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軽井沢では「そこらへんの花」をいけて即興のコーヒーを味わっています

軽井沢でIKERUレッスンを始めて数ヶ月。

花をいけるとは花をいかすということ。心を落ち着けて花に向き合い、個々の花をいかす先に、全体のバランスが自ずと現れてくる。そんな時間を純粋に楽しんでいただきたい。それがIKERUの願いです。

その願いのところ、なぜ私がこんなことをやっているのか、という部分は、東京でやっていた時と変わりはありません。

でも東京と軽井沢のレッスンでは進め方においていくつか異なる点があります。それは意識して変えた、というよりは、自然とそうなった、という感じの変化です。

東京都軽井沢の違い#1:いけている花

違いの一つに、買ってきた花ではなく「そこらへんの花」をいける、があります。

軽井沢にはそこかしこに空き地や、誰かが所有しているんだろうけれどしばらく誰も足を踏み入れていなさそうな土地が、ぽこぽこあります。そして、あたたかい時期は、そうした場所に、ものすごい勢いで草や花が生えています。植物識別アプリでみてみるとほとんどが「侵襲的!」と表示される、生命力ありすぎのThe雑草ですが、よくよく見ると花が可憐だったり面白い葉の形をしていたりする。

秋になると、植物の勢いは減ってきますが、その代わり葉が赤くなり、実がなり、穂がふわふわ、と表情が多様化してきます。

そして冬。寒い軽井沢は常緑樹や一部のツタ植物を除き、ほぼ完全に枯れます。日々歩いてその様子をみているうちに、枯れ姿こそがなんとも美しい、と気づくようになりました。一度気づくと、そこら中がいけられるもので溢れているように見えてきます。

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枯れて雪をかぶったアザミ。美しい。

また、花や樹木を育てているご近所さんが、間引きや整備のために刈って捨てている枝や花なんて、もう宝の山にしか見えなくなってくる。

栽培されたどれもしっかりと見事に美しい花をいけるのはとても素敵な時間です。でもこうしてあちこちで採ったり拾ったり(漁ったり)してきた花やら何やらをいけるのも、究極の一期一会で、格別な経験になります。

夏は野の迸る生命力に対峙して、まるで全身で運動したときのような体当たり感を味わう。

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8月。辰巳真理子さんの作品

秋は紅葉やススキの穂の豊かさにわくわくしながら、同時にもうすぐ葉も穂も散っていくことを感じてしみじみする。

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10月。小澤ゆみさんの作品

冬は枯れた花のちいさな小さな声に耳を澄ませているうちに、心が次第に冬の空気のように透き通っていく気分になる。

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12月。井上沙織さんの作品

そして、どんなに花の季節がうつろおうと、9月からレッスン場所として使わせていただいている、私たちの家の大家さんがオーナーの築150年の古民家コワーキング「緑友荘だと、夏の草から枯れた花まで不思議となんでもマッチするのです。古民家の懐の深さ。どんなものも合わせてしまう歴史の重み。

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緑友荘(写真:玉利康延)

東京都軽井沢の違い#2:コラボレーション先

もう一つ、いけた後に味わうもの、いけた体験をより深めてくれるコラボレーション先が異なります。

東京の時は、毎月のテーマの花を決めはなどんやさんから花を購入していました。そして、Y-anにテーマの花のデザインで和菓子を作っていただいていました。「自分がいけた花を今度は和菓子として食べて味わうことで2度楽しむ」という至福。いけばなと和菓子のコラボレーション。

軽井沢で生まれたコラボレーションが、コーヒーです。緑友荘に2019年2月に焙煎所を開設した焙煎人のNAKAJIさん。

ある日、NAKAJIさんがコーヒーのことを熟考している場面にたまたま遭遇。その姿はまるで座禅をしている禅僧、作曲をしているアーティストのようでした。勝手にぴんときて焙煎所に押しかけ、その後コーヒーをレッスンで出していただくことに。

先ほど書いたように、軽井沢では「そこらへんの花」を私が朝に採って持っていくので、その日何の花をいけるかはレッスンが始まるまでわかりません。NAKAJIさんは、レッスンの途中で静かに焙煎所から出てきて、私がデモでいけた作品の前でじっとたたずみ、その後焙煎所に戻って、即興でコーヒーを作って淹れて、みんながいけ終わる頃に出してくださいます。

どの豆を使うのか、どう焙煎するのか、どういう温度にして、どういう淹れ方にするのか。

NAKAJIさんは花から受けたインスピレーションをもとに、花をいける過程で味わった感覚と合うようなコーヒーはこれかな、というのを無数の変数の中から選び出して組み合わせて作り出してくださいます。

NAKAJIさんの長年の経験を元に、直感と論理を何度も(短時間で)行き来してできあがったコーヒーは、毎回驚くほどに違う形で心に響き、身体に染みてきます。秋が終わっていくことを深々と感じてふと涙が出る時もあれば、飲んだ瞬間に楽しさが炸裂して笑い出してしまった時もありました。

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いけた時間をコーヒーを通じて追体験する。そんないけばなとコーヒーのコラボレーションです。

ということで、軽井沢では「そこらへんの花」をいけて、そのいけた時間をNAKAJIコーヒーを通じて追体験するというIKERUをやっております。

2021年は状況が不確実なため、とりあえず待機中ですが、落ち着いてきたらまたゆるやかに、花をいける時間をみなさまと一緒にコーヒーと共に味わえたらと思っています。


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