は、作り手を強力にサポートしつつ
ああでもないこうでもないと、共に語り合いつつ歩む存在になっていくんではないでしょうか。

この暗い状況は、当分続きそうです。

頑張って!とか、応援してます!とか言うんじゃなく、
一緒になって次に踏み出す、そんな食べ手になりたい。
どうすればいいんでしょうねぇ。

#料理 #レストラン #COMEMO

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。