見出し画像

レシピって誰のもの?

昨今、
個人情報や著作権、肖像権といったものがごく一般的な存在となりました。

では

レシピの著作権って誰にあるんでしょう?

個人的な見解かもしれないんですが、
おそらくメディアの側から言えば

レシピに著作権はありません。

うっそー。
これだけクリエイティブ関係の権利が厳しく問われる時代なのに?
料理家やシェフが骨身を削って創り上げる汗と涙の結晶なのに?
ですが、仕方ないんです。だってそもそも

レシピは真似してもらうためにある。

門外不出のレストランレシピなどを除けば、
ほぼすべてのレシピが最終的に

「みなさん、これ、すっごく美味しいのでぜひ作ってみてくださいね」という形でメディアに流れるわけです。

少なくとも、「この料理を作りたい場合、一回につき○○円お振込みください」というようなレシピは、今のところ見たことがありません。

テレビ、雑誌、書籍、オンラインメディア、SNS。
毎日世界中で何万ものレシピが披露され、消費されており、
オンラインやSNSに至っては、無料で公開されるものも多いのが現実
です。

レシピを求める私のような一般人にしてみたら、まさに天国。
しかし料理家視点で考えてみれば、苦労に苦労を重ねて完成させたレシピが、
思わぬところで他人の成果物として紹介されているのを目にしてしまったら……。
ショックだろうな。
私ならやっぱり頭にくるだろうと思います。

でも先日、この話題について、料理家/フードコーディネーターのSHIORIさんと語り合った時に
思わぬ気づきがありました。
SHIORIさんは、今では大人気の料理教室を主宰し、ヴィーガン料理店も経営されている実力派。
人気爆発のきっかけとなったのは「作ってあげたい彼ごはん」シリーズで、2007年の出版以来、累計400万部を超えるベストセラーとなりました。
ちなみにこんな部数を誇る料理本、他にはほとんどありません(コミックか!)。

当時、若干20歳だったSHIORIさんが、
「料理なんてしたことのない不器用女子でも、彼に美味しい料理を作ってあげられる本があればいいのに」と思い、
手書き(!)の企画書を出版各社に持ち込み、熱意を結実させて出版にこぎつけた本でもあります。
この本で紹介されているのは、
「どこのスーパーでも売っている一般的な食材で作れるもの」を用い(結果、人参、玉ねぎ、じゃがいも、豚肉が大活躍!)、
「若い男子や女子が口にして、素直に美味しい!と思えるわかりやすい味」を心がけ(ツウ好みのオツな酒肴とか、出てきません)、
料理人としてはまだ素人同然だったSHIORIさんが、知恵を絞り、何度も失敗を積み重ねて作り上げたレシピばかり。

なので、一見ごく普通の「肉じゃが」なんかにしても、けっこうな工夫ポイントが混じってるわけです。
ところが、そんな努力の賜物レシピも、SHIORIさんがその後海外料理留学などを実践して編み出したレシピも、
人気が高まるに従ってどんどん流出してしまう。
ベストセラーの料理本は、真似る人も多くなるので当然のことなのですが、
ブログ全盛期にのっかったこともあり、
思わぬ場所で思わぬ形に歪められてしまった自分のレシピを目にし、
戸惑われることも多かったのではないかと思います。

SHIORIさんは言います。

以前は、明らかに私のレシピだとわかるものが見覚えのない形で発表されているのを見ると、悲しい気持ちになったりもしました。でも、いつしか純粋に「作ってくれて感謝です。楽しんでくださいね」と思えるようになりました。なんででしょう、本当にそうなんです。
料理家としては少々複雑な気持ちもありますが、デジタル時代の無料コンテンツとして料理レシピほど適したものはありません。昔は拡散されるレシピを見るたび、「お金を払って書籍を買ってくださった方に申し訳ない」と思ったりもしましたが、最近では、無料公開されたレシピを楽しく作るうちに、それらをまとめた書籍が欲しくなり購入してくださる方もけっこういます。
結局、今の時代に家庭料理で勝負するのって、こういう覚悟も必要なんでしょうね。でも、本当に心血注いで編み出したレシピたち。時の流れに従って私も成長しているものですから、同じ料理でも材料の分量を変えたりもしています。定番料理が多いのですが「今までで一番美味しい!」と言っていただけたら、もうそれでいいやと思えちゃうんですよね。

パクられてナンボ、という、一種不条理な性格を持つ「レシピ」を武器に生きる料理家の覚悟に感動したのでした。

SHIORIさんのレシピも愛用していますが、割といい年こいた私、キッチンで最も出番が多いのが、先ごろ亡くなった名料理人、「京味」西健一郎さんの著書『日本のおかず』です。

飛んだ油やお醤油のシミで、表紙はもうぐっちゃぐちゃ。中のページもガサガサになってしまいました(写真)。

残念ながら生前の西さんにお会いすることは叶わなかったのですが、
氏が、昔の京都の夕餉支度や食材の知恵などのエピソードと共に書き綴ったレシピで料理を作ると、
安定した美味しさの奥に、西さんの存在を感じることがあります。
そこに著作権はないですが、料理家の死後もなお、誰かの日常に生き続けるレシピ。

料理家って、すごいよなぁ。

レシピって財産だよなぁ。

ほんと、尊敬してしまいます。
西さんに心から感謝。そして合掌。

#レシピ #料理 #推薦図書 #夏のオススメ


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。

ありがとうございます!本当にうれしいです。
163
【食の編集&ディレクション】『婦人画報』『ELLEグルメ』(ハースト婦人画報社)編集部を経て独立。明日食べるもの、行くべきレストラン、味わう酒について伝えたいことがあります。https://www.instagram.com/mayukoyamaguchi_tokyo/

この記事が入っているマガジン

#食の仕事
#食の仕事
  • 36本

シェフやソムリエ、料理家、ライター、スタイリストやカメラマンまで、「食べる」を取り巻く仕事は実はかなりのダイバーシティ★ワールド。自分を含め、この業界との関わり方を考えます

コメント (3)
料理家がどのようにしてレシピを考えるのか、その方法が気になります。ワタナベマキさんに質問したところ、「いつもレシピを考えていて試作しているので、うちの子供は普通の食事をしたことがほとんどありません」といったことをおっしゃっていました。レシピは偉大だし、確かに好きな料理家のレシピにいきつくことも真実かもしれません。
深いコメント、ありがとうございます。料理家って、たしかにずっとレシピのことばっかりおっしゃってる気がします。ここでご紹介したSHIORIさんも、撮影中に、試作でイイ感じに仕上がった楽しいお菓子とか、出してくださいました😊💕
ところで、ユニークな活動をなさってるんですね!注目したいです。
ありがとうございます。これからも記事を拝見させていただきます。よろしくお願いいたします。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。